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13.謁見!王宮と舞踏会①

 舞踏会の朝、オレは寝不足のクマを隠さない顔で部屋の鏡台前にいた。

時刻は未だ朝の五時だが、今日ばかりは仕方ない。

 顔色をロッテに怒られながら、モタモタと、下ろしたてのタキシードを身に纏う。

服については、オレにも借り物で十分と思っていたのだが、今後必要な機会が増えるからとカイの計らいで新しく仕立てられたものだ。

 自分のお金で買わない高級な服というのは、どうにも落ち着かない。とは言え、奨学金の中で生活費として受け取っている額ではとても買えない以上、仕方がない。

 前世では量産されていたものが、こちらではそもそも高級な手作り品しかなかったりと、この世界の物価には未だに慣れない。雑誌か通販サイトでもあれば、どんな物がどんな値段か比較も出来るはずなのだが。

「それにしてもこの紙の束、本当に持って行くんですか?」

「ああ。あ、崩すとマズいから触らないで」

「せっかく王宮で舞踏会ですのに……」

 ロッテが、ドン引きな表情でオレの荷物を見ている。

 王宮の舞踏会、というのは憧れがあるものらしい。有志生徒とはいえ生徒会という主催側で準備をして来たこともあり、オレとしては完全に仕事の感覚だが、サラサやネリィは忙しさの中で楽しそうにもしていたし、ロッテの言い分は確かに正しい。

 仕立てたばかりのタキシードでめかし込んだのだから、紙の束を後生大事に抱えてないで、髪でも整えろと言いたいのだろう。

「睡眠不足は美容の敵なんですよ?顔色も悪いし、カイ様が見たら何て言うか……」

「まあまあ。今日が終われば本当に休暇に入るんだし」

「もう」

 王宮の控え室ではヘアメイクの専門家を招いているが、オレは身支度にそこまで時間を掛ける余裕もないため、ブツブツ文句を言われながらも出発前にロッテに任せることにした。

 メイド達の中では一番オシャレ好きで、手先が器用なのがロッテだった。ただ割とあっけらかんとした性格で、オレは密かにギャルっぽさを感じている。

 香水っぽい香りの液体で髪を後ろに流されて、オールバックみたいな髪型になった。前髪が短くてピョンピョンしてるが、フム、とロッテが満足そうに笑うので、多分大丈夫なんだろう。

「カイ様とも別で出発されるんですよね?朝食も馬車の中で済ませるなんて」

「だからだって。カイ様と一緒じゃ、そんなことできないだろ。警護でエリクとマシュウも付き合わせることになるし」

「そんなに朝早くから、何をするんですか?」

「下見」

 舞踏会が楽しみ過ぎて寝付けなかったという訳じゃないが、別の意味で気になってしまい、オレは睡眠を削ってでもと昨日から走り回っていた。

張り切っている、という風に見られるのは結構だが、どちらかと言うと実態としては“不安”の方だ。

 試験が終わった後の王宮での舞踏会は、ゲームにもあるシナリオだ。

 しかし、そもそもこのシナリオにカイは出てこない。

 地味な最下位王子は、生徒会役員ではあるが、主人公をダンスに誘うこともなく、語り合うでもなく、居るとも居ないとも話題にならず、とにかく話題に出てこないのだ。

 先日タキシードを仕立てた時、サイズ確認でカイの盛装姿も見たのだが、スチルでも見たことがない衣装だった。

 思えば、生徒会役員が平民のドレスやタキシードをどう融通するかという話も、別にゲーム内には出て来ない話だった。生徒会室で準備に手間取って困っているサラサに、シズルが厳しいことを言いつつも、お茶に誘って励ますような話があった気がする程度。

 どこからが本来あった話で、どこからがオレのせいで歪んでしまっているのかは、今更もう分からない。

 ただ、先日のヘレネの集いを思い出さずにはいられない。

ゲームでは居なかったはずのカイが参加する以上、何かが起きる可能性を捨てきれなかった。

 取り越し苦労になることを期待しつつも、昨日はドレスとタキシードの貸出リストを最終点検し、配置図やタイムテーブルを暗記するほど読み込んでいた。

 ――――だって、スマホやタブレットですぐに確認できないわけで。

スタッフ同士の連絡手段も、伝言かメモしかない。せめてインカムや無線とか使いたい。切実に。

 持ち歩く用にまとめたメモと、大元の色々な資料とで、オレはすっかり紙の束が手放せなくなっていた。

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