08.強制!王族の命令権②
――――なんだか、無欲過ぎて不気味ですわ。
――――そして、君には欲がない。
そう言われて、自分には欲などないのかと思っていた。
一度は人生が終わったのか転生した身で、好きだったゲームの世界で安全に過ごせていて。
でも多分、そうではなかった。
これまでのことで、オレは知らずの内に欲が満たされていただけだ。カイの横で、屋敷の皆に頼られたり、ネリィに認められたり、やるべき事が次々と湧いてきて。
カイに必要とされ、役に立ちたいと、気付けばそれを望んでいた気がする。
カイがちゃんとした側近を望むなら、オレに出る幕はないと思う。
けれど内心では、オレの方がカイのことを理解しているはずという、妙な確信もあった。
「ハヤテの前世では、仕事はどのように決まるんだ?」
話題を変えようとしたらしく、カイが言う。
「仕事ですか。色々ありますけど、オレはフツーに就活です」
「しゅーかつ?」
「企業……雇いたい側は、採用したい人物像を決めて、条件が分かるように募集を出すんです。働きたい側がそれを見比べて、自分の能力ややりたい事、考え方に合わせて応募します」
「雇われる方が選ぶのか?」
「選んで応募しますが、それで終わりじゃありません。雇う側は、応募して来た候補者を比べたり、確認します。紙に書かれた条件で見比べたり、時には実際に会って面接したり」
「随分手間を掛けるんだな。まあ王宮でも人を募る時、話を聞くことはあると思うが……。でも、働きたい側が応募しないと始まらないんだな」
「いえ、最近だと雇う側から声を掛けることもあります」
「え?」
「スカウトです。細かいことは割愛しますが、働きたい側も自分の能力や条件を見えるように置いておく事ができるんです。雇う側がそれを見て、条件に合う人に声を掛ける」
「条件を……?それは、大変そうだな」
カイの頭には、掲示板にびっしりと貼られたメモ書きか、町行く人間が首から条件を提げて歩いてる光景なんかが浮かんでいるのかもしれない。
しかし、ネットで検索できるんです、という話を昼休み中に説明できる自信はないため、一旦カイのハテナ顔は流すことにした。
「最終的には、折り合いが付いたら仕事が決まるのか?」
「そうです。雇う側も商売なので、より条件が良い応募者がいたら、片方を断ることもある。一方で雇われる側も、同時にたくさんの求人に応募して、自分に合わない所には断ります。体は一つしかないので」
「ハヤテが前世で働いていたのは、どんな店だ?何故、そこで働こうと思った?」
なんでその会社にしたの、と聞かれることは何度もあった。
まさか転生先でまで聞かれるとは思わなかったが。
「そうですね……オレの話を聞いてくれたから、ですかね」
「話?そんなこと条件になるのか?」
「あ、いや。給料とか福利厚生とか、残業時間とか、条件面は他にも良いところもあったんです。せっかくの新卒カードを、ベンチャーで使うのは勿体無いとか言われたし。でもオレが働いていた所では選考中から、社長面接までどの時でも、オレ自身の言葉が伝わるまで会話してくれたんです」
その分、何故、という深掘りの問いが多く、また社長の自分語りも多かったが、選考過程で役員同士が話している印象とも違和感がなかった。
あの頃のオレも、安定した所で勤めて、平和に暮らしていきたいと思っていたのを思い出す。
それが気付けば、起業から数年のベンチャー企業を選んでいた。
「多分オレは、気持ちが動いた方を選んでしまう。オレを求めてくれてるところに行く。そういう性分なんだと思います」
そうか、というカイの呟きと重なって、予鈴が鳴った。
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その日の夜、シズルの屋敷に訪問者があった。
「カイ様」
「夜分の訪問、申し訳ない。ハヤテと、シズル兄様は居るか?」
「居りますが、王子殿下とは言え、お約束もなくこの時間の訪問というのは褒められたことではありません」
「分かっている。火急の用件だ、勘弁してほしい」
キリシュが応対しているのが聞こえて、オレは急いで風呂上がりの髪を乾かす。
メイド達が、慌てて準備をしている物音が聞こえた。
「ハヤテは、何の用件か聞いているか?」
「いえ」
フィデリオに聞かれても、思い当たることはない。
いや、あるとすれば王宮から側近候補が来る話か。キリシュやフィデリオに、教育面で手伝って欲しいとか、そんな話かも知れない。
ともあれオレの口から言えることはなく、身支度をなんとかすると、カイの待つ客室に向かった。
先日この部屋に来た時と違い、カイは硬い表情をしている。
何か、決意があるような。
「火急の用件ということだが、なんだ?」
就寝用の寝巻きにガウンを纏った姿で、シズルが言う。
シズルは日課を大事にするタイプで、タイムスケジュールが乱されると不機嫌になる。
オレがこの屋敷に来て、一番怒られるのもその事だった。
前世で使っていた、システムに登録しておけばカレンダー通りに通知が来る仕組みが恋しくなっていたほどだ。
シズルのガウン姿は、自室で就寝までを過ごす恰好のため、基本的に人と会わないつもりの服装となる。
それだけに、不満がわかりやすい。
「こんな夜分に申し訳ありません。明日には返事が必要なため、相談……いや、交渉に伺いました」
「交渉?」
「ハヤテを、俺の側近にしたいと思います」




