17.突発!断罪イベント②
「学内裁判の時期が気になると言ったな。事実確認のためネリィを生徒会室に呼び、関係する生徒にも列席させるという話になっている。憶測が広まるのを避けるため、明日準備して、明後日には対応することに決まった」
「そんなに早く?」
「署名の名前が多いからな。生徒会側から触れずとも、関係者の口から中途半端に話が広まる方が懸念だ。バズってしまう、というやつだろ?」
「ハハ……まあ、大体合ってます」
断罪イベントは、主人公のハッピーエンドに向かうためのルート選択では重要なイベントだ。それがきちんと発生したことを喜ぶべきなのかも知れない。でも……。
「ヘレネの森の時は、夢で起きることが先に分かる事があると言っていたな。夢での俺は、どんな風にネリィに罪を突き付けるんだ?」
カイも、努めて冷静に振る舞っているようだった。複雑そうな表情で聞かれて、オレは一瞬ポカンとした。
「罪をって……カイ様が裁判官役を?」
「ああ。シズルに任された。ネリィへの質疑は、俺が対応する」
「それは……夢とは違います」
どういう事だ。ルート進行中のキャラが参加することはあるが、学内裁判の議長はいつも、生徒会長であるシズルだった。
しかし、シズルがカイに任せると言った意味も理解は出来た。今のシズルの立場で表に立つよりは、カイに任せた方が、幾分公平且つ意義のあるものに見えるだろう。
今のカイになら、任せられると判断された。このことは、断罪イベントへの影響があるのだろうか。
考えがまとまらない内に、気付けば屋敷に着いていた。
「後ほど、お部屋に伺います。夢とは違うこともあるようなので、混乱がないよう整理させて欲しくて」
「ああ。俺も、書かれている内容をもう少し検める」
夢の話なのに?と、エリクとマシュウの表情が問うている。カイにも、乙女ゲームについての話はあまり詳細に伝えられていないし、きっと飲み込めていないことも多いはず。それでも、オレの言い分をそのまま信じてくれようとしているのが伝わってくる。
「ハヤテさんに手紙が来てるよ」
屋敷に戻って早々に、アイシーがトコトコとやって来た。
内心ちょっとイヤだなという気持ちを拭いきれないまま、諦めて手紙を受け取り、部屋に戻る。
この世界のレターセットの類いは、前世の文具コーナーにあったような多種多様なものではなく、飾り気のないものが主流のようだった。だから誰からの手紙であっても、封を開ける前は総じて似たような見た目になる。
しかしオレは、裏の宛名を見るまでもなく、この手紙の主が分かった。
「メイリー……」
側近見習いになる前にあった、『不幸の手紙』と同じ筆跡だった。妙に余白の多い、小さな文字の癖も同じ。以前と違うのは、封筒を裏返した時に、匿名ではなく送り主の名前が入っていることだった。
何故こんな時に、と机に放り出したい気持ちを抑えて、念の為封を開ける。この世界の手紙は、時間差があっても伝えたいことを送るもので、わざわざカイの屋敷にいるオレに宛てた内容ということは、彼女なりには重要度の高い内容なのかも知れない。明日、学校で直接渡せば良いのに。
開いた手紙は、覚悟していたのとは全く違った。『拝啓 ハヤテ様』という丁寧な書き出しから始まり、『マノン様とミア様にお気を付けください』という警告のような内容だった。
予想外の内容に、二度見三度見してしまう。
『ハヤテさんは以前、愚かな私の行動に寛大な判断をしてくれました。それからのご活躍を拝見し、これは直接伝えなければならないと思ったのです。この度のネリィ様に関する告発文について、私にも話が回って来ました。ハヤテさんやサラサさんのことだけではなく、遠回しながらカイ様やシズル様まで侮辱するような内容に憤りを感じます』
確かにこれは、学校で直接渡すことはできない内容だ。
メイリーが、何故オレに?
オレは『不幸の手紙』があった頃、その前も後も、彼女には他のクラスメイト相手と同じく振る舞っていた。挨拶だとか、目線が合った時の雑談だとか。
彼女の態度も、胡散臭そうな表情もありながら、普段通りを装っているんだろうなと思っていた。
当時、『不幸の手紙』を相談した際オレは、全ての処理をヴォイドに任せたのだ。学校の問題なんだから、個人でなんとかするより、教師が対応するのが仕事だろうと思っていたのと、単純に面倒だったのがある。
しかし今から思えば、あのヴォイドのことだから、彼女にはイイ感じにオレのことを盛って伝えて、諭してくれたのかも知れない。
書かれている内容が、逆張りの嘘である可能性はないか?
そう疑って読んでみても、メイリー側のメリットが分からない。メイリーは王子の婚約者候補ではないし、ネリィの取り巻きでもない。オレと同じく、ララブでは特に存在しないモブ令嬢だ。
断罪イベントが発生すると、ネリィは自動的に孤立無援の状態となり、取り巻き達も皆ネリィの罪を告白する。王子であるシズルや、周りの攻略対象達も、サラサの味方をする。
それを思うと、カイはこの告発を素直には信じていない様子だった。あのシズルが裁判官役をカイに任せたのも、どんな意図があるかは分からないが、イレギュラーには変わりない。
発生時期を皮切りに、あれだけ繰り返し発生していた断罪イベントの『お約束の展開』からのズレが浮かび上がる。
もしかして、ララブのシナリオを辿っているように見えても、本来とは異なる事実があるのかもしれない。
オレは一度、深呼吸した。
まだネリィは断罪されていないし、その罪も確定していない。
そして何よりも、オレ自身が疑っている。
オレはララブの主人公として関わった時間より遥かに長く、この世界のネリィと直接関わり、彼女を見て来た。
ゲームのスチル画像で何度も見た歪んだ表情ではなく、思い出すべきはいつもの、呆れたような表情で微笑う彼女の顔だ。




