表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/104

17.突発!断罪イベント④

 不思議がる視線を受けながら、オレは、預かったリボンを色味で組み合わせて結び、二つの輪を作った。黄色と、赤。

「ベン図っていうのは、ベンさんが作った図らしいんです。共通点と、相違点を分かりやすく可視化するのに使えます」

 学生時代や、就活の筆記試験でもよくお目に掛かったものだが、折角なので使ってみる。プレゼン資料をカッコ良く見せたくて、挿入したなあなんて思い出しつつ。

「たとえば、黄色にマノン様を入れます。そしてこの中に、マノン様やガイエン家に関係がある方を入れましょう。反対の赤の輪には、内容側に出てきている人名を」

「ハヤテ、こちらのオリガという人物はどちらになる?」

「マノン様と同じクラスで、告発にも出て来る。そうすると、此処になります」

 紐を動かし、間に二つの輪が交差するエリアを作る。

「この間には、A且つB……つまり、マノン様と知り合いで、明確な告発内容がある方が入ります」

「そうすると、ハヤテさんは赤の輪で……カイ様もですか?」

「ああ、そうなるな。間の輪に入るのは、マノン嬢自身と、ミア嬢、オリガ嬢……そして、シズル」

 サラサは分からないが、マノンと親しく会話している様子はあまり見たことがなく、一旦赤の輪に入れる。

 カリナがそっと用意してくれた王立学園のクラス名簿もかなり役立ち、順番に署名を整理していく。

「署名に名前があるのに、マノン様と同じクラスとかじゃない方は……これだけですか」

「なかなか、極端だな」

 カイが神妙な顔をするのも無理がないくらい、分けてみると多寡がひと目で分かる。

「あのぉ、この方は中に入れないんですか?」

 そう言ったのは、メイドのマナだった。彼女の指が、円の外にあった人物を示す。

「マノン様と違うクラスですし、署名だけの方だけど……何故?」

「マノン様とお知り合いかも知れないなあ、と思って。だってこの方、エンダース家の御子息ですよね?ガイエン伯爵家と最近お近付きになったはずです」

「えー、嘘よ!むしろ商売敵じゃないんですか?」

「前はそうだったらしいけど、エンダース様側が考え方を変えたらしいですよ。先日のお休みで実家に戻った時、姉から聞いたんです」

「じゃあじゃあじゃあ、こっちのパイロン様もなんじゃないですか?」

「あ、ほんとね。あと、こちらとこちらも……」

 メイド達が急に、枠の外にいた名前を並べて騒ぎ出す。

「えぇと……?」

 次々出て来る貴族っぽい名前が分からず、カイに視線を向けてみるも、あまりピンと来てない様子で。オレは戸惑ったままの視線を、メイド長であるマーベルに向ける。彼女は了解したように、軽く咳払いをして見せた。

「んんっ!ハイ、貴方達。カイ様、ハヤテさんの前ですよ」

 盛り上がっていた彼女達は慌てて口を噤み、水を打ったように静まると、姿勢を正した。

「マナ、ちゃんと説明出来ますか?」

「は、はい!失礼しました。えぇと、こちらの方々も、多分黄色の輪に入ります。皆さん織物関係のお家の方なので、ガイエン伯爵家との関係が深いんじゃないかなあと」

「確かにガイエン伯爵家の領地では、織物に使う原料を手広く管理しているが」

「織物関係、ってことは、原材料以外も入りますか?材料と、加工と、流通と……あ、そうか。布だけじゃなく、デザインしたり、仕立てたりも?」

「そうだな。商会とも手を組んでいると聞く」

 オレの頭には、以前キリシュに連れられて街で服を仕立てた時のことが浮かんでいた。量産品だった前世の衣服を思い出して比較しながら、その生産工程の上流から下流までに思いを馳せる。サイズを測ったり丈詰めされたりしながら聞いた蘊蓄で、随分と手間が掛かっているんだなあと思ったものだ。

「しかし、ガイエン伯爵家が有力貴族であると言っても、極端じゃないか?」

「こちらの方達は、元々ガイエン様と対立していたエンダース様側で、織物の商売をされていたはずです。私達メイドは、ご主人様が纏うような最新のドレスもお世話出来るよう、色々な噂が入って来るものなんです。どちらで織られた布の、どのようなデザインや意匠のドレスなのかは、社交界から伝わって来ますもの」

「なるほど……確かに、マナの姉君が言うように両家が手を組んだなら、影響は広いだろうな」

 ベン図の外側だった場所に、オレは緑の輪を足した。黄色と交差するエリアを大き目に取り、『織物関係』という札を置く。

 夜が更けていく中、分類した人物が持つ要素を書き出していく。ベン図を書き取りながら、それとは別に名簿を作って線を引く。事実と、噂話で聞いただけの情報を分けて書き出していくことで、徐々に『ヒアリング事項』が浮かび上がってくる。

 オレの頭の中だけだったら、多分コレは見えなかった。メイド達の協力は偶然だったが、作業自体を広い場所を使ってやっていなければ、彼女達も入っては来れなかっただろう。

 仕事の案件で課題について相談したくなった時、

「個人のDMでやるなよ!オープンな場所で確認しろ」

と言われていたのが胸に過ぎる。

 オープンな場所でやり取りしたら、何か間違えていた時や失敗した時に色々な人に知られるから嫌だ、と抵抗感があった。しかし機密が守られる範囲なら、人の目に触れた方が、横からひょんなアドバイスだったり、情報が集まって来る。そのメリットの大きさは侮れないものだった。

 意外と人は、教えたがりなイキモノだ。自分が持つ知識や経験が役に立ちそうだと思えば、請われずとも与えたくなってウズウズしてしまう。

 ここで大事なのは、善意で集まった情報の取捨選択と、正確性の担保だ。カイもそれを理解しているようで、整理し直した署名のリストを矯めつ眇めつしている。

「さて、カイ様。ひと眠りしたら、後はオレ達の仕事ですね」

「ああ。明日が勝負だ」

 フーっと息を吐いたカイは、グイッと目線を上げた。

 自分は動かず指示だけを出すこともできる立場の筈だが、そうはしないのがカイという第四王子だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ