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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
終末時計が告げる刻~キューバ危機~
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63,天使のラッパは誰が吹く?

キューバ危機は、主にアメリカパートではメアリー(大統領秘書)のメモベースで実際の出来事を、キューバパートでそれを受けたキューバの反応を描きます。


この話は、30年後明らかになった新しい史実もおりこみます。


終末の合図はならされるのか――。

【1962年10月25日/ニューヨーク・国連本部】


国連安全保障理事会の議場は、凍りつくような緊張感に包まれていた。

アメリカのアドライ・スティーブンソン国連大使が、鋭い視線をソ連のワレリアン・ゾーリン大使に突き刺し、静かに、しかし圧倒的な威圧感を持って口を開いた。


「キューバにミサイルを配備したのですか? 通訳は必要ない! イエスかノーでお答え下さい。」


対するゾーリン大使は、苛立ちと焦りを隠せない様子で吐き捨てた。


「私はアメリカの法廷に立たされているのではない。」


「あなたは今、世界世論の法廷に立たされているのです。」


スティーブンソンは一歩も引かない。


「そんな検事のような質問をされてもお答えすることはできない。」


ゾーリンの苦しい逃げ口上に対し、スティーブンソンは歴史に残る一喝を放った。


「地獄の業火が凍りつくまで回答をお待ちしますよ ( I am prepared to wait for my answer until Hell freezes over. )。」


この息詰まる駆け引き国連の議場で、スティーブンソンは、キューバのジャングルにミサイル基地が建設されている決定的な証拠写真を突きつける。

世界中のカメラが現在の状況を白日の元にさらす。


ソ連が回答を拒絶した事実――


それこそが逆に、キューバへのミサイル配備を誰の目にも明らかな「決定的な真実」として世界世論に知らしめた瞬間だった。


※※※※※※※※※※


【同日/ワシントンD.C. ホワイトハウス】


[メアリーの手帳:第10日目の詳細録]


【事象】

国連でのスティーブンソン大使の演説により、我々は世界に証拠を突きつけることに成功した。

ソ連が事実を認めなかったことで、逆にミサイル配備は決定的なものとして世界中の認識するところとなった。


【感情】

ホワイトハウスの閣議室は、歓喜に沸いた。

タカ派の将軍たちでさえ、「これで大義名分は整った。モスクワが屈服するのも時間の問題だ」と誇らしげに胸を張っている。CIAの分析によれば、キューバに隠れているソ連兵はせいぜい数千から一万人規模。


閣議室で、ある将軍が吐き捨てた言葉を私は手帳に記した。

『現地のキューバ兵など、数を集めただけの烏合の衆だ。万が一、モスクワとの交渉が決裂したとしても、あの素人集団がソ連軍の基地を制圧して我々に抵抗するなど物理的に不可能である』と。


【まとめ】

見えない船への恐怖に怯えていたパニックは去り、大統領の表情にも自信と余裕が戻ってきた。事態はすでに、我々が圧倒的優位に立つ「政治と外交のチェスゲーム」へと移行している。


だが――私は、この閣議室に蔓延する楽観論に、背筋が凍るような違和感を覚えている。

エリート軍人たちは、ソ連兵の「数」ばかりを気にし、現地のキューバ人を完全に舐め腐っている。彼らはキューバ革命の歴史を忘れているのだ。


わずか6年前。フィデル・カストロとエルネスト・ゲバラは、上陸部隊の生き残りであるたった「12人」の兵士だけでジャングルに潜伏した。そして、その12人が細胞分裂のように自己増殖し、圧倒的な熱狂で農民たちを巻き込みながら、最終的に3万人を擁するアメリカの後ろ盾(バチスタ政権)を完全に打ち倒してみせたのだ。


あの異常な求心力を持つ男たちが、祖国滅亡の危機に際して「素人の烏合の衆」しか集められないはずがない。

大国同士が優雅なチェスに興じている間、あの島に取り残された彼らが、大人しく盤面から降りるはずがないのだ。


※※※※※※※※※※


【1962年10月26日/キューバ・ハバナ 革命宮殿(および西部軍前線基地)】


『“イエスかノーかで答えろ……”か。随分と安い三文芝居だな。どうやら核弾頭がもうすでに配備されていることまではしらないようだな。』


執務室の軍用無線からノイズ混じりで響くその声は、最前線ピナール・デル・リオで実戦部隊の指揮を執るエルネスト・ゲバラのものだった。


『ワシントンの連中は、自分たちが世界の主導権を握り、優雅なチェスゲームでソ連をチェックメイトした気でいる。

モスクワさえ撤退させれば、我々だけで抵抗することなど不可能だと高を括っているのだろう。』


「ああ。ヤンキーどもは“キューバ兵は烏合の衆だ。核はソ連が握っているから安全だ”と思い込んでいるのだろう。

だが、お前が指揮する西部軍を含め、我々はすでに10万以上の武装兵力を配備済みだ。」


フィデル・カストロは、窓辺で深く葉巻を吸い込み、無線の向こうの盟友へ獰猛な笑みを向けた。


「もしモスクワの腰抜け共が我々を裏切り、アメリカに屈服するようなことがあれば……その時は、我々の圧倒的な数の部隊でソ連のミサイル基地を飲み込むまでだ。」


『フィデル、島には完全武装したソ連の正規軍が4万もいるんだぞ。いくら我々が10万いるとはいえ、核のロック以前に、基地を奪おうとすれば同盟軍同士で血みどろの殺し合い(内戦)になる。』


「それこそが狙いだ、ゲバラ!」


カストロは極めて冷酷に、だが燃え盛るような声で答えた。


「10万のキューバ軍と4万のソ連軍が、核弾頭の上で文字通り血みどろの殺戮戦を演じる。その極限の死闘の中で、我々がソ連の技術者どもに銃口を突きつければどうなる? 現場は完全にコントロールを失う。恐怖と大パニックの混沌カオスの中で……必ず何発かの引き金は引かれる。

我々はすでに、奴らの喉元に150発の『破滅の火種』を突きつけているんだ。」


味方であるはずのソ連軍4万との死闘すら厭わない、狂気じみた血の覚悟。

カストロは窓の外に広がるハバナの街並みを見下ろし、その目に静かで、しかし途方もなく深い憎悪の炎を宿した。


「革命前のこの島は、アメリカの巨大資本に貪り食われるだけの巨大な農園であり、マフィアどもが支配する娼館とカジノの島だった。……一部の富裕層がヤンキーどもとグラスを傾けている裏で、我々の同胞がどれだけ飢え、泥水をすすり、理不尽に殺されてきたか。ワシントンのエリートどもには一生分かるまい。」


カストロはギリッと奥歯を噛み締めた。


「俺たちは二度と、この国を奴らの都合の良い遊び場(植民地)にはさせない。核の炎でこの島ごと消滅しようともな。そのために血を流して革命を起こしたのだ。」


『……キューバ生まれのあんたらしい、立派な愛国心だ。』


無線の向こうで、アルゼンチン生まれのゲバラはふっと冷ややかな笑い声を漏らした。


『だが、俺にとってこの国の過去はどうでもいい。俺が見ているのは未来だけだ。』


「未来、だと?」


『ああ。……カリブに浮かぶこのちっぽけな島国が、巨大な帝国に一泡吹かせてやる。その事実こそが、南米をはじめとする、世界中で虐げられている第三世界の同胞たちに「帝国は倒せる」という勇気を与えるんだ。』


ゲバラの声は、冷徹でありながら、底知れぬ革命への熱を帯びていた。


『新たな世界を生み出すための巨大な火種になれるなら、ソ連軍との同士討ちだろうと何だろうと、俺は喜んで悪魔の火を使ってやるさ。』


「……フッ。お前も大概、最高にイカれてるな。」


カストロは思わず吹き出し、短くなった葉巻を灰皿に押し付けた。


「ああ。……チェ、通信を切るぞ。今から執務室にモスクワの駐在武官アンバサダーを呼んである。国連で赤恥をかいたフルシチョフが我々を売り渡す前に、こちらから『最後の手札』を切る。」


無線のスイッチを切ったカストロは、部屋の隅で所在なげに立っていた駐キューバ・ソ連大使、アレクサンドル・アレクセーエフを振り返った。


「大使。モスクワのフルシチョフ書記長へ、至急の親書を打電してくれ。私が口述する。」

「は、はい。カストロ議長。」


アレクセーエフ大使は手帳を開き、ペンを構えた。カストロは部屋の中をゆっくりと歩きながら、歴史に残る苛烈な書簡――のちに『アルマゲドン・レター(破滅の親書)』と呼ばれることになる文章を口述し始めた。


「『親愛なるフルシチョフ書記長。帝国主義者たち(アメリカ)がキューバに侵攻してくる危険性は、かつてなく高まっている。もし彼らが我が国に軍事侵攻を行うならば――』」


カストロは一度言葉を切り、葉巻の煙をゆっくりと大使の顔へ向けて吐き出した。


「『――ソ連は決して、ためらうべきではない。彼らが再び世界に脅威を与える前に、核兵器による先制攻撃をもって、帝国主義者をこの地上から永遠に消し去るべきである。』」


大使のペンが、ピタリと止まった。

アレクセーエフは顔面を紙のように蒼白にさせ、震える目でカストロを見上げた。


「ほ、本気ですか、議長……! これを送れば、キューバも確実に核の報復を受けて灰になりますぞ!」


「当然だ。」


カストロの表情に、一切の迷いはなかった。そこにあるのは、純粋で狂気じみた覚悟だけだった。


「『キューバ人民は、社会主義陣営の勝利のためならば、自らが核の炎に焼かれる(犠牲になる)覚悟ができている』……そう書き足してくれ。」


カストロは、怯え切った大国の特命大使を見下ろし、そしてワシントンの空を睨みつけるように窓の外を見据えた。


「アメリカがこの島に一歩でも足を踏み入れた瞬間、我々は大国どもから主導権を奪い取り、第三次世界大戦の引き金を我々の手で引いてやる。……搾取されるだけの防戦一方の小国だと思ったら大間違いだと思い知らせてやる。」


震える手でペンを走らせるソ連大使の横で、カストロは冷酷に微笑んだ。


アメリカが「外交と包囲網」で勝利を確信していたその裏で、孤立無援のキューバは長年の抑圧への怒りと自らの命をチップに積み上げ、大国ソ連すらも恐怖で震え上がらせる「究極の反撃アルマゲドン」の準備を静かに完了させていた。

国連の伝説的なやりとり。しかし、アメリカは読み違いをしています。本当のことを知る、キューバとソ連。次回はこの出来事の際の世界のパニックを紹介します。


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