40,砂糖の上の嵐
1960年当時の世界的カリスマ思想家「サルトル」がキューバ政府に招かれます。
この章では、サルトルのキューバについてのレポート「砂糖の上嵐」と同行ボーヴォワールの証言から当時のキューバの現状とカストロとゲバラの人間を紹介します。
(彼の滞在は1ヶ月ですが、コンパクトにまとめてます)
夜の港へ向かう。
海風には、砂糖の甘い匂いではなく、鉄と油の匂いが混じっていた。
隣で彼女が呟く。
「ねえ。今日の二人。どっちが正しいの?」
私は答える。
「正しさじゃない。役割だ。
カストロはエンジン。ゲバラはブレーキとハンドル。
国を動かすには速度がいるが、道を外れないためには痛み(規律)がいる。」
その時だった。
視界が真っ白になった。
音よりも先に、衝撃波が内臓を叩く。
――ドォォン!!
遅れて、鼓膜を引き裂く爆音。
ガラスが粉々に砕け散る音。
港の方角から、巨大な火柱が上がった。
原因は分からない。
だが、分からないという事実が、背筋を冷やした。
「……っ!」
黒い煙が夜空を裂く。
匂いが一変した。
肉の焼ける匂い。
火薬の匂い。絶叫。
カストロが叫び、指揮を取り、群衆を割って進む。
ゲバラが命令し、黙って運び、血で滑る床を踏む。
ここにはもう、スローガンはない。
あるのは、人間だけだ。
彼女が私の袖を掴む。顔が青ざめている。
「ねえ、これが……。」
私は瓦礫の中で確信する。
これが「帝国主義」の正体だ。
宣伝ではない。
――物理的な破壊力だ。
「人間は出来事で決まらない。
出来事のあとに、何を選ぶかで決まる。」
私は自分に言い聞かせるように彼女に呟いた。
「この悲劇のあとに、何を選び取るか。
復讐か、屈服か、それとも建設か。
その選択だけが、人間を作る。」
炎の前で、カストロが叫び、ゲバラが負傷者を運んでいる。
今、革命は、書物の中の言葉ではなくなった。
血を流す、生々しい身体になったのだ。
※※※※※※※※※※
帰りの機内。
窓の外は、再び単調な雲海だった。
熱帯の色彩はもうない。
彼女が低い声で言う。
「結局、あれは何だったの?」
私は即答しない。
手にはまだ、あの爆発の熱が残っている気がした。
「イデオロギーの対立ではない。
制度と人間の戦いだ。」
「制度?」
「人間の顔を借りて、人間を支配し搾取する仕組み。それが制度だ。
キューバは今、剥き出しの人間でそれに抵抗している。」
「人間は、勝てるの?」
「危ういな。」
私は窓の外を見た。
雲の下に、あの小さな島があるはずだ。
「人間は疲れる。人間は間違える。
だが制度は疲れない。
彼らの『純粋さ』が、いつか彼ら自身を焼き尽くすかもしれない。」
彼女は手帳を閉じた。
「でも、この旅でいろいろ見たわね。」
「ああ、見た。」
「嘘は書かない?」
「書かけない。
私は目撃者だ。裁判官ではない――」
飛行機は欧州へ向かう。
私たちは「安全な」場所へ戻る。
だが、私の網膜には、あの二人の男の姿が焼き付いて離れなかった。
その後、サルトルは、フランスの新聞「フランス・ソワール」でこの旅の出来事のルポタージュ『砂糖の上の嵐』を16回に渡って連載。若い第三世界の革命の出来事はフランスで話題となります。
その後サルトルは1964年様々な文化・思想への貢献が認められ『ノーベル文学賞』をとるのですが、辞退。彼自身も一本筋が通った人のようですね。
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