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没落伯爵令嬢の玉の輿試練  作者: 狭山ひびき


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2/9

アリエルの玉の輿計画

本日二回目の更新です(*^^*)

 ロカンクール伯爵家は、絶賛没落中である。


 絶賛没落中ってなんだと思うかもしれないけれど、そのくらい景気よく没落の道を驀進しているのだ。

 歴史だけは長い伯爵家だけども、十年ほど前に祖父と父が行っていた事業で大赤字を出し、それがもとでかなりの財産を失った。


 祖父はそのショックでその後他界してしまい、伯爵家を継いだ父は何とか事業を盛り返そうとするも、もともと祖父が主となり行っていた事業で商才のない父にはどうすることもできず……。

 あれよあれよと、我が家は坂道を転がり落ちている最中である。


(このままでは、とってもまずいわ)


 ロカンクール家は自領を持つ伯爵家だ。

 昔から領地の税収は悪くなく、事業の赤字をその税収で補填して何とか食いつないで来たけれど、このまま悪化の一途をたどっているといつか爵位まで奪われそうである。

 かといって、領民の皆様は何も悪くないのだから、税率を上げるのはあり得ない。


(せめて借金を何とかしないと)


 事業で大赤字をした時に、ロカンクール家は銀行に借金まで作った。

 その借金の返済と利息のせいで、ロカンクール伯爵家の家系は火の車なのだ。

 かつて手入れの行き届いた青々とした芝生に覆われ、優美さを誇っていた庭を全部ひっくり返して畑に改造するくらいに、生活が苦しいのである。

 そんな我が家の困窮具合を知っている領民の皆さんが、定期的に農作物などの差し入れをくれるから何とかなっているが、もし、今のこの状況で天災などが起きたら伯爵領は終わりだ。

 本来であれば災害が起きた時のために備蓄を用意しておくものだが、食べるもののない我が家にできるはずもなく、備蓄らしい備蓄は何一つないのである。


(今まで自力で何とかしようと頑張って来たけど、もう無理よ。他人の力を頼らないと、我が家は数年以内におしまいだわ!)


 父宛に、国王陛下から「何とかしろ」という連絡は入っているらしい。

 没落していても歴史のある古参貴族。国王陛下としても、このまま潰すわけにはいかないのだろう。かといって、「何とかしろ」というだけで、手助けしてくれるわけではないのだが。


「姉様ぁ、新聞屋さんが余った新聞を持って来てくれたよー」


 新聞を買うお金はないが、腐っても領主。毎日刷って販売している新聞の余りが出れば、新聞屋はタダでそれを分けてくれる。


(新聞は焚き付けのときに使えるから便利なのよね~)


 ついでに、まったく社交界に出ない我が家にとって、新聞は世の中のことを知るとても貴重な情報源だった。

 アリエルも十六歳。結婚相手を決めなければならない年なので、社交パーティーに顔を出さなければならないのはわかっているが、パーティーは基本王都で開かれる。

 領地から王都までそれほど距離はないけれど、それでも移動にはお金がたくさんかかるのだ。

 そのため、結婚とお金を天秤にかけた結果、アリエルは「お金」を選んだ。

 アリエルはジャガイモを切っていた手を止めて玄関へ向かう。


「今日もありがとうございます」


 アリエルが微笑めば、新聞屋で働く二十歳のポールは照れたように頬を掻く。

 小高い丘の上に立つロカンクール伯爵家から見渡せる場所にある、領内では唯一の町に住んでいるポールの実家は酪農業を営んでいるが、四男のポールは家業を手伝うのではなく新聞屋に就職した。将来は記者になりたいらしい。

 そんなポールは、新聞と一緒にミルクやチーズを届けてくれるので、アリエルは彼の訪れが毎朝楽しみでもある。


「新聞と、うちのチーズの、その、切れ端なんですけど」


 チーズはカットして販売される。そのときに中途半端に余った切れ端は、もちろんポールの家でも消費されるのだが、こうしてロカンクール家にもお裾分けしてくれるのだ。


「わあ! ありがとうございます!」


 早速朝食に使わせてもらおう。

 ジャガイモを薄く切って、父とルシュールが取って来た卵とチーズをのせてフライパンで焼いたらきっと美味しい。

 にこにことアリエルが笑うと、ポールの顔がさらに赤くなる。

 ルシュールがそんなポールとアリエルの顔を交互に見て、やれやれと肩をすくめた。


「つくづく思うけど、うちに食べ物が集まるのは姉様のおかげだよね。次から次へと……」


 どういう意味だろうと首をかしげると、ポールがびくっと肩を揺らして、慌てたように「それじゃあ!」と走り去っていく。


「ルル、今日の朝ご飯は豪勢になりそうね」


 伯爵家の朝食にチーズが追加されるだけで「豪勢」とは、涙が出そうなセリフではあるが、ルシュールは生まれた時から家が困窮していたので疑問も持たずに「そうだね」と頷いた。


「それにしても姉様、あんまりにこにこ笑わない方がいいよ。変な信者が増えそうだから」

「信者?」

「姉様はさ、鏡をしっかり見た方がいいね」

「なにそれ」


 アリエルは笑いながら、チーズを抱えてキッチンへ向かった。

 そんな姉の後ろを、ルシュールが追いかける。


 金色の髪を首の後ろで無造作に縛っているアリエルだが、その顔立ちはとても整っていた。

 灰色の瞳は理知的でありながらも、いつもにこにこと微笑んでいるから相手に柔らかい印象を与える。

 着飾って、王都のパーティーに参加すれば、求婚者の一人や二人――いや、もっとかもしれない――は、あっという間に現れるくらいの愛嬌のある美人だった。

 そんなアリエルは貴族だろうと平民だろうと分け隔てなく接するので、近所の町に住む男性たちの中では密かなファンクラブまで存在するくらいに人気がある。


 困窮しているロカンクール家に、みんなが食糧を援助してくれるのは、アリエルの存在が大きかった。年頃の男どもは、美人で可愛い伯爵令嬢の気を引きたくて仕方がないのだ。

 ロカンクール家が没落しているのも理由の一つかもしれない。

 通常貴族と平民の結婚なんて夢のまた夢だが、今のロカンクール家ならばもしかしてという夢を抱かせてしまうのだろう。


「今日の朝ご飯はジャガイモと何?」

「昨日もらったベーコンが少しだけ残っているから、それと野菜の切れ端を入れたスープよ! パンは全部なくなっちゃったわ。また残り物のパンを持って来てくれないかしら?」

「たぶん、今日か明日には来ると思うよ。……三日、あいたことないから」


 パン屋の息子ガストンは、ポールと同じくアリエルの大ファンだ。アリエルの元にせっせとパンを運んでいる。パンが余らなければ運ぶものがないので毎日ではないが、ルシュールの言う通り、三日に一度くらいの頻度で持って来てくれるので、また届く可能性は高かった。

 朝食の準備を整えたアリエルは、ジャガイモが焼けるのを待つ間、ポールが持って来てくれた新聞を読むことにした。


『新装オープンした劇場に王太子殿下が来訪』

『アルナルディ侯爵家で新酒の試飲会を開催』

『オータン子爵家の猫が逃げ出した。見つければ金貨三枚の報酬が! 特徴は――』


 見出しを目で追いながら、アリエルは笑う。


「王都は華やかでいいわねえ。それにしても迷い猫を見つけたら金貨三枚の報酬……。猫ちゃん、うちの領まで来ないかしら」


 金貨三枚あれば一年は食べるものに困らない。さすがに王都まで猫探しに行くわけにはいかないが。


「あら、家庭教師の募集だわ。とっても給料はいいけど……駄目ね。わたし、人に教えられるような教養はないもの」


 何か美味しい仕事でもあればいいのにと、そっと嘆息しながら、アリエルは新聞をめくる。そして、手を止めた。


『ル・フォール伯爵、お見合いパーティー開催。将来のル・フォール伯爵夫人、ついに決まるか⁉』


「ル・フォール伯爵ですって⁉」

「姉様、どうしたの?」


 新聞を読むアリエルの隣で、もらったチーズを味見していたルシュールが顔を上げた。


「どうしたもこうしたも……ってルル! つまみ食いしたわね!」

「つまみ食いじゃないよ、味見だよ。このブルーチーズ、蜂蜜をつけるととっても美味しいよ?」

「蜂蜜って……ああっ! また勝手に……!」


 養蜂業を営む家の息子にお裾分けでもらった貴重な蜂蜜が小皿に入れられているのを見て、アリエルはがっくりと肩を落とした。

 食べ盛りの八歳。目の前に美味しそうなものがあれば手が伸びるのはわかるが、能天気な母に代わり家計を預かる身としては、ルシュールは油断ならない弟だった。


(うぅ、わかっているのよ。ルシュールにひもじい思いをさせているのは……)


 ロカンクール家が困窮していなければ、ルシュールも美味しいお菓子がたくさん食べられたはずだ。だから、チーズの切れ端と蜂蜜食べられたくらいで目くじらを立ててはいけない。


「で、姉様、ル・フォール伯爵って?」

「は! そうそう、ルシュール、ル・フォール伯爵が花嫁を募集するみたいよ!」

「有名な人なの?」


 八歳のルシュールはル・フォール伯爵を知らないらしい。

 アリエルは拳を握って大きく頷いた。


「有名も有名よ! とっても資産家の伯爵家なの! 去年、伯爵だったお兄様が病気で亡くなられて、弟のジェラルド様が爵位を継いだのだけど、まだご結婚していなかったみたいね!」

「ふーん。それで?」

「それでってルシュール。資産家よ資産家!」

「だとしても、うちには何の関係もな――って、まさか……」


 ルシュールは口の端についていた蜂蜜をぺろりと舐めて、じっとりとアリエルを見た。


「姉様、よからぬことを企んでない?」

「失礼ね。よからぬこと、じゃないわ。とってもいいことよ」


 アリエルは、大きく胸を張った。そして、宣言する。


「姉様、みんなのためにがんばって玉の輿に乗ろうと思うわ‼」






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