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07.突然!側近見習い⑦

 側近の仕事について、まずは座学から始まった。

王宮で王子と育つ側近候補が学ぶものなので、教本はあるがなんというか、こう、小学校低学年向け、という感じの作りをしていた。

「この教本を渡すのは、嫌がらせではなく、基本的な内容に触れたものがこれしか無いからだと思って欲しい」

 キリシュも最初、詫びながら渡してくれたくらいだ。

側近という限られた職業のために教本の種類が少ないのは理解できるが、オレくらいの歳で側近について学ぶ者自体が少ないからこそだろう。

「キリシュさん。側近って、そんなに何人も必要なんですか?」

 シズルには二人も側近がいるのに、この年代の合わない教本が必要なレベルのオレに声が掛かった理由が率直に謎だった。

「実質的な側近は、一名いれば十分と言われている」

「一名?」

「だがそれは、国王や、あるいは要職に就いた段階での話だ。側近候補とする者が、実際にいつまで側に居るかは分からない。カイ様の例があるから、分かるだろう?」

「確かに」

「本人の意思というのもあり得るし、単純に家の都合だったり、政治的な都合もあり得る。怪我や病気なんかもあるな。だからこそ、成人までの間を中心に、複数の側近候補がいるのが通常だ。側近は、一朝一夕で任せられる仕事ではない。王の右腕として、意思を汲み、状況を読み、時には進言や讒言を行う必要もある。周囲との交渉や調整、雑事の対応なんかもな。現在の宰相は、元々陛下の側近だった方だ。勿論、現在も側近として就いている方もいる」

「将来に亘って国王を支える可能性があるからこそ、早くから側に付く、と」

「ああ。王立学園卒業後に新たに側近を迎えた例も無くはないが、あまり上手く行った話は聞かない。ーーーー何故だと思う?」

 何故。学園を卒業後ということは、就職のタイミングで側近を希望したということで。

「政治的な思惑とか、野心があった、とか?」

「!」

 お金持ちのお坊ちゃんが独立するところを見計らって、近付いてくる存在を思い浮かべると、それに悪意を見出さないのは難しい。

「正解だ、よく分かったな。王族の側近は、共に過ごした時間も秤に掛けて、信頼を築く。それ無しに側近の職を求める人間は、ハナから腹に一物あるケースが大半だ。しかも成人した王子の決めたことは、国王ですら覆すのに骨を折る。優秀な人材は必要だから、全てを遠避けるわけにもいかない難しさがあるんだがな」

「なるほど。それなら確かに、子供時代から知っていて、そのために学んできている側近は重要ですね」

「実際のところ、子供でもできることからやっている、という言い方もできるが。分解すれば、やっていること自体は仕事として誰かに任せることができてしまう。でも微妙な判断をする時、築いてきた信頼が意味を持つ。特に王子は、年長になればなるほど、権力を持つことになるから」

「なんか、意外です。えーっと、怒らないでくださいね、先に言っておきます。いつも王子の側に居るなら、王子の機嫌を取るのが仕事じゃないんですか?」

 キリシュは、分かりやすく眉を顰めた。しかし、フッと頬を緩める。

「まったく、本当に君は素直に言う。王子のご機嫌取りも、勿論側近の重要な仕事だ。だって、王子の機嫌が悪かったら、周りのメイドや執事達が困るだろう?」

「――――あ、たしかに」

「王子は、年齢に関わらず、王子だ。周りはその一挙手一投足に振り回される。幼い時は乳母や家庭教師もいるが、そうじゃない時期の方がずっと長い。大事なのは、その場限りで不満を誤魔化すことじゃなく、何故王子の機嫌が悪いのか、それを考えて解消することだ」

「だから、信頼関係が必要なんですね。何故不機嫌なのか、それを読み取ったり、話してもらったり、時には気持ちを納めてもらうために」

「ああ。ーーーーさて、そろそろ時間だ。夕食前に、シズル様の日課の手伝いに行こう」

 

 日課を済ませて、シズルと、側近二人と、オレ、という四人で食事を摂る。

「ハヤテ、何か不足はないか?」

 デザートまで済んだ所で、話しかけられた。

「いえ、お腹いっぱいです」

「フフ、違いますよ。シズル様は、身の回りの物の話をしてるんです」

フィデリオに笑われ、ハッとなる。これは流石に恥ずかしい。

「すみませんッ!特に足りない物はないです、ありがとうございます」

「本当にか?靴や服は大丈夫か?」

「普段は制服ですし、この服もいただいたので」

「取り急ぎ用意させた一着だけじゃないか。カイの所では服を仕立てなかったのか?」

「あ、はい。前にヘレネの集いに合わせて、ネリィ様にいただいた服はありますが、普段着ではなさそうで……」

 呆れたように、シズルはため息を吐く。

視線を向けると、キリシュが頷き、懐から出した手帳に何かを書き込んだ。

「明日は講義を休んで、街で服を買おう」

「え!洗って着回せば大丈夫かと」

「身なりは大切ですよ。側近は王子と同じ食事を摂り、常に横に控えます。他の使用人に指示を出すこともある。その様子は遠目から見られることもあり、それが王族の権威に繋がります」

「ハイ……」

 見た目の話なんて、と言いたいが、身分制度がある以上、それに則った恰好や態度を求められることは仕方がない。

オレがそれを好むかどうかという問題ではない。

実際オレも、王子なのに学園内で標準制服姿のカイを見た時、王子なのに何故、と思ったものだ。

シズルの制服に付いているマントや、袖、襟にある飾りボタンが妥当なのかは、分からないが。

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