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07.突然!側近見習い⑧

 翌日は言われたとおり、キリシュと街へ出た。

早めに仕立てるようにとシズルからのリクエストもあり、オーダーメイドではなく既製服の店へ連れて行かれた。

側近ともなると、こう言う店の作法まで詳しくなるのか。

「生地はこれと、色はこちらと……」

 キリシュが選んだものを、ひたすら着せられ、サイズを確認され、しつけ糸で縫われていく。

「何か好みがあれば言ってくれ」

「ないです。まったく」

 前世では、多少は好きな服もあったが、今はもうそれどころではない。オレのセンスで勝負するより、キリシュと店員に任せた方がいい。

「側近になると、普通はこうやって服を揃えるんですか?」

「いや。側近候補となる子息は、貴族出身だ。親元から出て来る時も、それ以降も、定期的に成長に合わせて服を用意する機会があるものだから」

「すみません……平民で」

 自分のための贈り物などではないとわかっていても、手間とお金を掛けさせることに申し訳なさが先に立つ。

「豪胆な君も、殊勝なことを言うんだな」

「無礼なところがあるのは認めますが、気が大きいわけじゃないです。シズル様は何故、オレなんかを側近候補にしたのか……」

 服を選び終わり、洋裁店のVIPルームのような部屋に通された。

小切手のようなもので支払いを済ませたキリシュに、愚痴るように言う。

恐らく微調整を直し終わるまで、此処で待てということらしい。

「逆に、何故だと思っている?」

「え。何故オレなのかって……カイ様と仲が良いから、とか?」

「それは寧ろマイナス要素だな。シズル様はご兄弟にも誠実だが、本来王子同士は王位継承順位を争う立場になる」

 それなら何故オレに、という声が喉まで出かかった。

この世界でのオレの価値なんて、現状それしか思い浮かばない。

もしかして、転生者であることをカイから聞いたからか、と一瞬思ったものの、カイがそんな報告をするとは考え難い。

「君が、側近にちょうど良かったからだ」

「ちょうど良い?」

どういう意味だろうか、と反芻する。

「年代が近い?」

「それはある」

「男で、健康体?」

「ああ。先日の怪我も、カイ様を庇った身のこなしや勇気は評価に値する」

「ハア」

 カイにももっと恩に着せろと言われたが、結果としてあの怪我を理由に豪華なお屋敷暮らし一ヶ月分を当ててしまった感じがあり、複雑だった。

「君は平民出身だが、実家はなく、田舎の出身地でも領地の貴族と深い縁はない」

「そもそも田舎過ぎて、領主さんには会ったことも無かったです」

「そして、君には欲がない」

「いや……欲しいものがあれば、普通に欲深くなりますが」

聖人君主みたいに担がれても、困る。

「生徒会役員職に付随する功や評価、労が免除されることにも、靡かなかった」

 やっぱりアレは試してたんですか、とキリシュに問い詰めても仕方ないので、肯定も否定もせずにおく。

欲がなかったというより、単純にオレはララブのストーリーを逸脱するのが怖かっただけなんだが。

「そして君の親族にも、王族や貴族と縁ある者がいない。総じて君には、利害関係が全くなかった」

「……調べたんですか?」

「ああ。カイ様には側近もいないし、家に招くような平民の友人がいれば、確認くらいする」

 そんな堂々と言われても、これが前世の社会なら個人情報の問題やら、コンプライアンスの問題やら、色々抵触する話だ。

まあ、ここがゲームの世界だと気付くまでのオレの人生のぼんやり具合が、妙に都合良く当て嵌まったんだなというのは納得できる。

「あとは単純に、人材不足がある。シズル様の側近候補は、元は四名いたんだ。しかし、学園入学前に一人、最近もう一人が去ってしまった」

「え」

 カイの側近候補三人が居なくなったのは異例なことかと思ったが、そんなに頻発するものなのか。

「昨日話した通り、側近候補は必ずしも、側近にまでなるとは限らない。また王立学園に入学していながら、王族や貴族に対して柵がない生徒は稀だ。だからシズル様は、手間を掛けてでも君を側近にと望まれた」

 それならサラサとかどうですか、なんて言いたくなるが、特待生であるサラサは第一王子のセラが選んだようなものである。

あまり関わった事がない平民攻略キャラであるディノも、妹が貴族と結婚するとかいう話があったし、実家や出身地レベルで考えれば色々あるのかもしれない。

 そこへ来ると、設定がないお陰だと思うが、柵がないオレの状況は確かに珍しいのだろう。

「シズル様の側近候補が去ったのは、片方は兄弟の都合で実家を継ぐ必要が出て来たからで、もう一人は流行病を拗らせたためだ。シズル様に仕えるのが辛くなって去ったわけじゃない」

 これは、採用面接でよく聞く「何故今、このポジションを募集してるんですか?」の回答だ、なんて考えてしまった。

業務が辛くて人が減ったわけじゃなく、一身上の都合でと伝えられる話。

気付くとオレは、キリシュの話をどこか他人事のように聞いていた。

次話、カイが突然シズルの屋敷に乗り込んで来る。

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