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18.開廷!法廷に咲く花②

※前回掲載分、大幅改稿済み(2026/01/02 22:25頃)

 今日の教室でも、ネリィは毅然とした表情を崩さない。副担任と短い会話をしていたようだが、一瞬少しだけ厳しい表情を見せた後は、人形のような表情に戻っていた。

 メイリーが言っていた通り、ネリィには裏表があるのかも知れない。社交界では必要なことだと習ったが、感情を制御して、仕草は元より顔色や声色、視線の使い方まで、上流貴族は身に付けているのだという。

 ネリィの態度や振る舞いが、『完璧な令嬢』たるものなのか、『裏表がある人間』特有のものなのか、判断するのは骨が折れそうだ。

 今日の学内裁判を通して、彼女の本心まで辿り着けるだろうか。


 気もそぞろな中授業が終わると、オレは大急ぎで生徒会室に向かった。

 昼に運び込んでおいたモノのチェックを始め、“法廷”の最終チェックを進めていく。

「ハヤテ、これは?」

 キリシュも有志生徒として手伝ってくれているのだが、オレが渡した名簿を片手に怪訝な顔をしていた。

「これは名札で、名簿を見ながら来た方に渡してください。貴族であればキリシュさんの方が顔も分かるかと思って」

「首から提げるのか……必要ないと思うが?」

「貴族以外の平民生徒もいますし、どっちかというと、名札に付けたこの花が大事で」

「同じ色が置いてある席に、か。席に名前を置いておけば良かったんじゃないか?」

「いえ。指定席にすると、全員来なかった時に変な空席が出来るし出入りも大変なので、前から座ってもらいたくて」

「なるほどなぁ……」

 前世で対応していたオフライン会場でのセミナー開催時は、『前から詰めてお掛けくださーい!』なんて声掛けは当たり前だった。

「……にしても、他にやりようはなかったのか?」

 キリシュの呆れ顔に、オレは苦笑いを返した。その視線は、名札と、それぞれの席に置かれた花々に向いている。

「署名ごとにグループ分けして整理したら、こうなりまして」

 印刷機やシール、せめてマーカーでもあればと思ってしまうが、無いものは仕方ない。

 代替策として選んだのが、昨日メイリーと共に切り揃えた花だった。黄色、赤色、そして青(緑が無かった)。

 名札はメイド達が書いてくれたので、オレは昨夜ずっと、名札に花を付ける作業をしていた。

 『色分けだ!分かりやすさだ!』というハイな気持ちで動いていたが、いざ落ち着いて見てみると、法廷なのに祝いの席のようになってしまっている。処分前の束から綺麗目なものを選んだが、逆にもっとカサカサした花を選ぶべきだったかも知れない。

「……あ。シズル様、いらっしゃったんですか」

 扉の音で振り向き、キリシュが言う。長い金髪を靡かせながらシズルが歩くと、席に飾られた花々がやけにイイ感じで、オレは冷や汗が止まらない。

 これはふざけているのかと、怒られるかもしれない。

「――――たしかに、リラックスして話を聞ける方が良いかもな」

 貴族の中でも上流中の上流、第二王子のシズルだから、ポーカーフェイスをしてくれたのだろう。一瞬困惑の表情が見えて、オレと目が合った時には諦めのような、呆れたような表情だった。

 開廷時刻が近付き、徐々に人が増えて来た。オレはキリシュと手分けして、名札を渡された関係者を案内していく。

 若干変なざわめきがあるのは、飾られた花のせいだろうか。

 カイが入って来て、裁判長の席へと座る。緊張した表情が伝わって来る。その手には、僅か三日ほどの間にクタクタになった告発文の束。そして、恐らく『ヒアリング事項』をまとめたノート。

 会場の様子を見て、了解したように小さく頷いたのが目に入る。

 左右の席には生徒会役員が座り、入り口と別の扉側にいる役員に合図を送った。

「ネリィ様がいらっしゃいます」

 扉が開くと、生徒会役員の女生徒に導かれて、ネリィが入ってくる。当初はいつもの澄ましたような表情だったが、部屋の全貌が目に入ったのか、珍しくキョロキョロと周囲を窺う仕草をした。

 その犯人がオレだと、気付いたのだろう。視線が合ったその一瞬、呆れたように目元が緩む。メイリーが言っていた、“温度がある”というのはこう言う表情のことだろうか。


 案内した最後の生徒が着席したのを見届けて、オレは会場の扉を閉めた。カイに視線を送ると指示を出したようで、副生徒会長が『静粛に』と声を掛ける。

 

「これより、学内裁判を開廷する」


 中央に立つネリィは背筋を伸ばし、その背中側に並ぶ席へくるりと向き直って一礼した。顔を上げた一瞬で左右に滑ったその視線は、参加者総ての顔を確認して把握したように、オレには見えた。

 カイが合図し、副生徒会長が告発文を読み上げる。この数日何度も読み返してた内容だが、法廷内後方斜めから、色分けした席に座る彼等の表情を見ながらだとまた異なる印象が浮かんでくる。

「――――以上が、告発文の内容だ。まず、投書した生徒諸君に確認したい。今読み上げた内容は諸君らが記載した内容と相違ないか?」

「相違ございませんわ」

 マノンの声が、高らかに響く。

 カイは承知したように頷き、他の席から挙手や声が上がらないか少し待った後、再度口を開いた。

「ネリィ=シシェロゼッタ。君はこの内容について、申し立てたいことは?」

 教室と同じく人形のような表情で聞いていたネリィは、スッとお腹から息を吸うようにして応える。

「わたくしからは、何もございませんわ」

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