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17.突発!断罪イベント⑦

 『遅い』。

 ララブで度々言われる、カイの『ひと言遅い』が脳裏に過ぎる。オレの胸に、何かが引っ掛かる。しかし究明には至らず、口では別の会話が続いた。

「単にケンカしたか、キライになったとか?」

「……なくはない、でしょうね。でもそれも、私から見たら今更な気がします」

「今更?」

「私、ネリィ様のことは元々好きじゃなかったんです。裏表がある方だもの。近くに置く人間と、そうじゃない人を切り分けるように選びますし」

「うーん。分け隔てなくって言うのは理想ですけど、人間そうも行かないんじゃ?」

「そういう話じゃないの!うぅ、難しいわ。……そう、ハヤテさんは、知らないから、分からないんでしょう」

「知らない?」

「社交界のネリィ様を。あるいは、入学前の彼女を」

「それはまあ確かに、知りませんが」

「義務感で仲良くしないといけないと思っていた私みたいな子も多かったから、逆にそれを感じたのかもしれませんけど。ネリィ様は、王族の前での振る舞いと、そうじゃない時の周りへの振る舞いが随分違う方だったの。マノン様達が気付いていない訳がない」

 ララブでのネリィが、自然と思い浮かぶ。確かに主人公に向ける表情や態度と、王子に向けるそれが真逆だった。何なら、極端過ぎてネットでもファンの間でネタ扱いされるくらいに。

「だから、嫌ったりケンカするなら今更じゃないか、と?」

「ええ。あるいは……最近のネリィ様の様子を見て、何か思う所があったのかも」

「生徒会とか、舞踏会とか……ですか?」

「そうね。どう言って良いか分からないけど、前よりなんだか、冷たくないと言うか。温度を感じる気がします。……ずっと仲良くされていたお二人には、それが面白くなかったのかも知れませんけど……」

 悩むような表情に、オレも頷く。

 確かにネリィは、平民のサラサとも親しくしていて、オレやカイから見れば微笑ましいものだった。元々親しかったマノンやミアにはそれが面白くない、という理屈は分かる。しかしだとしても、本命のネリィ側を貶めるのは謎過ぎる。

 オレは、メイリーが何故ネリィを庇うのか不思議だと思ったが、それを言うならマノンやミアが、ネリィと対立することの方が謎なのは間違いない。

 オレは先入観でそう言うものだと思っていたが、社交界の住人からすれば『なんでやねん!』みたいなことなんだろう。めちゃめちゃ丁寧に、宛先を選んで入れたツッコミが、オレに届いたのだ。

「メイリー様、ありがとうございます。お話しが聞けて良かったです、助かりました」

「そ、そう……?内容、薄くなかった?」

「……失礼なことを言って、すみませんでした」

 もう、深々頭を下げるしかなかった。メイリーは、ホッとしたような表情を見せた。

 相手を切り分けるように選んでいるのは、寧ろオレの方だ。どこかまだ、画面越しのような気持ちで相手を見てしまっている。メイリーの言う通り、失礼極まりない。


 このガチガチの先入観で、見落としていることはないだろうか。

 一人で法廷を整えながら、頭の中で考える。ずっと、何かが胸に引っ掛かっている気がする。

「ここで、カイ様が告発文を読み上げるのか」

 裁判長の席から、被告席を見る。手元のノートから、署名以外の告発文を粗く書き写した内容を開いてみる。


 特待生の故郷にいる領主に命じて、家族に圧力を掛けた。

 シシェロゼッタ家に関係する家の男子生徒が、命じられて他の令嬢に声を掛けて関係を迫った。

 ネリィ自身が、他の令嬢と婚約中の男子生徒を誘った。

 弟妹が在学中の貴族生徒を盾にシシェロゼッタ家が優位な商取引を結ばせた。

 王子に取り入り、生徒会役員に推挙させた。

 平民生徒に対して差別的な態度を取り、他の貴族生徒を扇動した。

 生徒会の平民生徒を利用して、二人の王子だけでなく、特待生を選んだ第一王子にまで良い顔をして近付いた。


 写しというよりは、冗長だったものを要約したメモだが、こんな内容をネリィはどんな表情で聞くんだろうか。

「一つずつ聞くのか、全部まとめて読み上げてからか。っつーか、多い……な……」

 多い。この告発文を見てから、何度か思い、自他共に口にしていたことだ。

『……だとしたら、遅過ぎません?』

 メイリーの声が頭で再生される。

 ずっとあの告発文は、『多く』て『遅い』。事実を事実として理解したオレは、手のひらで目元を拭う。先入観のコンタクトを外すような気持ちで。

 『ヒアリング事項』全てが揃うのは、早くても学内裁判開始直前だろう。カイがどんな判断を下すのかは分からないし、オレが直接指示や示唆を与えるのは違うだろう。

 法廷は、“分かりやすく”セッティングした。

 オレに出来る“準備”は、まだ他にないだろうか。上司のプレゼンの下準備に入ることも、新人のフォロー役に付いた商談で念の為予定外の資料を用意することも、当たり前の仕事だった。

「――――よし。書くか」

 学内裁判開始まで、残り20時間を切っていた。

次話、学内裁判が始まる。


※次回更新は2026/1/2を予定しております。

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