16.発露!王位への想い②
「なんだか辛い話だな……」
ロッテが言う通り真実は分からないものの、酷くプライベートな話だ。王宮の外ですら、市民達にさも常識のように噂されてしまうというのは、どういう気分だろうか。
「イザベラ様は、シアナ様とは確執がある……?」
「そんなの、分かりませんけど。でもお二人は、ご婚姻前の王立学園の頃から競われていたと聞きますね」
「なるほど」
第三王子であるノリスの母が、第二王子のシズルより先の序列なのが気になったが、そう言うことかと腑には落ちる。
王子達の母親について、確かに考えたことがなかった。一夫多妻制の国ではあるものの、貴族の一部に残っているだけで、正妻以外を持たない家も多いとは、ヴォイドの授業でも話していたことだ。王族には必要なことなんだろうけれど。
セラとカイの母親シアナと、ノリスの母親イザベラは仲が良くないらしい。と言うことは、ノリスもカイにあまり良い印象は持っていないと考えた方が良いかも知れない。
「ノリス様も、王宮じゃなくその別邸にいらっしゃるのか?」
ララブでは留学中という設定だったが、どういうことだろうかと頭を捻る。
「さあ?王立学園には入学されなかったと聞きますけど、詳しくは……」
「そうか……いや、有難う。ロッテのお陰で色々整理できた」
そう言ってヘラリと笑うと、呆れたようにロッテも微笑む。
「お役に立てたなら良かったです。まあ、側近試験に出るような内容じゃないと思いますけど。……ハヤテさんは皆が知らないことを学ばれて来た分、スッポリ抜けてしまった所がありそうですし。もしヴォイド様やカイ様に聞き難いことがあったら、なんでも聞いてください」
「ハハハ……助かる。頼りにしてる」
オレの事情を知るカイになら聞けるかとも思ったが、実際問題、同級生の親側の家庭事情を根掘り葉掘り聞くというのは気が引ける話だ。ましてや、カイは人のネガティブな話を他言するタイプじゃない。もし王妃同士のドロドロだとか、なんだかそんな話があるなら、噂好きのロッテやメイド達の方が情報源としては頼れるかもしれない。
一人になった部屋で、ロッテが整えてくれた家系図を改めて見渡してみる。
ララブで、セラが主人公に悩みを打ち明けるシナリオがあったのを思い出す。
『私にも在学中からの婚約者候補が複数いますが、彼女達の中から誰かを選ぶ、ということが出来ませんでした。』
主人公目線では、たくさんの令嬢達ではなく自分が選ばれたのだと感じられる流れになっていた。しかし実際の所は、どうだったのか。第一王子のセラは、学生時代から競っていたと言うシアナとイザベラのやり取りを一番身近で見ていた可能性がある。
「オレだったら、ウンザリしそう……」
母親の近くで過ごすはずの幼少期に、市民にまで広がっていた噂話を、セラが耳にしない筈もない。王立学園で思春期を過ごす中で、複雑な気持ちもあったんじゃないかと想像してしまう。
婚約者が正式に決まっただけで、末のマリオールの王位継承順位が動いた。だとしたら、セラが在学中に相手を決めてさえいれば、とっくに次期国王だった可能性もある。
「だからセラは、別の成果として、特待生制度を推進した……?」
まだ会ったこともない第一王子について、無理に情報を繋げても意味はない。そう思うものの、カイの同腹の兄だと思うと気になってくる。
「まあ、オレが思い付くようなことは王子達もそれぞれ考えてるだろうし……さっさと婚約者を決めるだけが目的だと、乙女ゲームにならないか」
カイは、どう思っているんだろうか。侯爵令嬢のネリィと正式に婚約を結べば、王位継承順位だって簡単に巻き返せるとは考えなかっただろうか。
「うーん。あのカイがネリィを利用することなんて、考えないか」
今頃王宮で、どう過ごしているのだろうと想像を巡らせる。カイが帰って来たら、話したいことが沢山ある。
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その日は王宮から、予定通りカイが帰って来た。
屋敷の主人であるカイを、使用人達が揃って出迎える。当然その中には、オレも含まれる。
ヴォイドの別荘で過ごしたり、偽ビートと会う休暇(?)を過ごしたりと慌しかったが、日数としては二週間ほどでしかない。しかし、その顔を見るとやけにホッとする。
警護のエリクとマシュウも付いて王宮にいるのだから、この屋敷で過ごしている以上に安全なのは間違いなかった。だから別に、心配していたつもりはないのに。
「おかえりなさいませ」
「ああ。久しぶりだな、ハヤテ」
「はい。……王宮で、何かありましたか?」
ただの移動疲れだろうかと思う一方、カイの表情が曇っているのが気になった。あまり、見たことのない顔だ。
「ああ、父上と話したことがあって……」
言い掛けた口を噤んで、カイはマーベルに耳打ちする。かしこまりました、とお辞儀を返すと、彼女はすぐに他のメイド達に指示を出し始める。
「落ち着いて話そう」
「はい」




