17.突発!断罪イベント③
執務室の扉をノックすると、すぐにカイの応答があった。
部屋にはマーベルとロッテがいて、カップを二つ並べてお茶の準備を進めている所だった。
「ハヤテ。ちょうど良かった」
「はい」
広い執務机には、告発文である手紙が並べられていた。ザッと数えて、十二枚。確かに先ほど持った時から、随分な厚みだとは思ったが。
「あれ?こっちとこっちは……」
ただ広げただけかと思ったが、よく見ると上下に分けて並べてある。
「こちら側は、署名のリストだ」
「署名だけで?」
これは、多い。横文字で一人ずつ名前自体の長さも違うから、目が滑って数えられないものの、行数だけで見ても三十名を超えている。一行に複数名入っている箇所もあるから、もしかしたら五十名近いかも知れない。
「この人数が被害を受けたり、あるいは目撃したことを訴えている以上、やはり何らかの事実はあると思うべきか……」
確かに、なかなかのインパクトがある。こんなに、ネリィに物申したい人間がいるとは。
「この全員に声を掛けるんですか?」
「一応はな。急なことだから、どれだけの人数が集まるかは分からないが」
オレが今、カイと共に考えるべきこと。それは、この世界で実際に起こっている事実について考えることだ。
平民とは言え、カイの側近見習いであり王子側の人間であるオレには、ネリィについて見えていないことがあるかも知れない。
「先程は考えなしに、色々言ってすみませんでした。改めて少し考えましたが、夢での話とは異なることも多いようで……」
「そうなのか?」
「はい。カイ様の判断に影響しても本意ではないので、比較の話は避けたいんですが」
「ああ……俺も、ハヤテの口から聞いた話を根拠に進めることは出来ないと思っていた。だから、内容の整理から始めるつもりだ」
「そうですね。まずは……」
「「署名の整理から」」
声が、重なった。思わず目が合い、頷き合う。このずっしりとした内容に向き合うのなら、カタマリで考える前に、要素に分けて考える方が良さそうだ。
「こちらの紙、私の方で切りましょうか?」
お茶の準備が終わった後も待機してくれていた、ロッテからの提案。どうやら先日の家系図整理を思い出しているようで、手には既にハサミがある。
「ああ、頼む」
本音を言うと、スキャンしてパソコン上でとか、せめて手紙をコピーでもして切り抜いたり書き込んだりしたい所だ。
しかしそんな便利なものはないし、筆記具と紙があるだけでもマシかも知れない。
「数が多いな……マーベル、文字が書ける者に声を掛けて貰えるか?」
「かしこまりました」
メイド達が集まって、一気に執務室は賑やかになった。オレの部屋のドアも開いて二間続いた状態にして机や椅子を動かすと、作業場所を確保する。
短冊状に切った紙に、メイド達が手分けして署名の名前を書き出して行く。その間にオレとカイは、署名以外の内容を改めて確認する。
「やっぱり、内容側は署名と一致しませんね」
手書きだから行ごとの文字数に揺れもあるだろうと思ったが、それにしてもと想像した通り、本文の登場人物よりも署名の方が遥かに多い。
「カイ様。こう言う告発文って、関係ない人が署名することもあるんですか?」
「そうだな……実例に明るい訳じゃないが、実際に見聞きして、内容に同意見だと言う場合にも署名することはある」
「なるほど。そうするとまず、グループ分けするなら三つくらいですかね」
「三つ?二つかと思ったが……一つは、内容に登場する人物だな?」
「はい」
「二つ目は、署名にだけ登場する人物。三つ目は……」
少し考えた後、カイは気付いた顔をする。
「内容に名前があるが、署名のない人物」
「ええ。この手紙でパッと分かるところだと、まずはサラサ」
「俺とシズル……ハヤテもか」
オレは、それぞれの名前を書き出して行く。
「メイリーの名前は……やっぱりないですね」
「メイリー?」
「あ、はい。彼女もどうやら、署名するように声が掛かったようで」
オレは、メイリーからの手紙をカイに見せる。本来プライベートであるべきとも思うが、そもそもカイの屋敷に送って来た以上、彼女も覚悟の上だろう。
「なるほど……しかしメイリー嬢は、ハヤテや、同じクラスのネリィや俺に対して親しみがあるからこう言ってくれただけなんじゃないか?」
「勿論、その可能性は……あります、が…………クラス?」
ハタ、と何かが引っ掛かる。
「ハヤテ?」
「…………カイ様は、この署名の名前、どれくらいご存知ですか?」
「社交界でよく目にする名前だから、知っている名前が多い……が……いや、あまり見ない名前もある。貴族の生徒以外か……?」
「多分そこじゃなくて。パッと見て分からない名前が多いなあと思ったんですが、コレ、全部ウチのクラス以外の方じゃないですか?」
「!」
メイド達が頑張って書いてくれた、付箋の海を見渡していく。
「もう少し、別の分け方も出来るかも知れません。ロッテ、ヒモかリボンはあるか?切ってもいいようなもので」
「え、えと、はい!コレどうぞ」
差し出された黄色のソレは、ロッテの髪を飾っていた物だ。流石に受け取れずに躊躇すると、解けた長い髪を背中に流して、彼女は笑った。
「もう飽きたので、いいですよ。切っちゃってください!その代わり今度、新しいリボンをハヤテさんがプレゼントしてくださいね」
悪戯っ子のような笑顔が、ロッテらしい。それに続くように、リボンで髪を纏めていた他のメイド達も同様にそれを差し出した。
「……みんな、ありがとう。時間もないから、正直助かる」
「ハヤテ、これで何を?」
「ベン図を作ります」
「ベンズ……?」
※次回更新は、2025/12/27を予定しています。




