20.いざ!覚悟重なる側近試験①
王宮から戻ったカイは、メイド達からの心配の言葉を払うようにして、執務室へオレを呼んだ。
普段のカイらしからぬ様子に、オレも釣られて焦燥感を刺激される。
「側近試験は、次の一日に実施することになった」
「それって、来週じゃないですか。いや、時期もそうですけど……」
そもそもカイがシズルと共に王宮へ行ったのは、学内裁判の件を国王陛下に報告するためだった筈だ。急にオレの側近試験の話が出た理由が知りたい。
カイは、頷いて見せてから少し目を閉じた。オレの言い分を分かった上で、伝え方を思案しているようだった。
「……一旦、事実を伝えさせてくれ。納得行かない内容もあると思うが、そのまま伝えたい」
そう前置きすると、カイは訥々と話し始めた。
王宮側から、学内裁判に至ったのは、王子二人の婚約者と側近の問題が大きいのではないか、という指摘が入ったこと。
例え誤解であったとしても、由緒あるシシェロゼッタ家に迷惑を掛ける形でこんな告発文が発生したのは由々しき事態である。
第四王子には正式な側近がなく、しかも唯一の側近見習いが平民の一生徒である。
一連の問題を解決するためにも、それぞれの王子の婚約者候補を整理し、正式な側近を立てるべきではないか。
「――――言い分は、分からなくも無いですが……」
「王宮側は、平民生徒が側近となることに否定的だ」
「そんな、今更」
「そう、今更だ。これまでも父上まで話を通して来たのに、状況が変わった。……側近候補が、もう一名現れた」
「え……?」
シズルから側近に誘われた、あの頃に持ち上がった別の候補のことだろうか。そんなオレの想像を読んだように、カイは首を振る。
「入学前に一度姿を消した、俺の側近候補が戻って来たんだ」
スッと、思わず息を吸って呼吸が止まる。
王位継承順が最下位となった公示の直後、カイの前から姿を消した側近候補達。何故今更になって、と問うてもあまり意味はない。
順当に考えれば、流れで側近候補となったオレではなく、生まれてからずっと王宮で共に育ち、側近として英才教育を受けてきた人間が務める方が理に適っている。
「……行方が分からなかったんですよね、たしか。戻られたなら、良かったです」
「ハヤテ……」
「シズル様も、そう仰ったんじゃないですか?」
カイの側近について、一番近くで気に掛けていたのはシズルの筈だ。けれどカイは、ほんの少し首を振る。
「最初はシズルも、喜んでくれた。でも王宮側から側近は一名で十分だ、と言われてな。キリシュとフィデリオのように、ハヤテともう一人というのは駄目なのかと、シズルも抗議してくれていた」
「……なるほど。だから、試験に落ちたら退学ですか」
側近候補ということは、向こうも年齢が同じか近い筈だ。王立学園でカイの横にいないと、意味がない。つまり、オレが退学したらその席が空くという訳か。
急な話で混乱する自分と、一歩引いて冷静な自分が同居しているのが分かる。
前世のベンチャー企業勤めから、人事異動が突然なのは慣れている。やり掛けの仕事や、やっと慣れて来た仕事を取り上げられたのも一度や二度じゃない。
何故か王立学園に突然入学していて、前世の記憶を思い出して、第四王子の側近候補となった。それを取り上げられた所で、殺される訳でもないのだし。
『折角本来のお役目の方が戻って来るんですから、オレなんかのために、形だけの試験なんて手間を掛けなくてもいいですよ。お世話になりました!』
――――なんて、爽やかに笑って去ってもいい。それこそ、偽ビートが誘ってくれた商会に勤めるのもアリなんじゃないか?
笑顔を作ろうとするオレの頬は、ピクピクしてぎこちない。笑え。
「試験に条件を付けたのは、父上――――国王陛下と、俺だ」
「……?」
「元々の側近候補が戻って来たのだからそれで良いだろう、という話もあった。だけど一名だけというのなら、俺はハヤテに側近でいて欲しい。そのための落とし所が、二人同時での試験になった」
「オレを選ぶんですか?何故……」
「何故?説明が必要か?」
カイの目は真っ直ぐにオレを見ている。オレはもう、ヘタな作り笑いをしなくても良いのだろうか。
「俺の力が及ばず比較するようなことになったのも、試験日程が早まったことも、すまないと思っている。――――でも、ハヤテが彼に劣る訳がない。必ず、合格して欲しい」
相手は貴族の生まれで、カイと小さい時から一緒に育ち、カイのことをよく知っていて、側近としての教育を受けている。どう考えても劣勢だと思うのに、カイの言葉ひとつで、オレの中から諦めてカッコ良く去る選択肢は霧散してしまった。
オレは未だ、カイの側近でいたい。王立学園での生活を手放したくない。平民のくせにと誹られるとしても、許されるなら最後まで足掻きたい。
「カイ様が信じてくれるなら、善処します」
そう答えると、やっとカイはホッとしたように微笑んだ。オレがヤケになって全部降りようとすることまで、想像していたのかも知れない。そう思うと、何だか気恥ずかしかった。




