18.開廷!法廷に咲く花④
「……え?」
オレは、掲示資料の一つを手の先で示し、順番に尋ねていく。
「領主から圧力。命じられた男子生徒が他の令嬢に関係を迫った。ネリィ様が、婚約者のいる男子生徒を誘った。有利な商取引を結んだり、平民を差別したり利用したり……どれも、いつの事ですか?」
「そ、そんなの、私達が知る訳ありませんわ!」
「そうですわ!ネリィ様ご自身に聞かれたらよろしいのじゃなくて?」
「うーん、いや。何か勘違いしていませんか?オレが知りたいのは、“お二人がこの事実を知ったのはいつか?”ということです。ご自身のことですから、ご存知でしょう?」
「そ……そんなの、いちいち覚えていませんわ!」
「そうですそうです!平民と違って、私達貴族はお役目が沢山ありますの!」
――――予想通り、彼女達は口を滑らせてくれそうだ。オレは少しだけ迷い、順にカイと、シズルの表情を盗み見る。カイはオレの言いたいことに気付いたようで、ハッとした表情をしていた。逆にここまで裏読み無しで、本当にヒアリング結果だけで不問という判断をしたらしいのは、カイらしいなと思ってしまう。
一方のシズルは、苦い表情をしていた。カイの側近見習いとなるまでの道程を思えば恩も感じる相手だが、今回ばかりは義理立てして遠慮する訳にも行かなかった。
「オレ、この紙を昨夜徹夜で作りました。メイド達が何人も手伝ってくれました」
急な自分語りにポカンとする法廷の空気を、一旦無視して続ける。
「見ての通り、多いじゃないですか。案件数といい、目撃者や署名の方といい。……これらの話を、お二人はいつだったかも思い出せない時期に聞いて、わざわざ温めていたんですか?」
「どういう……意味……」
「どれも重大な問題なのに、一つ目を聞いた時に告発しなかったのは何故ですか?」
この告発文は、内容が『多く』て申し出が『遅い』。継続している内容を慎重に調査した、ということもなく、それぞれの内容からはまとめて告発する必要性が見えない。
「ネリィ様一人の周りでこれだけのことが起きていたのに、一昨日告発文が届くまで、誰も問題を口にしていなかった。そして、書面にまとめるには前段階が幾つかあった筈です。被害者や関係者から、内密に相談を受けるとか、逆に目撃者や署名してくれる生徒を探すとか。――――この告発文を準備し始めたのは、いつですか?」
ミアは、指示を求めるようにマノンの袖に縋っている。マノンも漸く、オレが言いたいことが分かったようだ。
『これだけの情報をいつから知っていて、今日まで隠して来たのか?』と。
「…………全部、ネリィ様のやった事ですわ。優秀なネリィ様なら、悪事の全てを巧妙に隠せて、今日までバレ無かっただけなんです!」
「いやいやいや。ならなんで、一気にバレてるんですか。ネリィ様なら、こんなツメの甘いことしませんよ」
売り言葉に買い言葉、みたいな調子で口が滑った。
「……褒めてませんわね。わたくしをなんだと思ってますの?」
黙っていられなかったのか、ジト、とネリィ本人に睨まれて、思わず咳払いをして誤魔化した。
オレの気まずい誤魔化しどころではなく、法廷では黄色グループの席からいくつも、詮索に怯えるような表情が見える。
「えーっと……まあ、色々気になることはありますが、判決はもう下ってます。ですよね、カイ様?」
「ああ。繰り返しになるが、告発の内容については全て事実確認ができなかった。このため、不問とする。マノン=ガイエン。何か、言いたいことは?」
「――――いいえ……」
ギリッと奥歯を噛み締める音が聞こえるような表情だった。
マノンとミアが力が抜けたように席に座ったのに合わせて、オレも大人しく一歩引いた。
「他に、今この場で“ネリィ嬢について”申告したいことがある者はいるか?」
マノンやミアについてではないと、カイは強調した。
「今回は学内での混乱を防ぎたいと言う我々生徒会の都合で、聞き取りのための十分な期間が設けられなかったことは認める。“休み”や“不在”の者から改めて話が出て来た時には、必ず公正に調査を行うつもりだ」
パチパチと、ゆっくり手を打つ音が響いた。シズルによるそれが『異議なし』の意図なのは明白だった。
拍手は波紋のように広がって、部屋を埋め尽くしていく。
経緯を考えれば深追いしたい内容ではあるが、学内裁判の目的である“学内の秩序を保つ”という側面では、悪事など無かったという結論で十分なんだろう。
「今し方あったように、本件やそれに類する内容について、異議があれば後日申し出てもらって構わない。学内平等の下で、生徒会として義を尽くすことを約束しよう。――――当然、疑義の内容によっては私やカイを除いた生徒会役員での対応も可能だ」
生徒会長として、シズルがハッキリと宣言する。キリシュとフィデリオが法廷の扉を開けたところで、学内裁判は閉廷した。




