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17.突発!断罪イベント⑥

 授業が終わると、カイとは別行動で、生徒会室に向かう。気持ちも思考も、優先順位は真実の解明にあるのだが、生憎オレには物理的な役目の方が重要タスクだ。

 それ即ち、裁判所(学内裁判の場合も『法廷』と呼んで良いのだろうか?)のセッティングである。

 生徒会役員達にはカイが声を掛けていて、署名にある多数へのコンタクトに走り回っている。リソース不足のカバーで動くのは、有志生徒でしかないオレだ。

「“分かりやすく”しておいてくれ」

と言っていたカイの指示に合わせて椅子を並べて行く。

 裁判官の席と、被告人質問の席とを、ドラマやニュースで見たのをイメージしながら作って行く。関係者が多過ぎるので、本当は横に置くような弁護人席とかもまとめて、裁判官席から被告人席を挟んで正面にある傍聴席の位置になりそうだ。

「“分かりやすく”、なあ……」

 オレが今思い浮かべている文房具は、手に入らないことを知っている。なんとか代替品を探すべきかと、庭に降り立つ。

「ハヤテさんッ?」

 中庭でウロウロしていると、聞き馴染みのない声が後ろからして、振り返る。

「大丈夫ですか?」

「へ?」

 心配の声と表情に、思わず間抜けな声が出た。

「いやメイリー様、オレは別に……」

「こんな日にゴミ拾いなんて、どうされたんですか?」

 声を掛けて来たのは、メイリーだった。学内で彼女側から声を掛けられるのは、初めてだ。オロオロした表情で駆け寄って来ると、オレの荷物を覗き込まれる。

「ゴミじゃなく、必要なものです」

「……本当に、大丈夫ですか?私があんな手紙をお渡ししたから、何か変なことを考えているのでは?」

「イヤイヤイヤ。ただ会場作りを進めてるだけなんで」

「そんな馬鹿な。だって、どう見ても枯草じゃないですか!」

「まあ、今はそうですね……あ。メイリー様、ちょっと手伝ってくれませんか?」

「手伝う……?」

 時間も無いが、関係者を避けて人を募るのも難しかった。この際、署名にも内容にも記載されていない、メイリーの手を借りよう。

「オレが欲しいのは、こっち側だけです」

「お花の方を?」

「ハイ。ちょうど庭師が入った後らしく、処分前に隅で乾燥させてたのを貰って来たんです」

「ゴミにしか見えませんわ……」

 まあまあ、と宥めながら中庭に設置されたピクニックテーブルまで連れて行く。

「色ごとに、このサイズに切ったら分けて行きたくて」

 ハイ、と予備の園芸ハサミを渡すと、メイリーは渋々受け取った。

「意味が分かりませんわ」

「まあ、変なことしてる自覚はありますけど、あんまり吟味してる余裕もないんで。メイリー様だって、告発を鵜呑みにするなと言ってくれたじゃないですか」

「私の手紙を信じましたの?」

「いや、参考程度です」

「〜〜〜〜相変わらず、失礼な」

「だって書いてあるの、印象の話と状況証拠だけでしたし」

 彼女は明らかに眉を吊り上げ、不快そうな表情を見せる。言い過ぎたかとヒヤヒヤした気持ちになったが、首を振ったあと、気を取り直すように力を抜いたのが分かる。

「まあ、どうせハヤテさんは私の言うことなんか信じないと思ってたので、いいですけど」

「そんな、拗ねないでください」

「……でも、謝罪の気持ちは本当だったのよ?」

 目を伏せる彼女に頷くだけで、オレは言葉で返すのはやめた。たかが『不幸の手紙』如き、特に実害もなかったのだし、そこまでの重大事ではない。

「何のことだか、よく分かりません。それより、こちらの束をお願いします」

「ほんと、失礼ね。……ふふ、ありがとう」

 どうやら彼女の中で何かが落ち着いたようで、渡した束に取り掛かってくれる様子にホッとした。

「あの手紙、カイ様にも見せました」

「そりゃあ、そうでしょうね。なんて?」

「いや、言った通りあの内容ですし、参考程度なので特には」

「〜〜もう!ホントに失礼ね」

「オレは寧ろ、大きな秘密を知っている訳でもないのに、あんな内容の薄い……失礼。手間を割いてまで、あの手紙で何を伝えたかったのかと気になっていて」

「何も誤魔化せてないわよ?……ふぅ。平民の貴方や、王子殿下には分からないのかも知れませんけど、マノン様とミア様がネリィ様の告発をするなんて、とんでもないことなのよ?」

 それはそうだろう、と思うが、多分メイリーが伝えたいことの本質は別にあるんだろうと、その表情から伝わって来る。

「ネリィ様は、社交界でも特別な存在なの。あの方と同い年で王都に生まれた貴族の娘なんて、家族や親戚中から彼女と親しくするようにって言い含められて過ごすんだから」

「そんなに?」

「ええ。シシェロゼッタ侯爵家の一人娘ですもの。私だって、どんなに無視されても、社交界でにこやかに挨拶して、贈り物をして、本当に大変だった」

「……なんか、ピンと来ないというか」

「そうでしょう?どうせそうだろうと思ったから、殿方には伝えないといけないと思ったの。……どれだけの子が、ネリィ様の近くで親しく過ごすことを期待されて過ごして来たか。マノン様とミア様が、それを捨てても良いとまで思ったのは何故なのか」

 ネリィがなんだか凄い令嬢だというのは、頭では分かっているつもりだった。主人公のライバルだし、王子の婚約者候補だし。しかし、他の令嬢にとってどんな存在なのか、上部でしか捉えられていなかったのかも知れない。

「正義感で放って置けなかった、とか?」

「まさか。……だとしたら、遅過ぎません?」

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