16.発露!王位への想い⑤
「――――ノリスとは、ここ数年会っていない。元々別邸に住んでいて、今は隣国に留学中のはずだ。だから、どうやってハヤテのことを知ったのか……」
「王宮側から聞いた、とか?」
カイは、首を振った。
「正式な側近として就任すれば公示も出るが、今の段階で他の王子に報せるようなことじゃない。しかしこのタイミングなら、単純に考えれば王位継承権以外の理由が思い当たらない」
「オレがカイ様の側近になったら困る、とか……?」
言いながら、なんとなくしっくり来ないものも同時に感じてしまう。オレの言葉に、カイがフッと笑ったのが分かった。
「何故、最下位の王子やその側近候補をそんなに気にするのか、だろう?確かに違和感がある」
「まあ……そうですね」
「俺自身への、直接的な話だけじゃないのかも知れない。父には第四王妃までがいるが、俺はセラと同じ母を持つ。王位継承順位は変わったものの、正室の息子なのは変わらない。――――ノリスと、その母であるイザベラ様の話は?」
「お噂程度には」
カイの表情は、複雑そうだ。
「……ノリスの意思なのか、イザベラ様の意思もあるのかは分からないが、王位継承順位の動きが気になって戻って来たのかもしれないな。前も話した通り、直接危害を加えるようなことはしないと思うが、あまり楽観視もできない」
カイがそんな風に言うとは思ってなくて、オレはやっと、『王位継承順第五位』になった『ヒーリス王国第四王子』であるカイについて、向き合わないといけない気持ちになっていた。
側近を目指すということは、王子としてのカイと同じレールを走ることだ。カイの意思から目を逸らしていても始まらない。
「カイ様は、王位を目指しますか?」
ずっと、傍に置いていた問いだった。屋敷に塀を造った時から、キッカケはあった筈なのに。
カイは分かっていたように頷いて、口を開く。
「それについて、いつか話さないといけないと思っていた。――――俺は元々、王位に興味はなかった。セラもシズルもいるし、母も、セラが王子として邁進する姿は呪いのようだと言って悔いていたんだ。俺には、王位を目指せとは一度も言わなかった」
「そうなんですか……セラ様はてっきり、望んで王位のための準備をされているのかと」
「多分、今はそうだと思う。婚約者探しが難航していなければ、父もそう決断していたかも知れない」
「そうなんですか?」
「セラには元々何人もの婚約者候補がいたし、今もその立場の令嬢はいるが、誰とは決められないまま王立学園を卒業してしまったんだ」
やはり、王位継承順位と婚約者の状況を紐付けて考えることくらいはしているか。そう思ったものの、続いた言葉にオレは声を上げてしまう。
「ちょうど王宮で父と話した時、オレは、次王をセラにしない理由を聞いた」
「え!?」
まさか国王にチョクで聞いたのか。相変わらず変なところで大胆だが、カイらしいなとも思ってしまう。
「……でもそれ、国王陛下に怒られませんでしたか?」
「ああ、怒られた。正式な発表を待たずに直接聞くなんて、何を考えているんだと」
デスヨネー。大事な受験で試験結果が出る前に、その学校の校長先生に直談判して合否を聞きに行くようなもんだ。苦笑いしか返せない。
「『セラが王位継承者だと決まれば、肩の荷が降りるとでも考えたのか』と父に言われた時に思ったんだ。それは別に望んでいないな、と」
「確かにカイ様は、楽になりたさでそんなことを聞いたりはしませんよね」
「ああ……と、言うか。肩の荷だと感じることすら出来てなかったことに気が付いた。そして俺は、それがまだ自分の肩に掛かっていることで、なんと言うか……ホッとしたんだ」
「ホッとした?安心した……と?」
「ああ。――――まだ俺には、ハヤテと向かう先があるんだと」
真っ直ぐな瞳だった。
「父上には未だ、迷いがあるんだと思う。その理由を想像し過ぎても良くないと思うが、その中には多分、俺も含まれている筈なんだ」
確かに、王位継承順位を第五位に落としたのがイコール完全に選外と言うことなら、わざわざ王宮で国王自らオレという側近見習いに声を掛けた理由がない。今回王宮にカイを呼び出したのだって同じこと。
「綺麗事なのかも知れないが、兄達や、末のマリオールを押し退けてでも国王になりたい、という気持ちでもない。ただ、父上が思い描くこれからのこの国に俺やハヤテが必要とされるなら、それに応えられる自分でいたいと思っている」
――――そう。カイはオレと少し似ている。
何者かに成りたいという大それた野心はなくとも、誰かに望まれる自分でいたいと思い続けている。
就活の自己PRで語る『誰かのために』は上澄みみたいなもので、必要とされる場所や役割を探して生きたいと願うのは、人のサガなんじゃないのか。
自分は自分だけのために存在すると思うのは、楽だけど、とても不安なことだ。母親からの期待も、王位からも遠ざけられたカイは、どうしていいか分からなかったんじゃないか。
ララブでは地味で大人しくて、主人公にゆっくり寄り添うだけの王子様。王宮の舞踏会にも存在を見せず、イベントでは学園の図書室の隅で主人公が静かに関わるだけ。
でも、今のカイは違う。
「俺は、俺自身の出来ることなんて小さなモノだと思っていた。セラやシズルと比較したこともある。王位継承順位が変わった時ですら、そういうものかと受け入れてしまうくらいに鈍感だった。でも最近やっと、俺が出来ること、頑張れること、望まれたいと思えることについて、考えられるようになった。……ハヤテのお陰だ」
『誰かのために』は、『誰かのせいで』にも成り変わり得る。それを踏みとどまらせるのは、自分の気持ちに向き合うことしかない。例え誰かの価値観の上に乗っかっていても、満たすべきは自分の気持ちだ。
オレは今、やっと今までのオレの価値を、自分自身で少しだけ認められた。オレが望まれたかった、認められたかったもの。
「ノリスだけじゃなく、他の王子もきっと、色々なことを考えていると思う。俺に何か秀でた所があるのかは分からないが――――少なくとも俺には、ハヤテがいる」
「ハイ。オレ達はオレ達なりに、国王陛下や、この国が望むような王子と側近で在ることを目指しましょう。」
カイは、オレに手を差し出した。握手のように握り返す。
「――――フッ」
「――――ハハ」
思わず目を合わせて、二人で笑ってしまった。初日の学園中庭での握手がもう、なんだか既に懐かしい。
次話、思わぬタイミングで『イベント』が始まってしまう
※次回更新は2025/12/20頃を予定しています。ブックマークしてお待ちいただけると嬉しいです!




