37,不正と行列~人間こそが最大の資本~
1960年当時の世界的カリスマ思想家「サルトル」がキューバ政府に招かれます。
この章では、サルトルのキューバについてのレポート「砂糖の上嵐」と同行ボーヴォワールの証言から当時のキューバの現状とカストロとゲバラの人間を紹介します。
農園を出てジープは走り出す。
街へ近づくと、風景が変わった。
土の匂いが消え、代わりに錆びた金属と廃油の匂いが漂う。
工場の煙突から、頼りない煙が上がっている。
カストロが言った。
「農地は戻した! 次はここだ!
外国資本を追い出すのは簡単だ! だがそれだけは、機械は動かない!」
私は聞いた。
「切れば止まる。当たり前だ。」
「止まる!そうならないように、段取りを組む!」
彼の声には、焦燥と自信が同居している。
「部品が止まる!港で止まる! 金の流れで止まる!
止まる場所が分かっていれば次の手が打てる!」
工場の門の前には、長い行列ができていた。
労働に対しての対価を待つ人々だ。
苛立ち。汗。疲労。
革命の現実は、美しいスローガンではなく、この「待たされる時間」にある。
彼女が皮肉っぽく呟く。
「理想は高いけど、現実は渋滞中ね。」
カストロはジープを降り、列の中へ入っていった。
揉め事が起きている。
「誰かがズルをしている」
「隠している」
という疑心暗鬼の声だ。
支配者が消えたあとの空白地帯では、隣人が敵に見える。
カストロは声を張り上げた。
「犯人探しを先にするな!!」
誰かが反論する。公平ではない、と。
カストロは議論を許さない。
「今の話は二つだ!
足りない理由と配る手段だ!
ルールをつくろう!
怒りをぶつけても腹は満たされない!
君たちが腹を空かしたままだと奪われていた時代と何一つ変わらない!
今必要なものはひとつ!新しい手続きだ!」
彼はその場で責任者を指名し、ノートに記録させ、倉庫の鍵の所在を確認させた。
「正義」を語る前に、「手続き」を作ったのだ。
ジープに戻ると、彼は夕日で赤く染まった工場を見上げて言った。
「人間にとって最も重要な資本は金ではない!
人間こそが、最大の資本だ!」
美しい言葉だ。
だが、その言葉の裏には、「人間を資源として使い潰す」危うさが見え隠れする。
彼にとって国民は、愛する対象であり、同時に国家の指導者として発展のための燃料でもあるのだ。嵐はこの国の外から襲うのか。それとも彼自身が嵐なのだろうか。
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