12.特待生サラサのトキメキ③
制服の波の中をドレスで歩くのは、恥ずかしいし緊張する。けれど平民であり、生徒会役員となった私だから出来ること。
それにきっと、平然とされているけれど、平民生徒にドレスを貸した侯爵令嬢として見られることやその反応に、私以上にネリィ様だって緊張しているはず。
「皆様、試験お疲れ様でした!この後生徒会より、皆様にお知らせがあります」
ハヤテが、わざと大きい紙で作った文面を読み上げ、生徒達の注目を集める。
カイ様と、私とネリィ様は言葉を発さない。
これは作戦だ。
王子と、ドレスを着た平民と、侯爵令嬢がただ歩いている。
ハヤテが繰り返すのは、生徒会から知らせがあるため、中庭に集まって欲しい、というもの。
意味深なドレス姿の私を見て、生徒達のヒソヒソが、やがてザワザワに変わって行った。
「あのドレス、ネリィ様のものじゃない?」
「あんな綺麗な子いたっけ?」
「特待生の子よ、平民の」
好奇の視線に晒されるのは、意図的でも心が落ち着かない。
澄ました顔でいるネリィ様の存在が心強かった。
目の前を歩くカイ様も、後方の私とネリィ様を気遣って歩幅を調整してくれている。
ハヤテは、生徒から飛んでくる野次や疑問に対して、サラリと中庭への誘導だけを返していくのが流石だった。
この行列は、ハヤテの案だった。
ネリィ様のドレスを着た私を、羨ましいとか、良いなと思ってもらえれば、貸し出しも悪くないと思ってもらえるんじゃないか。
それなら、どのようにドレス姿を見せるか。
生徒会から発表することだけを考えていたけれど、ハヤテが、
「もう一工夫しませんか」
と言い出した。
ただの事務的な発表では、元々興味があった人にしか届かない。
しかし憶測も含めて噂が噂を呼ぶ状態になれば、勝手に話が広がってくれる。
ドレスとタキシードを貸すかどうかは、元々心理的な問題だけで、貸しても貸さなくても貴族側にはどうでもいいことでしかない。
それを、貴族にとって「貸さなきゃ損」と思わせるところまで持っていくには、工夫が必要だと言った。
ネリィ様のドレスで歩き回る平民を見て、「生徒会からの発表に関係がある」という情報だけを与えられた生徒達は、思った以上に大きな反応を見せてくれる。
私が着ているドレスが、ネリィ様の物であるとわかるのは、社交界で見たことがある人だけ。自分だけが持つ情報を我先にと伝えたくなるのは人のサガだと、ハヤテは言った。
そしてそれは、「着ているサラサという生徒は平民だ」とか、「特待生だ」とか、「平民初の生徒会役員だ」とか、そんな情報であっても同様だった。
顔だけで誰なのかがわかるカイ様とネリィ様に挟まれて、私の異質さが噂を呼ぶ。
中庭では、人がごった返していた。
先生達も集まり、中庭が見える二階以上の廊下側にも、人が体を乗り出すようにして見下ろしている。
カイ様の護衛の方が発表用のステージを用意していてくれて、ハヤテが周りを見渡しながら、順にステージ上へエスコートしてくれた。
カイ様が、壇上で声を張る。
「試験終わりに、突然騒がせてしまったこと、申し訳ない。生徒会では、来月の初めに王宮での舞踏会を開催する。これに伴い、諸君に協力いただきたいことがある」
視線で呼ばれて、ネリィ様と横並びで前へ進み出る。
ネリィ様の凛とした声が響く。
「今年の舞踏会では、ドレスとタキシードの貸し出しについて、学内から募ります。皆様の衣装部屋に眠っているドレスで、ぜひ王宮を彩っていただきたいのです」
そっとネリィ様に背中を押されて、私は何度も練習した通り、ドレスの裾を持ち、膝を折って礼をした。
装いで、こんなに変われること。
自分以外が着ても魅力的なドレスを持っていて、それを貸し出せる器があることの素晴らしさ。
全部を言葉にして論じたい気持ちになるけれど、黙ったままただ微笑んだ。
説得は、貴族の体面に障ることが多い。頼めば、折れるにしろ、断るにしろ、何らかの評価を外部に与える種になる。
王子と侯爵令嬢からの、生徒会を背負った言葉。
これ以上の説得要素は逆効果だから、とハヤテに止められて、私は一言も発さないことに決まった。
――――本当に、これで大丈夫?
中庭は、戸惑うようなざわめきで溢れている。
平民の子がわたくしのドレスを?なんて声も、いくつも聞こえてくる。
でも。
「大丈夫。サラサ、貴方は素敵よ」
真横で小さく囁いてくれたネリィ様の声に、不安が軽くなっていく。
貸し出しについての要項は追って掲示します、というハヤテの事務的なセリフにより、ものの数分だけの発表は終わりとなった。
「こんなに短い時間で、本当に良いの?もっと沢山話さないと……」
「良いんだよ。情報が足りない位の方が、知りたくて調べる人や、知ったかぶって噂話する奴が出てくるし」
「それじゃあ、間違った情報が伝わってしまう人もいるかも知れないじゃない」
「まあ、それは要項を文面で貼り出すから大丈夫だろ」
不安なことばかり思い浮かぶけど、ハヤテは自信ありげな表情を崩さなかった。
「本当にコレで行くんだな。もう、王宮側にも変更の相談は出来ないぞ」
シズル様が、静かに言う。最初の頃はカイ様に対して厳しい印象だったけど、最近は生徒会長として、私たちに任せるように見守って下さっている。
確信がないまま後輩に任せる、というのはどんなに不安なことだろう。
「いざとなれば、シシェロゼッタ家と近縁のドレスを掻き集めて来ますわ」
「――――フ。その手もあるな」
「大丈夫だ。ハヤテが言っていた通り、皆口々に話していたし、“バズってる”」
カイ様が、シズル様に向かってハッキリと言った。私たちは皆、バズというのが未だによく分からないけど、カイ様だけはハヤテの方言を理解しているようだった。
パプリカ村では、凄く沢山の人の噂になることを方言でバズと言うらしい。




