16.発露!王位への想い④
「オレに、出来たことがありますか……?」
「ある。たくさん」
無能だとまで思わずとも、ただただ、自分が出来ることを出来る範囲でこなして行くやり方しか、オレは知らない。
カイが嘘や冗談を言うタイプじゃないのは知っているが、オレはカイのことと言うより、オレ自身のことが信じられずにいた。
「実を言うと、父上に言われた時にも頭で理解したつもりなだけで、真には分かっていなかった。でも多分、父上が言いたかったことは――――俺がちゃんとハヤテの成してきたことを評価して、伝えないと、ハヤテ自身にも分からないんだな。……そう言うことだと、やっと分かった。不要な不安を与えてしまって、すまない」
カイは、表情を歪めて頭を下げて来た。別にカイは悪くないのにと思う反面、全てを自責にすることでオレ自身にも、『逃げ』があったのかも知れない。
やれなかったこと、出来なかったことを考え続けているオレは、自分自身ではない他者から与えられる評価からずっと逃げていた気がする。
前世の仕事でも、期ごとに行われる自己評価は苦手だったし下手だった。実績と自己評価が合っていない、と上司に呆れられたことが何度もある。
出来たことは全部がただのラッキーのような気がして、出来なかった時には運が悪かったのだと考えて。
「ハヤテは今まで、何もやって来なかった訳じゃないだろう?」
「そう、ですね……屋敷に塀を作るとか、舞踏会でも少しは」
躊躇いながら口に出すと、カイは首を振る。
「少しじゃない。俺がシズルとちゃんと話せるようになったのは、ハヤテからコツを聞いたからだ。衣装集めやその管理だって、サラサとネリィの後ろで、寝る間も惜しんで細かい整理や調整をしてくれていた。ハヤテは、必要なこと、出来ることをやっていただけだと思ってるんだろう?」
「……ハイ」
「俺には、いや……俺達には、それが一番難しいことだった。予算内で進めていくことのスタートとゴールだけがあって、間の道程が見えなかった。ハヤテが一つずつ、必要なことを整理して並べてくれたから、俺達は迷わず進むことが出来たんだ」
そんなことは、とクセのように謙遜の言葉が出そうになるがグッと堪える。出来たこと、やったことを思い出す。自分の力だけでやり遂げたなんて、到底思えない。それでも、何も出来なかった訳じゃない。自分自身で、評価しても良いんだろうか。
ララブには無かった、舞踏会の細かい準備や運営。確かにオレは、ゲームの知識ではなく、自分で手を動かして、足を使って、自分の頭で考えていた。そして舞踏会の終わりには、参加者の笑顔が見られたじゃないか。
「……そう、ですね。オレ、頑張ったと思います」
「ああ」
ただ、カイや、サラサやネリィといった生徒会のために動いただけのつもりだった。でも確かに、出来ることならと惜しまず動いた。『よく出来た』かは分からないが、『頑張った』ことは誇っても良い筈だ。
カイは、受け止めるように微笑むだけだった。
少し、鼻の奥がツンとする。カイの側近として、特別な力や能力がないとダメかと思っていた。それをカバー出来るくらい、上手い立ち回りくらいは出来なきゃいけないのでは、と。
オレ自身が持つ、今出来ることだけでも、通じるんだろうか。――――いや。多分、通じても通じなくても、それはあまり重要じゃない。ただ、オレ自身がやり切ったと思える動きが出来たなら、きっとカイは見ていてくれるんだろう。
「側近試験は、いつでも受けます。国王陛下がオレを高く評価して下さっているなら、応えられるか逆に不安ですが……出来る限りを尽くします」
「ありがとう。ヴォイド先生には、俺からも頼んでおく。セラの側近候補だった人だし、きっと力になってくれる」
よーし、頑張るぞ!なんて思いたいところだが、オレはジワジワと、セラの名前から連想した『ノリス』のことを思い出していた。
その目的が分からないことや、直接何かされた訳ではないにしても、接触があったことを報告しないわけには行かない。
「……ハヤテ?どうした?」
「あの!報告が遅くなりましたが、オレ、ノリス王子に会いました」
「――――ノリスに?この屋敷に来訪があったのか?」
急な話に、カイは目を瞬かせると、確かめるように声に出して確認する。なんとか伝えなくてはいけない。
「ノリス王子――――というか、ビートという名前で、先日オレに手紙が届きました。オレはてっきり、パプリカ村で昔付き合いのあった人物だと思って約束したんですが、待ち合わせ先にはノリス様がいたんです」
「パプリカ村の、知り合いと一緒に……?」
「じゃ、なくて。ビートを名乗って現れたのが、ノリス様でした」
夢で見たノリス王子の顔立ちをオレが知っていたこと、偽ビートとわかっていてもそのままの態度で振る舞ったことを、順番に話していく。
カイは怪訝な表情を浮かべつつ、一通りオレの話を聞くと、小さく唸った。
「随分、手の込んだことをしているな」
「ハイ……ノリス様側からしたら、オレという人間の故郷を調べて、故郷にいたビートという人間について調べて、しかもなりすまして手紙を用意し、安い店や宿まで調べて……」
「そして結局、自分の正体についてハヤテには伝えなかったのか。……俺が聞いて良いことかは分からないが、何か内密な相談でも?」
「いえ、それもなくて。なので、目的が分からない状況です」
これがシズルだったら厳しく追及されそうだが、カイは予想通り、オレとノリスの間にあったことについて、話せる範囲で構わないと伝えてくれた。
相変わらず王子らしくない気もするが、なんだか最近はこれも一つの器の大きさのような気がしてくるのは、主人に対する贔屓目だろうか。




