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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
不死鳥の国日本へ~日本とゲバラ編~
24/40

23話 幕間:2016年カストロの回想

カストロは、晩年、安倍首相とあってますね。そこの有名なエピソードを日本編への導入で入れてみました。

【2016年9月 ハバナ / フィデル・カストロ私邸】


鏡に映る自分を見る。


かつて世界を震え上がらせたオリーブ色の軍服は、もうない。

代わりに身につけているのは、アディダスの青いジャージだ。


90歳になった今の私には、これが一番楽な戦闘服ユニフォームだ。


これから会う相手が、一国の首相であろうとな。


「フィデル。安倍首相が到着されました」


秘書の声に、私は重い腰を上げた。



シンゾウ・アベ。日本の首相。

はるばるキューバまで来るとは奇特な男だ。だが、私の腹の底には、拭いきれない警戒心があった。


彼の祖父は、キシと言ったな。

岸信介。

1959年、私の同志どうしであるチェ・ゲバラが日本を訪れた際、国際会談とやらで会談できなかったときいてるぞ。


アメリカの顔色を伺い、革命家との握手を拒んだ政治家の孫というところか?


結局典型的な「お坊ちゃん」か――


(……どうせ、国連総会か何かのついでだろう)


オバマがキューバに来たから、日本も慌てて顔を出した。それだけのことだ。

私は杖をつき、客間へと向かった。


だが、部屋に入ってきた男を見て、私の眉はわずかに動いた。

柔和な笑顔。育ちの良さそうな物腰。


しかし、その目は死んでいなかった。

アメリカの飼い犬のような目ではない。腹に一物抱えた、政治家の目をしている。


「ようこそ、ハバナへ」


差し出された手を握る。


温かく、柔らかい手だ。ジャングルで泥にまみれ、引き金を引いたことのない手。

かつての私なら、唾を吐き捨てていたかもしれない。


だが、90歳の私は、その柔らかさを拒絶しなかった。



会談は、当たり障りのない挨拶から始まった。

経済制裁の解除、投資の拡大。

予想通りの退屈なメニューだ。

だが、私は知っている。


日本という国は、不思議な引力を持っていることを。

ゲバラがあれほど惚れ込み、熱っぽく語った国。


そして、野球の国際大会(WBC)があるたびに、私がテレビにかじりついて見てしまう国。


侍のような規律と、精密機械のような技術。


気がつけば、私は話題を変えていた。


政治の話ではなく、私の「趣味」の話へ。

「ミスター・アベ。少し、庭を歩かないか」

私は彼を、自慢の庭園へと招いた。


そこは、カリブの強い日差しの中にありながら、奇妙な静寂に包まれた空間だった。


石の配置。水の流れ。苔の蒸し方。

私が長年かけて作らせた、日本庭園を模した一角だ。


「これは……見事ですね」


安倍首相が足を止めた。お世辞ではない、驚きの声だった。


「驚いたかね。私は植物の研究をしているが、君の国の『庭』という概念には感銘を受けていてね。知り合いの庭師に頼んで作らせたんだ。コスギという男に」


「コスギ……? まさか、小杉造園の?」


安倍首相が、驚愕に目を見開いた。


「知っているのか?」


「知っているも何も……私の実家、祖父・岸信介の庭を手入れしていたのも、彼の一門ですよ」


私は、開いた口が塞がらなかった。

なんという皮肉だ。


半世紀前、ゲバラを門前払いした男の庭と、ゲバラの魂を受け継いだ私の庭が、同じ庭師の手で繋がっているとは。


風が吹き抜け、モリンガの葉が揺れた。


その音は、まるで誰かの笑い声のように聞こえた。


私は、唯物論者だ。

神も、運命も信じない。

歴史とは、必然と闘争の積み重ねだ。そう信じて生きてきた。


だが、90歳になった今、ふと思うことがある。

「運命」なんて大層なものはないかもしれないが、「えにし」というものはあるのかもしれない、と。


「……不思議なものだな」


私はアディダスのポケットに手を突っ込み、空を見上げた。


「君の祖父と、私の同志は、会うことができなかった。だが、50年の時を経て、その孫と生き残りの私が、こうして同じ庭(世界)を眺めている」


メキシコの酒場で、喘息持ちの医者と出会った夜のことを思い出す。


あれもまた、理屈では説明できない「縁」だった。


あの時、私とゲバラを繋いだ見えない糸が、今、時空を超えてこの極東の政治家と私を繋いでいる。


「カストロ閣下?」


「いや、なんでもない。……少し、昔の同志のことを思い出していたんだ」


私は目を細めた。


網膜の裏に、一枚の手紙が浮かび上がる。


1959年。あの熱かった夏。

日本を訪れたゲバラから届いた、興奮と困惑、そして深い感銘に満ちた手紙の数々。


『フィデル。この国は異常だ。そして、美しい』


あいつは、日本で何を見たのか。

岸信介に会えず、中途半端な外交官たちに囲まれながら、それでもなお、あいつの心を奪った「日本の正体」とは何だったのか。


私は、老いた庭師の顔で笑った。

これは、政治の話ではない。


アベと別れ空を見てた。


鎖を断ち切り、灰の中から花を咲かせようとした、二つの魂の物語だ。


遠い夏の日の日本へ。

友人ゲバラが激しく語った、記憶の旅が、今、始まる。


今でも野球とか、キューバ選手との交流はつづいてます。


次回からその原点となった1959年チェ・ゲベラの来日に入ります。


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