16.発露!王位への想い①
カイが不在の間オレは、ヴォイドから習ったことの復習に加えて、以前サラサに教えてもらった王族についての本を読むなどしていた。
正直、仕事はやりながら覚えて行く方が性に合っている。前世での仕事は業務中に勉強時間が取れるような環境でもなく、手を動かし、人と話し、合間合間にネットで検索して、なんとか必要な知識を蓄えていったものだ。
そんなオレが、側近の仕事のために本を読むというのはなかなかのハードルだった。シズルの屋敷で貰った子供向けの教本と違い、重厚な王族史の本は取っ付き難い。
しかし側近試験対策という以上に、カイの横にいるためには必要なことだと思っていた。近代史はヴォイドからも習っているが、国の成り立ちと王政の始まりや、逆に最新の“今代”の王族については手付かずだ。通常なら昔話で子供でも知っていたり、近所の噂話で自然と覚えるような内容とも言える。しかし生憎、この世界での過去の記憶が曖昧なオレの学習にサラサやディノを付き合わせるわけにもいかなかった。
“今代”の王族ということは、カイの両親や兄弟、あるいはその親戚の話になる。
オレはいつもの如く、短冊状に切った小さな紙に知っている名前から書き出して、試しに家系図のように並べてみた。糊のない付箋のようなものだが、動かしながら思考が整理できて便利だ。前世の文房具に懐かしさと有り難さを感じるが、無いものは仕方ない。
「あら?間違ってますよ」
不意に、傍からロッテの声がして振り返る。どうやら作業に没頭している間に、お茶を淹れてくれたようだった。
「どこが?」
「お母君が足りません」
オレが作った家系図は、よく見慣れた形で両親の下に子供が紐付いている形だ。しかし確かに、この国は一夫多妻制。
「えーっと……こうだっけ?」
未使用の付箋に『母2』と書き、『国王』の横に置く。左右に『母』と『母2』があり、それぞれの下に『セラ』『シズル』と順に動かしてみる。
「あの、これって上がお母君で、下は王子様達のことで間違いないですよね?」
「ああ」
「じゃあ、やっぱり違います。と言うかハヤテさん、もしかしてご存知ないんですか?」
「あー……アハハハハ……」
「……ハヤテさんって、何処かで一度記憶喪失になったんじゃないですか?たまに本当に心配になるんですけど」
「ハハハハハ……」
結構鋭いな、ロッテ。オレの誤魔化し笑いに、呆れたような、ガチめの心配なトーンで言われる。
「……もう。王子様方とお母君について一緒に話題になるようなご年齢でもないですけど、王位継承順位の話が出ると大体話に上がるじゃないですか。……この紙、お借りします」
そう言ったロッテは、未使用の束から二枚の付箋を追加すると、『3』『4』と書く。それを見て漸くオレも、王子達が腹違いの兄弟であることを思い出す。
「あー!そうだった、そうだった。それで、王子様達はこう……」
「違います!えー、これテストだったりしないですよね……?ハヤテさん、私に意地悪してます?」
イヤイヤイヤイヤ。勝手に入って来たのはそっちだろう、と思うものの、このままロッテから話を聞いた方が早いかと、首を横に振るだけで応える。
胡散臭そうな表情を浮かべつつも、ロッテはオレが並べた王子の付箋を、もう一度動かした。その際わざわざ、名前も書き込んでくれる。『様』を足さない訳にはいかないらしく、手間取りつつもなんとか小さく書き込んでいた。
『母 シアナ様』の下に『セラ様』『カイ様』。
『母2 イザベラ様』の下に『ノリス様』。
『母3 ルージュ様』の下に『シズル様』。
『母4 レイ様』の下に『マリオール様』。
王妃が右から並べ直されて、オレが元々王子の順番で並べていたのとはガラッと変わった系図になった。母達の名前はララブでは出て来なかったもの。セラとカイが同じ母というのも、聞いた気もするが二人の会話やエピソードが全然無かったせいで印象に薄い。
「第二妃のイザベラ様は、有名ですよね」
「有名……?」
ララブでは聞いたことがないけどな、という気持ちが表に出てしまったが、ロッテはまたドン引きしている。
「いや、言いたいことは分かる。分かるんだけど、取り敢えず聞かせてくれ。なんで有名なんだっけ?」
「――――イザベラ様は、ご正室になり掛けたお妃様じゃないですか」
「なり掛けた、ってことは……」
「私も、母や叔母がヒソヒソ話してたのを聞いたくらいですけど。先に予定されていたお子様に不幸があって、結局セラ様が第一王子として誕生されて、第二妃の地位になったとか」
「順番が、入れ替わった?」
「ええ。療養のため別邸に移られて、その間にシアナ様がご正室になられたんです。国王陛下のご判断だから仕方ないけど、酷いわねって……。それ以来表には出て来ないらしく、第三王子のノリス様が誕生されてからも、別邸でずっとお過ごしみたいです」




