表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/105

18.開廷!法廷に咲く花⑥

 +++++


 そのままカイがヴォイドに学内裁判の報告をしているのを横目に、オレは持ち込んだ資料等の片付けで部屋を出入りしていた。

 廊下を戻る途中、シズルとマノンの姿が見えて、思わず立ち止まる。立ち聞きの趣味はないつもりだったが、流石に無視できない状況で、つい聞き耳を立ててしまう。

「――――分かってくださいますよね、シズル様なら!カイ様は、ハヤテという平民に騙されたのかもしれませんわ」

「君は、何か勘違いしていないか?」

「え?」

「そもそも婚約者候補である君の訴えを、私が取り上げる訳には行かなかった。カイに任せた以上、その側近候補であるハヤテが補佐に入るのも当然だろう」

「で、でも、」

「二人はただ実直に、情報整理と事実確認をしたに過ぎない。……まあ、ハヤテの発想力と、カイが躊躇せず先陣を切って生徒会役員達を投入したことで、予想できないスピードと精度ではあったが」

「どうしてそんな……シズル様らしくありません。他の王子を褒めるなんて」

「フン。それは二重の意味で心外だ。私は人の能力を認められる位の器は持っているつもりでいる。それに私が裁判長だったとしても、短期間で急ぎ実施される学内裁判だから、十分な調査などせずネリィを切り捨てるだけだとでも思っていたのか?」

「……ですが、ネリィ様ならあれくらいのこと……王子お二人の婚約者候補で居続けて、平民の子も、貴族もみんな利用して……そうに違いないのに……」

「だから、それが勘違いだ」

「……かんちがい……?」

「シシェロゼッタ家にはそもそも、王族と婚姻を結ぶメリットが特にない。ネリィがわざわざ私とカイの婚約者候補でいるのは、王族側の都合が大きい。彼女ならもっと正攻法で、婚約を進めることも、破棄することも自在に出来る。今回の告発文は最初から、推察できる動機からして矛盾しかなかった」

「おかしいです!聞いていた話と違いますわ」

「――――当然これは、シシェロゼッタ家独自の事情だ。娘が王子の婚約者候補である、ということで王族との関わりを盾とし、家業に利用している者は多い。だから君も、ネリィの行動は損得によるものだと決め付けたんだろう?」

「い、いえ、いいえ!私はそんなこと…………」

「……何にせよ。今回のことは国王陛下にも、シシェロゼッタ家にも、関連した生徒の家にも伝える必要がある」

「ま、待って下さい!ネリィ様は不問となったのに、ですか?」

「寧ろ、だからこそだ。学内平等を謳う中、学園内で貴族と平民の立場に纏わる騒ぎがあった以上、事実をそのまま報告する必要がある」

「そんなことをしたら、シズル様のお立場にも影響がっ」

「ああ。正直体裁の良いものではない……が、隠し立てするつもりはない」

 話はここまでだ、という顔で、シズルはマノンに背を向けた。マノンはスカートの裾が汚れるのにも頓着せず、その場に呆然と座り込んでしまう。その表情は真っ青で震えていた。

 マノンとミアが持ち込んだ告発文のせいで、サラサは危険な橋を渡り、ネリィはあんな顔をするハメになった。それを思えば清々とするような状況だが、オレは素直に喜べずにいた。

「盗み聞きですか?」

「!?」

 聞き耳を立てるのに、集中し過ぎていた。頭上からの声に振り向くと、すぐ近くには知った顔が二つ。

「――――あの様子だと、マノン様の計略によるものという感じですね」

「これはまた厄介な」

 キリシュとフィデリオだった。シズルの側に二人がいるのは当たり前だが、迂闊だった。

「すみません、つい」

「まあ、アレは気になりますよね」

 二人の表情は苦笑いだが、咎めるようなものではない。ただ、今まで見たことがないような困惑の雰囲気がある。

「そんなにまずいことですか?もしかして、シズル様は彼女を……?」

「好き嫌いの話ならまだマシだ。しかしマノン様の生家であるガイエン伯爵家は、影響力のあるお家柄。一波乱どころじゃ済まないだろう」

「ネリィ様には及ばずとも、聡明な方だったはずです。何故こんな愚かなことをされたのか……」

深刻そうに呟いた二人は、廊下の向こうにシズルの背中が消えていくのを、慌てて追って走り出す。

 

 オレは、その場に取り残された形になった。

「“聞いていた話と違いますわ”……?」

 つい、耳に残った言葉を復唱した。マノンは、誰に何を聞いたのだろうか。先ほどのやり取りを見る限り、今回のことでマノンはネリィの友人というポジションを失ったことになる。メイリーが言っていたように価値のあるものだったなら、誰かに捨てさせられたのだろうか。

 法廷だった部屋に戻ると、着席された黄色の花々は無くなったり落ちてしまったりしていたが、殆ど空席だった“青色”の花々は整然と席に残っていた。

「“青色”の彼らは、参加しなかった……あるいは、出来なかった?」

 夕陽が差し込む部屋に、鐘の音がやけに大きく響いていた。

次話、学内裁判の結果は思わぬ方向へ飛び火する


※次回更新は、2026/1/12頃を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ