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18.開廷!法廷に咲く花③

 ザワ、と法廷の中で声が溢れた。

「全て肯定すると?」

「どう捉えていただいても結構です。この場でわたくしが語る弁明に、意味などないでしょうから。――――ただ。わたくしには、シシェロゼッタ家の人間として、王子殿下方の婚約者候補として、恥じる事は何一つありません」

 いつもと同じ、凛とした声だった。

疑惑の一つ一つを否定したり、取り繕う気はないのだろう。屈辱的とも思える状況だろうに、その瞳は冷静だった。

「よく分かった。ネリィの言う通り、この場で彼女自身で全てを説明するのは難しいというのは、生徒会側でも考えたことだ。このため記載されていた内容については、事前に我々で精査してある。その結果――――今回の件は不問とする」

 淡々とカイが告げた言葉に、人形のようだったネリィの瞳が見開かれる。参加者達も時間差で言葉の意味を飲み込んだようで、戸惑うような声が幾つも重なった。

「カイ様、理由は?」

 脇にいた副生徒会長が焦ったように言う。少しギョッとしている様子で、まるで、ヒアリング調査を進めた中で見えた結論とは異なる判断に驚いているようだった。

「分かっている通り、特に事実が確認出来なかったからだ」

 カイは、当然だというように言い切る。ザワザワはヒソヒソになって場に残っていた。

 オレは、不思議と驚いていはいなかった。カイというのはこういう王子だと、心のどこかで覚悟があったのかも知れない。

 しかし、オレだけが納得していても仕方ない。

 あまりに端的な判決に動揺していたマノン達が、表情を歪めているのが見える。このまま終われる訳がない。

「カイ様、宜しいでしょうか?」

「ハヤテ、なんだ?」

「どのような事実確認があったか、もう少し詳らかにしていただきたいです」

 一応オレは、“赤色”のグループだ。実害を受けた被害者の筈なので、このリクエストは正当なものだ。

「生徒会側で対応されていた聞き取り調査に関連した資料について、展開しても良いでしょうか?」

「あ、ああ……?」

 話す時間が全然取れなかったので、カイのハテナマークも当然のことだった。段取りのメモにも書きようが無かった。

 法廷内を移動する際キリシュに声を掛けて、床に置いていた巻物状の紙を一緒に広げていく。裁判長席の後ろに貼り付けると、参加者達は記載内容を把握しようと、目を凝らした。

 

「これは、今回届いた告発文に記載されていた案件と、関係があると思われる方々の名前をまとめたものです。署名に記載の方もこちらの列にまとめましたが、ラストネームだけで敬称略なのはご容赦を」

 事前打ち合わせなしでも、カイにはこの表の意味は伝わる筈だ。この“資料”は、ヒアリング事項を洗い出す時に作ったものの拡大版だと。

「ハヤテ、ありがとう。……この紙の上から順に、生徒会側で直接確認した内容を説明しよう。まず――」

 オレはヒアリング結果を知らないが、カイが出した結論から逆算して、なんとなく察することは出来ていた。

「――以上だ。全て、直接の関係者や目撃者が学内に不在であり、事実確認ができなかった」

 カイが順に話す中、ザワザワもヒソヒソも小さくなって、やがて法廷には無言が満ちた。

 この法廷は“分かりやすい”。マノンとミアの二人座る“黄色”のエリアには着席が多く、織物関係と目された、元々枠外だった“青色”(ベン図を作った時は緑のリボンだった)のエリアは空席だらけだ。

 模造紙もどきの資料にも、黄色と青色の花をそれぞれ、署名に合わせて飾ってみた。署名がない、内容にだけ登場する人物も赤色として花を置いたが、オレやサラサ、シズルやカイと言った生徒会関係者を除くとごく少数のグループとなっている。

「昨日、今日と聞き取りを行ったが、事情を知るはずの本人がほぼ不在だった。マノン嬢、ミア嬢から伺った内容だけでは事実として確認が難しい。このため、不問とする結論に至った」

「おかしいですわ!こんなに沢山の申し出があったのに、確認出来ないなんて」

「それは俺も思ったことだ。でも実際に、昨日から探し回ったものの、学内には不在の者ばかりだった」

「侯爵令嬢であるネリィ様のことを、王族であるカイ様に聞かれて、怖くなって口を噤んだ方がいるんじゃありませんの?」

「そうですわ!婚約者候補のお立場を利用して、シズル様やカイ様が自分の味方をするように仕向けたに違いありません」

 黄色グループの中から、マノンとミアだけが騒いでいた。シズルとカイへの堂々とした侮辱に、キリシュとフィデリオがピリ付いている。

 カイが初めから言っている通り、『事実が確認できなかったから不問とする』という結論にしかならない筈だが、彼女達にそれを理解させる必要がありそうだ。

「――――すみませんが、流石に反論してもいいですか?」

 『異議アリ!』という気持ちで手を挙げる。

「ハヤテ」

「そもそもお二人は、なぜこのような告発をしようと思ったんですか?」

「なんですの、貴方。平民風情が気安くマノン様に話し掛けないでください」

「別にいいわ、ミアさん。平民には分からないでしょうけど、貴族であり責任ある侯爵家のネリィ様がこんなことをしていたのだから、訴え出て当然です」

「確かに、どれもけっこー良くない話ですよね。男女関係の話や、商取引を絡めた内容に、差別なんてとんでもない」

「ええ、そうでしょう」

「これ、いつの事ですか?」

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