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09.学べ!課外授業で側近見習い③

 やはりシズルは、最初からオレを自分の側近にするつもりなんてなかったんじゃないか、という気がしてくる。

「側近見習いとして慣れて来た後、王宮で試験を受けることになる。見習いの頃の実績確認の面接と、知識やマナーに関する筆記試験だ。王宮で育つ側近候補は、試験についても学園入学までには終わっているものだったから、もう学園入学済みであるハヤテには不要なんじゃないか、と確認しに行ったんだ」

 どおりで、メイド達が皆オレに対して「側近見習い」と明確に言っていた訳だ。

 シズルの屋敷でもそう呼ばれていたが、てっきり正式採用までの意味かと思っていた。資格のようなものなのか。

「必要なら、試験くらい受けますけど……難しいんですか?」

「いや、分からないんだ」

「分からない?」

「側近候補は全員受けるもので、受かるのが当たり前の試験になる。ただそれは彼らが貴族で、王子の横で育って来たことで容易な内容となっているだけの可能性がある」

「つまり、平民出身のオレには難しいかも、ということですね」

 カイは、申し訳なさそうに頷いた。

まあ確かに、堂々と指名スカウトされた後で、実は資格が必要ですと言われるようなもので、先に言ってくれと思わないでもない。

しかしカイが悪いわけではないし、なんとかならないかとわざわざ確認に行ってくれたのは、素直に嬉しかった。

「試験、受けますよ。どっちにしろ必要な知識や教養が足りてないってことですし、やれるだけやってみます」

「そうか……。試験に関する詳細は文面にまとめさせたから、後で確認してほしい。俺も、協力できることは手伝う」

「はい。あ、それならひとつ、お願いしていいですか」

「なんだ?」

「今後は、出来れば王宮とか普段行かない場所に行く時、オレにもひと言貰えませんか。見習いとはいえ側近なので、カイ様が何処で何してるのか、分からない状況は困ります」

「たしかにそうだな。わかった、約束する」

「はい」

 こう言う時、スマホの偉大さを改めて感じてしまう。

乙女ゲームらしくすれ違いの演出などにも寄与するためか、この世界にはネットどころか、固定電話すらない。通信手段は手紙だけ。

紙があるだけマシとも思うが、物理的に近くに居ないと出来ないこと、分からない事が多過ぎる。

 オレに科学者や技術者のスキルがあれば、また違ったことを考えていたんだろうか。


 部屋に戻り、カイから聞いた話を思い出しつつ、受け取った側近試験についての書類を確認していく。

 側近見習いと側近では、報酬体系の違いと、権限の違いがあるという。

 側近は、国が直接任命する正式な職務として扱われる。公務員みたいなものなんだろう。

 王子の右腕として働くため、行動範囲について王子と同等の権限が与えられる。また、あくまでも王子の名の下でだが、あらゆる役職に代理で指示をすることも許される。

議会での発言権もあり、王と直接やり取りすることも可能だという。

 報酬は国の予算から支給され、領地や屋敷も与えられる。

成人前には制約もあるようだが、キリシュやフィデリオは既に正式な側近なのだという。

 一方側近見習いは、衣食住を保障される。また手当が幾らか出るのが通例だが、このいずれも王子の予算から出るものらしい。

 つまり王子からしたら、見習いを手元で養った後、正式に側近にならなければ無駄も良いところという話になる。

とは言え実態としては、幼少期から王宮で王子と一緒に側近候補を育てるのだから、王子の負担となるのは珍しいケースだと言えるはずだが。

 試験は日程が決まっているものではなく、受けたくなったら申告し、王宮側と調整の上で実施されるという。

 しかしこれも、のんびり受ければ良い、という話ではない。

王立学園を卒業後はすぐに成人となるため、労働と納税の義務が課されることになる。

この時に見習いのままとなると、見習いの税金についても王子が負担することになる。

しかし慣例として、成人してなお見習いの側近を置いておく王子はなかなか居ないと言う。

 オレとしても、王子に養われるニート状態は避けたい。

それを考えると、あまり時間がない。

試験に一発合格できるとも限らない以上、対策も、再試験のことも考えておかないと、いざ成人したカイ王子に側近がいない、という事態になってしまう。

これは、一度はオレの名前を王宮に伝えていたシズルの株も落とすことになるだろう。

 試験官には、王の側近、宰相、大臣だったりが含まれている。また、最終判断には王も加わるとある。

筆記試験では、貴族社会の礼儀作法やマナー、歴史、地理などというかなりアバウトで幅広い内容が出ると言う。王子を補佐する上で、最低限修めておくように、という意図がこれでもかと滲み出ている。

 正直これは、マズイかもしれない。

元来王立学園への入学という観点では、倍率も高く平民にとってはかなり高レベルの学力を求められる。

 王立学園入学より前に受けるものだとしたら、側近試験の内容は学園の入試と出題範囲も被っているようなものだったんじゃないか。なんせ側近試験について、普通は入学前の十代前半で受けるようなものなのだと言うのだから。

 しかしオレはと来たら、入学時点で前世のことを思い出した分、今までゲーム上で定義されていなかったと思われる部分がひどく曖昧な記憶になっている。

 試験問題を前にしたらその場でだけ解けるかもしれないが、あまりに怖すぎる賭けになってしまう。

だいたい、キリシュが子供用の教本を持ち出した時から分かっていたことだが、参考書がない。

「過去問集とか、これで合格!みたいな本とか……ないですかね?前回の側近試験の内容が書いてあるとか」

「本?歴史についてや、地理について書かれた本はもちろんある。ただ、側近試験についてまとまったものは、ないな」

 なんて、先ほどカイにも言われた通り、効率よく学べるような資料は存在していない。

王子に対して子供時代に数人選ばれるだけで、途中で雇用されるオレみたいなケースがレアとなれば、そのために参考書を作るのはあまりにも無駄が大きい。それは理解できるのだが、じゃあどうしたらいいのか。

 キリシュやフィデリオにはもう頼れない。

他に側近の知り合いなどいない。

つまり、何が有益か分からないまま、とにかく知識を蓄えるしかないと言うことか。

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