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12.特待生サラサのトキメキ④

 貸し出しについての要項を貼り出し、受付日を迎えるまで、私は胃が痛い思いをしていた。

試験結果よりもよほど気になる。

 けれど心配をよそに、保管用となった第二生徒会室はすぐに衣装でいっぱいになった。

最低目標を超え、サイズでの選択が可能なほどの数になる。ハヤテの目論見が当たったんだ。

 舞踏会の準備で私たち一年生役員が王宮側との対応に追われている間、気付くとハヤテはシズル様やその側近方も巻き込んで、何やら書類を作っていた。

「サラサ達のお陰で試験結果も上々だったし、細かいモンはこっちに任せてくれ」

 ハヤテの持つメモ紙の束は、増えつつクタクタになって、ある日シュッと綺麗になるのを繰り返していた。多分お屋敷に戻ってから、夜中にまとめ直したりしてるんだろう。

 預かった大量の盛装については、気付くとハヤテが中心となって管理していた。

 私は単純に、貸して下さった方は自分の物だと分かるんだから、返す時もそのまま持って帰って貰えば良いと思っていたけど。

「いや、盗む人……とは言わなくても、間違える人がいるかもしれないから」

 そう言って、シズル様まで巻き込んで管理用の小さな紙(『タグ』と呼ぶみたい)を作ったり、預かりと返却のルールを作ったり、細かなことをしているようだった。

 そんなこんなで慌ただしく作業を進めていたある日の午後、シズル様にお茶に誘われた。

 ずっと一人で書き仕事をしていて、肩や腕を揉んだり回したり、思いっきり伸びをしていたのを見られたらしい。恥ずかし過ぎる。

「シズル様にもお手伝いいただいて、すみません」

「いや。寧ろ私の方が、生徒会長としての役割に足りていないかもしれない。まさか一年生達だけでここまでやってしまうとはな」

「例年は違うんですか……?」

「去年は、ハヤテが居なかったからな」

「ああ……なるほど」

 シズル様が少し遠い目をした気持ちが、不覚にも理解出来る気がしてしまった。

「勿論、君やネリィ嬢、カイもよく動いてくれている。――ここだけの話だが、予算は元々、上方修正される前提で提示していた」

「え!?」

 私はまた淑女にあるまじき声を上げてしまったけど、恥じらっても居られない。だって、だって、予算が足りないから大変だったのに!

「去年もその前も、予算に文句を付ける所から始まり、必要な額の計算と、上級生や王宮側への説明と説得、交渉を繰り返すのが通例だった」

 なんてこと。

 そう言えば、当初ハヤテも言っていた。予算が間違っているんじゃないか、と。ネリィ様だってずっと困惑していたのに、私がつい、セラ様の手紙で知った平民が増えた話を持ち出したりしたから。

「……私たち、間違えてしまったんですね」

 なんとか費用を削ろうとした頑張りは全部無駄だったのかと、気持ちが沈む。けれどシズル様は、優しい目で微笑んだ。

「それは違う。今年の舞踏会は確かに前例のない進行となっているが、だからこそ注目もされている。そもそも王宮主導ではなく生徒会に任せているのも、我々学生側が何を考えてどう動くのか、試されているようなものだからだ」

「では……?」

「少なくともまだ、何も間違えてはいない。舞踏会が成功すれば、それが正解になる。今やっている準備や、今までやって来たことを信じることだ」

 確かにシズル様は、少し呆れたような、優しい表情をしていた。叱責や失望のお顔ではない。

 とても大変だし不安もあるけど、今、ちゃんと道は見えている。ここまでの道程も、ちゃんと全部、皆で考えながら進んで来た。

「ついでに君も、ハヤテのように遠慮なく私を使うといい」

「そんな!シズル様を使うなんて……っ」

「君達が活躍し過ぎて、生徒会長の仕事まで奪われているから暇なんだ」

「うぅ……本当は公務もあってお忙しいことくらい、私でも知ってますよ。でも、お気持ち嬉しいです。もしよかったら、受付のリスト作り、ご一緒にお願いしてもいいですか?」

「ああ、勿論」


 +++++

 

 目まぐるしく過ごしている内に、あっという間に舞踏会の日がやって来る。

 生徒会役員になるのも、カイ様やネリィ様と協力して舞踏会の準備をするのも、不安ばかりだったけど、今はそれが嘘のような気持ちでいる。

 先日と同じネリィ様のドレスを今日も借りられることになって、私はヘアメイク用の控え室にいた。手配した職人の方にお願いしたものの、本当はネリィ様にまた髪の毛を結っていただきたかったな、なんて不遜なことを考えてしまう。

 一番乗りでヘアメイクを済ませたけれど、既にネリィ様がいた。貸していただいたものとは趣向の異なる、豪奢なドレス姿。このドレスにも負けない華やかさには、見惚れてしまう。

「素敵です、ネリィ様」

「ありがとう。貴方もよく似合っているわ、サラサ。でもそうね……胸元が寂しいわ。これを」

 ネリィ様は、ご自分の髪から髪飾りの宝石付きのピンを一つ外すと、私のドレスへ刺して固定した。

そして、満足そうに微笑みを浮かべる。

 オシャレにはなかなか興味も持てなかったけれど、ネリィ様に褒められると顔が熱くなる。

そして、恥ずかしくない私でいたい、と背筋が伸びる。

「今日は、カイ様と踊るんですか?」

「……そうね。何曲かある予定だし、貴方もきっと声が掛かるでしょう」

「そんな。いえ、練習はしましたけど……でも私、せっかくならネリィ様と踊りたいです!」

「まあ。そうね……誰からも声が掛からないなら、踊って差し上げても良くてよ。そんなこと、ないでしょうけど」

 軽く、フラれてしまった。

確かにネリィ様より背も低い私では、並んでも見栄えがしないし、エスコートなんてできないけれど。

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