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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
不死鳥の国日本へ~日本とゲバラ編~
34/41

33話 S2のレンズは嘘をつかない。

ゲバラ日本編は残すところあと2話。

日本を出たゲバラ。キューバがとった大きな選択とは?

【1959年8月〜9月 世界各地】


日本を離れてからの俺は、何かが吹っ切れていた。


インドネシア、パキスタン、インド、エジプト、ユーゴスラビア……。

俺たちは地球を半周する旅を続けた。


「砂糖を買ってくれ。」


その言葉は変わらない。

だが、俺の目は冷徹に世界を見定めていた。


カイロでナセル大統領と会い、ベオグラードでチトー大統領と握手をした。

彼らは「第三勢力」の英雄だ。


だが、彼らでさえも、大国という巨人の影に怯えているのが分かった。


(……これでは、ダメだ。)


俺は悟った。

「良い友人」を作って生き延びる道など、キューバには残されていないのだと。


※※※※※※※※※※


【1959年9月8日 キューバ・ハバナ】


長い旅を終え、俺たちはハバナのホセ・マルティ空港に降り立った。

タラップの下には、見慣れた相棒が待っていた。


オリーブグリーンの軍服。

モジャモジャの髭。

葉巻を咥えた、我らがボス。


カストロだ。


「ゲバラ! おかえり!」


カストロは俺を見つけるなり、熊のような抱擁で迎えてくれた。


「どうだった、世界は? 砂糖は売れたか?」


「ああ、売れたよ。ノルマは達成だ!」


「ガハハ! さすがだ。医者にしておくには惜しいセールスマンだな。」


※※※※※※※※※※


車に乗り込み、ハバナの官邸へ向かう車中。

俺たちの表情から、笑顔が消えた。


「……カストロ。報告がある。」


「なんだ?」


「日本も、アジアも、素晴らしい国だった。だが、彼らは大国のおりの中にいる。いざとなれば、彼らは俺たちを見捨てるだろう。」


「だろうな... 」


カストロが短く答える。


「俺たちが生き残るには、アメリカの経済圏の外に出るしかない。……毒を食らわば皿まで、だ!」


俺は、旅の間ずっと考えていた「結論」を口にした。


「――ソ連だ。」


カストロの目が鋭く光った。


「ソビエトと組むのか? アメリカが許さないぞ。」


「ああ、許さないだろうな。だが、アメリカという巨人に喧嘩を売って生き延びるには、もう一匹の巨人を味方につけるしかない。」


俺は窓の外を睨んだ。


「誤解するなよ。俺から言わせれば、ソ連も帝国主義の片割れだ。小国を支配したがる点では、アメリカと変わらん。」


「だが、盾にはなる。」


「ああ。使えるものは悪魔でも使う。それが政治だろ?

それに、アメリカは決して一枚岩じゃない。

最大の敵は――奴らの無関心。」


カストロは不敵に笑い、葉巻の煙を吐き出した。


「いいだろう。派手に目立って、アメリカの裏庭で、赤い熊とダンスを踊ってやろうじゃないか。」


方針は決まった。

俺たちは修羅の道を行く。

世界中を敵に回しても、この革命を守り抜くために。


ふと、カストロが俺のカメラに目を留めた。ニコンS2だ。


「そういえば、ソ連と組むなら、カメラも向こうの『キエフ』か『ゼニット』に変えた方がいいな。プロパガンダ的に。」


カストロの言葉に、俺は首を横に振った。


「断る。俺はこのあとも、こいつ(ニコン)を使うぞ。」


「なんだと? 性能はソ連製も悪くないはずだ。」


「悪いが、レンズの切れ味が違う。それに、このファインダー越しに見る世界は、嘘をつかない気がするんだ――。」


俺は愛機を愛おしそうに撫でた。

ヒロシマの影を、日本の職人の魂を焼き付けたこのカメラだけは、手放せなかった。

たとえ政治的に、日本と敵対する陣営に身を置くことになっても。


カストロは呆れたように肩をすくめた。


「……ああ、好きにしろ。だが、公式の場ではソ連製を持ってくれよ。国家の命運がかかってるんだ。」


「分かってるよ。写真は『トリミング』すればいいんだろ?」


俺たちは顔を見合わせ、ニヤリと笑った。


※※※※※※※※※※


【日本編エピローグ】


来日の8年後の1967年10月。

ボリビアの山中。


政府軍との絶望的なゲリラ戦の末、一人の革命家が捕らえられ、処刑された。

エルネスト・チェ・ゲバラ。享年39歳。


彼の遺品が入ったリュックサックが、兵士たちによって回収された。

中身はわずかな日記帳と、数冊の本。

そして、泥と傷だらけになった一台のカメラ。


それは、ソ連製のカメラではなく、日本の「ニコンS2」だった。

次回、日本編グランドフィナーレです。


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