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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
不死鳥の国日本へ~日本とゲバラ編~
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31話 影の告発

広島編はかなり私なりの解釈が入ってます。

読みやすいように、史実では広島市長や職員、新聞記者、様々な案内人が出てくるのを一人としてます。

【1959年7月24日 広島平和記念資料館】


館内を出ると、外はまだ明るかった。

だが、俺の視界は曇っていた。

焼け焦げた子供服。溶けたガラス瓶。

ガラスケース越しの「死」の羅列に、言葉を失っていたからだ。


「さあ、これで視察は終了です。ホテルへ……」


東京の役人が、やれやれといった顔で車を呼ぼうとする。

その時だった。


「……もう一箇所。すぐ近くです」


案内役の広島の職員が、低い声で言った。

東京の役人が眉をひそめる。


「もういい時間だし、予定にない。団長はお疲れだ。」


「すぐそこです。……どうしても、見ていただきたいものがあるんです」


広島の男は譲らなかった。

その目には、資料館の中にいた時と同じ、静かな鬼火のようなものが宿っている。

俺は直感した。

この男は、俺に「ガラスケースの外」にあるものを見せようとしている。


「案内しろ」


俺は短く告げた。


※※※※※※※※※※


案内されたのは、街中にある銀行の前だった。

住友銀行広島支店。

営業中の、なんの変哲もない建物だ。


「ここに、何があるんだ?」


俺がいぶかしげに尋ねると、男は入り口の石段を指差した。


「ここです」


俺は近づき、石段を見下ろした。

人々が行き交う足元。

そこに、奇妙な黒いシミがあった。


ただの汚れに見える。

だが、よく見ると、その形は――


「……人か?」


俺は息を呑んだ。

誰かがそこに座っていたような形をして、黒く焼き付いている。


「あの日、開店前にここに座っていた人がいました」


男が静かに語り始めた。


「原爆が炸裂した瞬間、強烈な熱線がこの石段を焼きました。ですが、人が座っていた部分だけは熱線が遮られ、周りの石が白っぽく焼ける中で、そこだけが黒い影のように残ったのです」


俺は膝をつき、そのシミに触れようとした。


「その人は?」


「……分かりません。誰だったのかは。そこまでは、もう……」


指先が震えた。


死体ですらない。

苦しむ間もなく、悲鳴を上げる間もなく。

人間という有機物が、ただの炭素の染みになって石にこびりついている。


これは「戦争」じゃない。

人間を、モノとして処理する「消し跡」だ。


俺の背筋に、戦慄が走った。

資料館で感じた恐怖とは質が違う。

ここは、日常の風景の中だ。

銀行に来る客が、毎日この上を歩いている。

この街の人々は、この「消滅の痕跡」と隣り合わせで生きているのか。


※※※※※※※※※※


ふと横を見ると、東京の役人は視線の置き場がなさそうだった。早く終わらないか――そんな感じだ。


その姿を見た瞬間、俺の中で何かが切れた。


こいつらは、痛みを感じないのか。

同胞が、ただの影に変えられたんだぞ。

それなのに、なぜ「友好」だの「復興」だのと、綺麗事を並べていられる!


人類史上、最も一瞬の大量死が起きたという事実が、頭から離れない。


これは「戦争」じゃない。


人間が、人間のまま――世界から消えていく。その痕跡だ。

……いや、違う。


一番許せないのは、こいつじゃない。

(俺だ……!)


違う。俺が怒ってるのは、あいつらだけじゃない。

……黙って飲み込んでた俺自身だ。


その「世界の力学」の顔色を伺って、俺もまた、そこに座ろうとしていたんじゃないか――


俺は拳を握りしめた。

爪が皮膚を裂き、血がにじむほどに強く。


俺は何をしていた?


大阪でステーキを食い、京都で酒を飲み、芸者の踊りを見て喜んでいた。

東京ではネクタイを締め、通産省の役人と「砂糖を買ってくれ」と頭を下げていた。


外交官?

通商代表団?


ふざけるな。

俺はいつから、そんなつまらない男に成り下がったんだ。

人間が一瞬で「影」にされるような理不尽な暴力が、この世界にはまだ厳然と存在しているのに。


その「世界の力学」の顔色を伺って、俺もまた、そのシステムの一部になろうとしていたんじゃないか?


俺は「戦っている」つもりでいた。

だが、本当は何もしていなかった。

この「影」になった人たちの前で、俺はただの、薄汚いピエロだったんだ。


自分への激しい嫌悪が、マグマのようにこみ上げてくる。

許せない。

世界も、この理不尽も、そして何より――戦うことを忘れて「外交ごっこ」に興じていた、今の自分が!


そして、自分でも制御できなくなるほどに、俺は叫んでいた。

政治的なメッセージではなくかなり私の解釈で書いてます。

史実は一つだけど、内心は検証できないので。。。

それが歴史ものの難しいところでもあり楽しいところですね。


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