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07.突然!側近見習い⑤

「そんな感じで、取り敢えず大人が背伸びしたら中が見えそうな程度、というこのサイズ感なんですが、どうですか?」

 工期短縮のためカイの屋敷側だけ囲うというのも考えたが、それはカイに却下された。

あくまでも二つの屋敷があるこの土地は、まとめて王族のものだから、ということらしい。

 シズルはもう一度図面を見渡し、フィデリオとキリシュの顔を伺った。二人は、軽く首を振って応える。

「よく分かった、有難う。このまま進めるように、私の方からも言っておく」

「高さは押さえましたが、なにぶん広いので、優先して囲いたい場所から伝えてます」

 図面で理由と共に示すと、それについてもシズルは素直に飲み込んでくれた。側近二人からも、もう茶々が入ることはなかった。

 話がまとまり、図面を片付け、淹れ直されたお茶を飲む。

商談が一つ成立したような、晴々した気分だった。

 しかし気になるのは、カイが先ほどからずっと、静かなこと。表情も冴えない感じで、シズル相手に緊張しているのだろうか、と不思議になる。

あるいは、体調不良だろうか。

 カイの顔色を気にしていると、シズルがカップを置き、

「もう一つ、こちらがメインの話なんだが」

と切り出した。

 なんだ、メインって。

先程までの熱いプレゼン以上の物は用意していないぞ、とつい表情が曇る。

「なんでしょうか」

 

「ハヤテ。この屋敷で勤めないか?」

 

「ハ?」

 またしても反射で声が出た。

「この屋敷って、シズル様の……?」

「ああ」

 何を言っているのだろうか。

今日すれ違っただけでも、この屋敷にはかなりの優秀そうな使用人がたくさん働いているのに。

「塀を建てる作業員として、とか?」

「まさか。フィデリオやキリシュと一緒に、側近になって欲しいと思っている。今回の提案も合理的で、頼りになると感じた」

「側近って……学年も違いますし……いや、そもそもそういうことじゃないですね」

 どう言うことだ。

登録するだけで自動的にスカウトされる転職サービスを思い出してしまう。

オレはシズルに対して、これと言ったコミュニケーションを取ったことはない。履歴書も応募していない。

 生徒会役員の誘いを受けた時と、状況が似ているなと思う。

 つい、カイの表情を窺ってしまう。

カイの様子がおかしかったのは、シズルからスカウトがあることを予め聞いていたからなのか。

「ハヤテさん、先に言っておきますが、生徒会役員の時の話とは話が違いますよ」

「え?」

「王族には、国民に対して命令権があります。王立学園の寮で住まい、奨学補助を使う貴方の立場だと、この命令権を退けるのは難しい」

「ーーーーまあ、平民相手にこういった提案がされること自体、稀なことだけどな」

「二人とも、脅すようなことを言うな。私はハヤテの意志を尊重したい。そもそも信頼関係なしに、側近を任せることなどできないんだから」

 二人は、スッと口を閉じる。

「この場で即答しなくていい。側近の仕事もよく分からないだろうし、考える間、この屋敷に住んでくれないか」

「こちらの屋敷に……」

「勿論、学園には今までどおり、通って貰う。私とは登下校の時間が変わるだろうから、専用の馬車も用意する」

何か困ることがあるか、とシズルの表情が尋ねてくる。

 困ることは、ない。

生活していれば、オレがただの平民男子で、マナーも礼儀作法も雑で、王子の側近になど向かないことは直ぐに分かるだろう。

しかし、意外と上手いこと行ってしまったら、どうなるのか。

「ーーーーハヤテ。難しく考えなくていい」

「カイ様」

「側近の仕事は、フィデリオやキリシュが教えてくれる。二人は、俺に付いていた側近候補達にも昔から色々教えてくれていたから、慣れている」

「あぁ。寮での当番ほどの手間は取らせないが、側近の役目については、講義の時間を作るつもりでいる。学んだ上で、考えて欲しい」

 王子二人と、貴族出身の側近二人に見つめられ、流石にここでノーを返すことは出来なかった。

この世界で平和に生きていきたいと思う以上、敢えて命令することを避けて「考えて欲しい」という第二王子からの要請を退けることは、出来ない。

何よりこれは、わかりやすく『将来』に繋がる話だ。

「分かりました。お力になれるか分かりませんが、頑張ります」

「あぁ、よろしく」

 

 その日は夕食までご馳走になり、カイと共に、カイの屋敷へと戻った。

 オレとカイの雰囲気が変なことを察したらしく、エリクとマシュウが心配して声を掛けてくれたものの、オレは説明出来ずに黙ってしまう。

カイもまた、落ち着いたら話すから、と二人に告げる。

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