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18.開廷!法廷に咲く花①

※大幅改稿済み(2026/01/02 22:25頃)

 結局、夜中までの作業になってしまった。

 ロッテに起こされ、マーベルからサンドウィッチを受け取りつつ馬車に乗り込むと、積み込んだ大きな紙の束をポンポンと撫でる。

 

「まるで敷物じゃないですか!こんな大きいの、意味あるんですか?」

 と、昨夜言っていたのはロッテだ。

 耳だけで入る長い言葉を、複数名が同じように解釈して理解するのは、めちゃくちゃ大変なことだ。

 教科書を忘れた大学の授業で、念仏を唱えられているかのような状況に、慌てて隣の席の知らない人に教科書を見せてもらったのを思い出す。

 法廷でカイや生徒会役員、あるいはネリィの口から語られる内容があっても、全てを伝え切るのは難しいだろう。

 学内裁判の目的は、あくまでも王立学園内の秩序を保つこと。それを思えば、裁判長であるカイが導き出した結論を一同が同時に理解する必要がある。

 コピー機などなく、プロジェクターもなく、参加者はMAXで50名以上。こうなれば、複数のスライドまでは作れずとも、一枚でも概要を記した物があるに越したことはない。

「この大きいのは、『模造紙』って呼ばれるモノで……って名前は別に良いんだけどな。とにかく、この紙の内容をそのまま大きくした版を作りたいんだ」

 下書きのメモを、紙をなんとか貼り合わせて作った“模造紙”に並べて、メイド達と手分けして作業を進める。

 スマホのカメラでもあればイメージの確認もし易かっただろうが、俯瞰するため、物理的に距離を取って確認するしかない。

「ハヤテさん、見えますー?」

「ああ!傾いてるから直さないとなー!」

 カイの屋敷が広くて本当に助かった。

 遠目に見て下書きを調整している内にカリナが、思い付いたように小さい方の紙を四つ折りにして、折り目をつけた。

「あの……これ、こんな風に分けてみるのはどうでしょう?」

 確かに、ガイドがあった方が手書きでの拡大もし易そうだ。

「なるほど……分割して考えた方が、楽そうだな。よく思い付いたな?」

「上手くいきそうでしょうか?刺繍をする時に、祖母が教えてくれたんです。折り目を付ければ、真っ直ぐに出来るって」

 力業のアナログ作業には、メイド達の知恵も大いに拝借した。時間がないだけに、PDCAを回しまくりだ。

 清書する段になってから、どうやって遠目でも読める太さの文字サイズにしようかと頭を捻る。

「筆と墨汁……なんてないよな?」

 脳裏に思い浮かんだのは、大きな筆でパフォーマンスするテレビ番組だった。せめて正月の書き初めのような、あの太さが欲しい。

「筆とインクなら、ありますよ。多分ジャンが管理してたと思うので、取って来ます」

「太いやつもある?」

 書道で使っていた毛筆をイメージしていたが、渡されたのは絵の具で使うような筆で、四角い感じだった。

 イメージはあるのに、筆運びは思ったようには行かない。ジャンには急遽筆の使い方までレクチャーしてもらい、なんとか“資料”が完成した。

 

 昨夜のドタバタを思い出してぼんやりしていると、マーベルが気遣わしげに声を掛けてくる。

「カイ様は、生徒会役員の方と打ち合わせがあるため先に出られました。お話しが出来ず申し訳ない、と仰っていました」

「ああ、ハイ。分かってたので大丈夫です。……そうだ。ここ最近、普段と違う仕事で屋敷のみんなには負担を掛けました。本当に助かったので、カイ様にもちゃんと伝えておきます」

「まあ、そんな!ご主人様に尽くすのが私達の勤めですから、どうかお気になさらず」

「それはそうでしょうけど……時間がない中、みんなが柔軟に察して動いて、手を貸してくれたので。そのお陰で、大切な準備に集中出来ました。有り難うございます」

 彼女はポカンとしているが、言わずにはいられなかった。

 住み込みで働く彼女たちを始め、屋敷勤めは二十四時間体制だ。ノーとも言えない立場を思えば、イレギュラーな生活は大変だっただろう。

「恐縮ですが、お役に立てたのならそれが何よりの喜びです。どうか、良い結果となりますようお祈りしております」

 いつも冷静なマーベルが、表情を綻ばせた後、直ぐにそれを引き締めた。彼女の言う通り、結果を出さなければ意味がない。

 告発文が生徒会室に届いてから、今日で三日目。この短期間で進めたとは思えない程度には、出来る限りの準備を積み重ねたという自負があった。

 日数を掛けて調査をして、裁判も複数回に分けて行わないのかと確認したが、学内裁判とは一度で話が決着するものらしい。特に今回は、王子の婚約者候補である侯爵令嬢が被告人だ。時間を掛けている内に、変な噂が広がること、学内秩序に影響が出ることなどもリスクとして考えられている。

 裁判の内容次第では、生徒会や、そもそも王子であるカイやシズルへの信頼が揺らぐ。短期決戦が重要なのだという。

 カイと話す時間は取れず、僅かな段取りをメモ書きで渡すのが精一杯だった。タイピングして、メールで送れたなら……と妄想するのは意味がないことだ。

 カイが出した結論に寄り添うことが、オレの為すべきことなのは変わらない。

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