38,海の向こうの帝国
1960年当時の世界的カリスマ思想家「サルトル」がキューバ政府に招かれます。
この章では、サルトルのキューバについてのレポート「砂糖の上嵐」と同行ボーヴォワールの証言から当時のキューバの現状とカストロとゲバラの人間を紹介します。
工場から離れジープはまた走り出す。
海が見える場所に出ると、湿気がさらに重くなった。
潮風がベタつく。
水平線の向こうには、鉛色の雲が垂れ込めている。
訓練場では、若者たちが古いライフルを磨いていた。
掛け声。砂埃。
革命の「肉体」がここにある。
カストロは彼らの間を歩き、銃の構えを直し、靴紐の緩みを指摘する。
細かい。執拗だ。
「遊びじゃない!来る!来ないと思うな!」
私は聞いた。
「誰が来る?」
「強い国だ!」
彼は国名を言わない。
まるで自然災害のように、それを語る。
「帝国主義は国名じゃない!支配のやり方だ!
我々はあらかじめ金と噂を使う!計画を遂行する!
銃は最後だ!」
「銃が出た時点では?」
「計画は半分終わってる!」
彼は海を指差した。
その指の先には、見えない巨大な存在がいる。
「弱い国が勝手に独立すると見本になる!希望になる!
希望は世界へ広がる!
だから俺たちを奴らは潰す!
道徳の話じゃない!システムの話だ!」
「どう生き残る?」
「独りぽっちにならないことだ!」
彼はもう一つの大国(ソ連)の影をちらつかせた。
だが、そこに信頼はない。あるのは計算だ。
「助けは必要だ!条件つきでもな!
だが信仰はしない!信仰した瞬間、首輪をつけられる!」
海風が強くなる。
私は眩暈を覚えた。
この男は、世界地図の上でチェスをしている。
盤上の駒は、この国の人々の命だ。
「小国は、願いじゃ生きられない!選択で生きる!
選んだら、余計なことは考えない!」
カストロの声が風に消える。
彼の強さは圧倒的だが、圧倒的な暴力の前では無力だともいえる。
私は圧倒的な暴力を知ってる。つい最近も世界は大きな戦いの渦に巻き込まれ、多くの人間が一瞬で命を落とした。
彼の言葉は強い。
その強さに見え隠れする矛盾もまた、巨大になりつつある。
その矛盾の中彼はどう舵取りをしていくのだろうか?
彼らの国が生み出す「砂糖」は今大きな嵐に巻き込まれようとしている。
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