15.再会?謎のチャラ男登場⑤
逆にオレから、カイ王子に会わせるとでも提案するのはどうだろうか。考えてはみたものの、パプリカ村の人間をカイに紹介するのは謎過ぎる。オレの家族ならともかく、数年前に村を出て行った知り合いを。
「ビートは暫く町に居るのか?」
「うんにゃ。近々また隣国に戻るよ。王都の空気はおれに合わないからさ」
「ヒーリスが嫌い?」
「……ああ。嫌いだね」
偽ビートの瞳に、暗い色が現れる。
「まあ、お前がカイ王子を焚き付けて王様にして、良い国にしてくれよ。商売とかやり易い感じにして、おれのことも儲けさせてくれたら助かるわ」
その要求が冗談なのは、率直に伝わって来る。彼はオレに何を求めているのか。何故こんな手の込んだことをしてまで、近付いて来たのか。
店を出て、偽ビートが泊まっていると言う安宿の前でそのまま別れた。次の約束もなく、またな、という言葉だけで。
屋敷への帰り道、この接触の意味について、オレの考えはドツボにハマって行く。
偽ビートは、ほぼ間違いなくあの王子だ。ヒーリス王国第三王子、ノリス。
年齢ではシズルと同い年だったはずだが、普段王立学園にはいない。他国に留学していて、おチャラけた自由人でありつつも、王子らしくないワイルドな振る舞いでトラブルを呼び込むようなタイプ。
留学から一時的に戻って来たタイミングでたまたま主人公と出会うという流れだが、隠しルートの一つで、第一王子のセラルートを攻略したデータじゃないとそもそも出会えないキャラだ。
オレはサラサじゃないのだから当たり前かもしれないが、オレ自身はそもそもセラに会ったこともない。カイルートやディノルートで無関係の筈のノリスが、何故こんな所に出て来たのか。シズルとの関係も、同い年という情報以外はピンと来ない。
知らない内にサラサがセラルートを進んでいるのかも知れないが、彼女は今ディノと里帰りの真っ最中だ。ノリスがこのタイミングで王都に戻ったところで、そもそも出会える訳がない。
本来は、攻略キャラクター毎に選択肢を変えつつ何度もプレイしていくのが、乙女ゲームだ。しかしオレの記憶の限り、サラサが誰かと結ばれて巻き戻されているような記憶はない。だから当然、攻略後に出会える筈の隠しキャラが出て来るのは想定外のことだった。
「全然無関係、ってこともあるか……?」
本来のシナリオのことは一旦、置いておいて。
留学中のノリス王子が、たまたま弟王子であるカイの側近見習いになった平民のことを知る。この平民がヤバイ奴なんじゃないかとカイのことを心配して、こっそり調べている。
そんな話だったらどうだろうか?
「いや、無いな……あいつ絶対、カイのことを馬鹿にしている」
王位継承順最下位となったカイに対して、同情や心配の色が全くなかった。シズルのように、実は弟を気に掛けている、というタイプとはとても思えない。
カイの側近見習いだという平民がどんなものか、軽く様子を見ておこう、という程度の興味関心と思った方が納得できる。こんなに手の込んだ偽ビート設定さえなければ、それで簡単に飲み込めたのに。
「…………ん?そういうことか……?」
あいつはもしかしたら、今後もまたオレの前に現れるつもりがあるのかも知れない。今回は、オレが偽ビートに気付こうが、気付かなかろうが、どっちでも問題ない程度のやり取りに留めていただけで。
今後の機会に繋げたいだけで、今日のオレとの会話には大した意味もないのかも。
前世でも、見込み客に毎回クロージングするのは新人だった頃だけだ。段階的に顧客と関係値を作るため、情報収集をすることもあれば、ただ雑談で終わることもあった。
そしてそれは、キーパーソンに繋げてもらうためのキッカケ作りでもある。現場の担当者と仲良くなった所で、契約書に判を押すキーパーソンに話を通さない限り、受注は取れない。
ノリスが何を考えているのかは分からないが、オレのやるべきことは明白だ。
側近見習いであるオレに、他の王子が接触して来た可能性が高い。主人であるカイにこれを報告するのが、間違いなくオレの仕事だろう。
次話、ハヤテはカイの真意に近付く。
※次回更新は、2025/12/13頃を予定しています。ぜひ、ブックマークしてお待ち下さい。




