m7-26 第2話 南の村へ
8人の乗り野トレジャーボート一台でキューバ傀儡政権妥当に乗り出したカストロとゲバラ。82人いた戦士は12人の壊滅状態から事態は始まる。
朝になっても、ジャングルは明るくならない。
ただ色が増える。増えた分だけ、目が疲れる。
ラウルは歩く。膝をかばう歩き方で。見てるこっちの膝が痛くなる。
ゲバラは横につかない。少し前を歩く。振り返らない。振り返ったらラウルが患者になるからだ。たぶん。
「膝、固めるな。腫れる」
ゲバラが言う。
ラウルが頷く。痛みで顔が一瞬ゆがむ。俺はそれを見て、見ないふりをした。
ゲバラが俺を呼ぶ。
「水」
俺は水袋を投げるみたいに渡した。
受け取る指が一瞬触れた。偶然だ。気にしない。気にしたら負けだ。
ゲバラは飲まずにラウルへ回す。
ラウルが慎重に飲む。慎重なのに必死だ。必死なのが腹立たしい。腹立たしいのは、俺が同じだからだ。
「南へ行く。村がある」
「味方か?」
「……分からん。だが、行く」
ゲバラの言い方はいつもそうだ。確実じゃないのに、決める。
医者ってのは、そうじゃないと務まらないのかもしれない。
歩きながら俺は、ずっと腹の奥が熱い。
怒りだ。敗北の熱だ。
それでも、ここで黙ったら終わる。
ゲバラがが言った。
「お前は、バティスタを倒したいのか?」
問いじゃない。刺してくる確認だ。
「今回は倒す。」
俺は答えて、すぐ付け足した。軽くしたくなかった。
「でも、あいつは王様じゃない。」
ゲバラが目を細める。
ラウルが聞いてる。だから言葉を雑にできない。
「……奴隷の王様」
ゲバラが言う。
「そうだ。鎖の番人だ。椅子に座ってるだけだ」
「鎖はどこに繋がってる」
ゲバラが聞く。
こいつは原因を一段奥に置く。医者の癖だ。
俺は少しだけ間を置いた。ここで語りすぎると説教になる。説教は嫌いだ。俺は政治家じゃない。
「国じゃない」
「会社でもない」
「……仕事だ」
ラウルが眉を動かす。ゲバラは黙る。続きを待ってる黙り方。
「利益のための仕事。ちんけな利益のために、人を奴隷にする」
ゲバラが低く言う。
「CIAか」
「そうだ」
俺は頷く。
「銃より先に、紙が来る。名簿が来る。『危険だ』って紙が来る」
「それで村が死ぬ。撃たなくても死ぬ」
ラウルが聞く。
「……あの国の大統領じゃないのか?」
俺は一瞬、「あの国の大統領は興味がない」と言いそうになった。
でもそれも、気持ちいいだけの答えだ。
「大統領は忙しい」
俺はそう言った。
「忙しい奴には、見たい報告しか届かない。見たくない報告は、届かない形にされる」だから無関心になる。無関心は罪の顔をしない。だからチンケな利益が俺達を支配する。」
チェが小さく息を吐く。
ラウルが唾を飲み込む。
俺は名前を一つだけ落とした。長く説明しない。刃だけでいい。
「アレン・ダレス」
ラウルがその名を覚えようとする顔をした。
「覚えなくていい」
俺はすぐ言う。
「顔が変わっても鎖は残る。バティスタは、その椅子に座ってるだけだ」
ゲバラが、短く言った。
「鎖を切りたいんだな」
「そうだ」
その直後、ラウルが足を止めかけた。膝が限界だ。
チェが素早く腕を掴む。強い。乱暴。なのに痛くしない。
「来い」
ゲバラはラウルを木陰に座らせて、布をほどいた。
腫れてる。見ただけで分かる。ゲバラは容赦しない。
「歯を咬め」
「……うん」
「舌を切るな」
ゲバラは膝を押して、位置を戻す。戻すというより、押し込む。
ラウルが喉を鳴らして声を殺す。
ゲバラは顔を上げない。慰めもしない。ただ手を動かす。
……くそ。
こういう強さを、俺は好きになる。
処置が終わると、ゲバラは言った。
「歩ける。歩くしかない」
ラウルが立つ。ふらつく。
俺は今度は迷わず肩で押した。支えない。押す。押して前へ。
匂いが変わった。
焼けた油、古い汗、腹の空いた匂い。
村が近い匂いだ。
木が開けて、道が見えた。
裸足の小さな足跡がある。
ゲバラが一歩前へ出る。
医者として、先に見るために。
村が見えた。
家はあるのに、声が少ない。
俺は喉の奥で合言葉を転がした。
今度は叫ばない。
叫ばないまま、ここで続ける。
夜になる。今夜の夜は月見えない。南への目印がわからない。
俺は空を見上げ、月はどっちにでているかと目印だけを探していた。
次回、すこし時間を巻き戻し1986年愛煙家カストロの、場面から始まります




