29話 商人と革命家
クボタの重機にはゲバラ感動したみいですね。
サトウキビ畑がメイン産業。今でも第一線で活躍してるようですね。
【数日後 大阪・堺市】
「団長! いい手つきですね!」
オマールが歓声を上げる。
俺は今、大阪の堺市にある久保田鉄工の工場で、最新式の農業用トラクターのハンドルを握っていた。
ブルルン、とエンジンが唸る。
小さいが、力強い。
キューバの農地改革には、巨大なアメリカ製よりも、この小回りの利く日本製のほうが合っているかもしれない。
「気に入りましたか?」
案内役の工場長が、日焼けした顔で笑いかけてくる。
愛知の職人たちが「寡黙な侍」だとしたら、ここの男たちは「陽気な商人」だ。
「ああ、素晴らしい。値段次第だがな」
俺がジョークを飛ばすと、ドッと笑いが起きた。
※※※※※※※※※※
その夜。
俺たちは大阪市内の料亭で、関西の財界人たちとテーブルを囲んでいた。
集まっているのは、三菱重工、繊維、造船……日本の復興を牽引する企業の幹部たちだ。
「ゲバラさん。これからは『商売』の時代でっせ」
ワインのグラスを傾けながら、恰幅のいい男が言った。
「戦争は終わった。これからは、いいモンを作って売った方が勝ちだ。アメリカだろうがソ連だろうが、お客さんになってもらいまっせ」
彼らは明るかった。
悲壮感など微塵もない。
焼け野原から這い上がり、今や世界の市場を席巻しようとしている「商人」のバイタリティ。
「造船も見て行ってください。我が社のタンカーは世界一だ」
次々と飛び出す自慢話。
確かにすごい。
愛知の「職人魂」と、大阪の「商売魂」。
この二つが両輪となって、日本という機関車を爆走させている。
金も、技術も、自信もある。
資本主義の優等生としての、完璧なサクセスストーリーだ。
だが。
(……何かが、足りない)
俺は、出されたステーキを黙々と口に運んだ。
彼らの話は「未来」と「金」のことばかりだ。
「過去」の話をしようとはしない。
まるで、あの戦争の記憶を、札束で埋め立ててしまったかのように。
「あなた方のその自信は、どこから来るのですか? 十数年前、全てを失ったはずでしょう」
俺が尋ねると、男たちは顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「そりゃあアンタ、『なにくそ』精神ですよ。負けたままじゃ終われない。それだけですわ」
明るい答えだ。
だが、俺にはその笑顔が、あまりにも巧妙な「仮面」に見えた。
綺麗すぎる。
東京のビルも、愛知の車も、大阪の笑いも。
復興の光が強すぎて、影が見えない。
俺の魂が、乾いている。
化粧をした「強い日本」の顔じゃない。
血と泥の味がする、この国の「原点」が見たい。
※※※※※※※※※※
翌日。宿の縁側で、俺は地図を広げた。
東京、愛知、大阪。
光の当たる場所ばかりを見てきた。
だが、俺の革命家としての本能が告げている。
『光が強ければ強いほど、影もまた濃い』
あの「なにくそ」というエネルギー。
あれは、単なる金儲けの欲じゃない。
もっと深い、ドス黒いまでの「屈辱」と「怒り」が根底にあるはずだ。
それを見なければ、この国の本当の姿は分からない。
俺の指が、地図の西の端に近い場所で止まった。
HIROSHIMA。
広島。
ここに来てから、誰もがこの街の話題を避けている。
大阪の商人でさえ、この街の話には触れなかった。
まるで、そこだけが別世界であるかのように。
「……ここだ」
俺は確信した。
この街だけは、違う。
他の都市が「未来」を見て走っているなら、ここだけは「過去」という十字架を背負って立っている。
「ここへ行くぞ」
「えっ? 広島ですか?」
オマールが目を丸くする。
控えていた日本の役人たちが色めき立った。
「無理です、団長! 予定にありませんし、あそこは……その、まだ復興の途中で……」
役人の一人が口ごもる。
やはり、見せたくないのだ。
復興した日本の「傷跡」の部分を。
「観光しに行くんじゃない」
俺は低い声で言った。
「俺は、お前たちが隠している『原点』を見たいんだ。商売や伝統で綺麗に化粧する前の、この国の素顔を」
「しかし、移動手段が……」
「夜行列車でも何でもあるだろう。手配しろ」
俺は譲らなかった。
今の俺に必要なのは、商談でも視察でもない。
自分の中の、価値観の揺らぎに対する「答え」だ。
「……分かりました。手配します」
役人が諦めたように受話器を取った。
俺は、西の方角を睨んだ。
待っていろ、ヒロシマ。
お前だけは、俺に嘘をつかないはずだ。
「行くぞ、オマール。予定変更だ」
俺たちの旅は、いよいよ核心へと向かおうとしていた。
来週から広島パートです。
伝説にもなってるエピソード。
私は少し別の解釈で挑みます。
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