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17.突発!断罪イベント①

 『夏休み』の残り期間中オレは、カイと共に王族史を確認したり、王宮に関連する土地に足を伸ばしたりして過ごしていた。写真がないこの世界の本だけで学ぶのは早々に限界を感じたので、カイも、エリクとマシュウも付き合ってくれるということで、有難くあちこちに同行してもらった。

 建造物や、丘陵や、花卉を育てている場所や。山奥では、なんとゾウを使って土木業をしている土地まであった。ゾウがいるんだな、ヒーリス王国に。たしかにエンディングの結婚式のシーンで、背景に描かれていたような気もしなくはない。

「昔は、戦車として使われていたらしい」

 ゾウの鼻を撫でながら、カイが静かに言う。周辺国から大国と呼ばれるヒーリスの歴史には、中々に血腥さもある。

 この国の歴史や文化に触れている内に、ノリスのことはすっかりタスクの優先順位下位へと押し下げられて行った。連絡もなく、やはりちょっとした様子見だけだったのだろうか。

 王立学園の後期授業が始まる頃には、そんな風に考えていた。けれど、いつもの学園生活が始まったのだと思った矢先。

 その手紙は突然、生徒会室に届いた。


 厚みのあるそれは最初、シズルが開封した。そして厳しい表情のシズルから、カイが受け取ったと言う。

「カイ。この手紙の内容に、覚えはあるか?」

「なんですか?……ネリィについて……?」

 学園から屋敷に帰る馬車で経緯を聞きながら、オレは、カイの手から手紙の束を受け取った。シンプルな封筒から出した一枚目を目がなぞると、指に思わず力が入って硬直してしまう。

 『侯爵令嬢ネリィ=シシェロゼッタは、次代の王妃として相応しくない。何故なら――』

 ネリィについての、告発文めいた手紙だった。

「悪戯か何かだと思うか?」

 カイが、オレの同意を期待してそう訊ねたのは分かっていた。しかしそれに応えることは出来ず、黙ってしまう。

 何故、という言葉がグルグルと胸の中で渦巻く。

「ハヤテ?」

「今って、9月ですよね?」

「ああ……?」

「断罪の……この件の、学内裁判はいつですか?」

「どうしたんだ?何か知っているのか?」

 カイの表情に、オレも、自分の口から勝手に滑り出る言葉の脈絡の無さに動揺していた。頭と、気持ちと、言葉と、どれもが別人のモノみたいに勝手に動く。

「早過ぎるんです、あまりにも!」

「ハヤテ、落ち着け」

 馬車に同乗するエリクとマシュウも、取り乱すオレに困ったような表情をしている。

 そうだ、落ち着け。ディノとサラサのリスイベントみたいなものだ。シナリオ通りじゃないことなんて、山ほどある。

 でも、半年も早いなんて。

「――――ハァ……」

 カイが、オレの動揺を鎮めようと両肩に手を置く。息を吸い、吐いて、やっと少しバラバラになっていた頭から気持ちまでが繋がってくる。

「落ち着いたか……?」

「……ハイ、すみません」

 オレはもう一度大きく息を吸い、カイを真っ直ぐ見る。頭の中でグルグルと巡っているものも、まずは言語化して、共有する所からだ。

「オレは、コレを夢で見たことがあります」

「なぁんだ、夢って!」

 横から聞こえたのは、先ほどまでハラハラした表情で聞いていたエリクの声。マシュウもホッとしたように笑っている。

「……例の?」

 カイの潜めた声に、頷いて返す。事情を知らないエリクとマシュウには滑稽に聞こえるかも知れないが、時間がない。

「勿論、オレの夢は未来を言い当てるような精度ではないです。でもこの中には、サラサのことも書いてあったんじゃないですか?」

「ああ。この辺に……」

 カイが三枚目辺りまで捲って、サラサの名前を示す。

「アレ……?ハヤテさん、さっきチラッと一枚目を見ただけなんじゃ……?」

首を捻る警護の二人へのフォローまでは、申し訳ないがスルーした。

「ネリィ様が、サラサの故郷の領主に圧力を掛けている、みたいな話でしょう」

「なんで、そんなことを」

「なんでって、そりゃあ……いや、まあ、そう……ですね」

 そう。『なんで?』が大渋滞していて、だからオレも動揺してしまったのだ。

 この手紙――告発文は、ネリィを断罪するためのものだ。ララブの中で殆どのルートでそれぞれに発生し、主人公が王子やヴォイドと結ばれるキッカケになる重要イベントの入り口には、いつもこの告発文があった。

 しかしこの世界でネリィは、サラサと親しくしているように見えた。婚約者候補のカイとシズルとも、生徒会室で普通にやり取りしている様子だったし、嫉妬でこんなことをする理由も状況も見出せない。

 それとも、カイという王子の側にいるオレには気付かれない程度に用心しながら、悪事を進めていたのだろうか。

「ハヤテの夢だと、ネリィが……?」

「……すごく、言い難いですが。その告発文には、署名が入っているんじゃないですか?」

「ああ。筆頭は、マノン=ガイエン」

「ガイエン家はたしか、伯爵家でしたか。ヘレネの集いでもお見掛けしたような……」

「そうだ。マノン嬢は、シズルの婚約者候補だ。彼女の名前がある以上、生徒会としてはこの件を正式に確認する必要があると、シズルの判断だ」

「シズル様らしいですね」

 プライドは高いが、潔癖なくらい正々堂々とした所がある人だ。自分の婚約者候補達の名前が出ている告発を、揉み消すつもりなどないんだろう。

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