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07.突然!側近見習い②

 いつもの馬車で屋敷に戻ると、庭師のジャンに声を掛けられた。

「すみません、ハヤテさんに見てもらいたいんですが」

カイとマシュウ達には先に屋敷へ入ってもらい、ゆったりした足取りに続く。

 ジャンは七十歳を超える老人で、王子が住んでいるかに関わらずここに居て、この屋敷の管理人みたいな立場らしい。最近は弟子のアイシーに庭のことを引き継ぐのがメインの仕事だと聞いていた。

「ここなんですが、最近よく踏み荒らされてまして」

 だいぶ歩いた先に、土地の境界線のように垣根があった。

カイがここまで来ることは殆どないが、洗濯物を干したり、作業をしたりするために使用人が使うことの多い区画だった。

 オレが気になったのは、垣根が荒らされていることもだが、複数の煙草の吸い殻が落ちていることだった。

「煙草吸う人、居ましたっけ?」

 ここで世話になってから、使用人達とは休憩中も話すことが増えた。しかし、喫煙者を見掛けた覚えがない。

「居ないと思うよ!煙草はうちの国だと輸入品なんで、高いんです。嗜好品だし、貴族でもないとなかなか買えないよ」

 後ろからやって来たアイシーが、ハキハキと言う。

彼は十二歳くらいだが、庭仕事もそれ以外も小回りが利いて利発だと、なにかと屋敷内で重宝されていた。

「だとすると、貴族の誰かがこんな所で煙草を……?」

「こう言うのが、このひと月で三回ほどありまして。ハヤテさんが来られた頃からなので、何かご存知かと」

「マジですか?いや、身に覚えはないですが……」

 確かに、オレがヘレネの集いの後に屋敷に来た頃と重なる。しかし、まさかオレの怪我の具合をこんな遠くから心配するような存在に心当たりはないし、そもそも堂々と見舞いに来れば良い話だ。

どちらかと言うと、悪意を感じるのだが。

「ぼくはどちらかと言うと、ハヤテさんというより、カイ様に関係してるんじゃないかと思いますけど」

「これ、王子様になんてことを」

「だって、ここに王子様が滞在してることは分かってることだしさあ」

 アイシーの感覚は真っ当だ。王子が居住する屋敷の近くで垣根が荒れるような入り方をして、煙草を吸い終わるくらいの時間佇んでいるとなると、なんらかの目的がある気がする。

「取り敢えず、カイ様とマシュウさん達には伝えておきます」

「やはり、言った方が良いですかね?そんなに物騒な土地じゃないんです。だから、王子様には心配を掛けたくないのですが……」

 わざわざオレを呼んだのは何故かと思ったが、そう言うことだったのかと思い至る。

この屋敷の人間は、メイド達も含め、カイに過保護じゃないか。確かにあの、人を疑わない感じは心配にもなるが、とは言え危険が迫っているかもしれないのに情報が入って来てなかったでは済まされない。

 そこまで思って、ああ、と気付く。

多分他の王子、例えばシズルなんかだったら、側近が判断するんだろう。

王子の耳に入れるべきか、周りで対処したり調査をするのか。

 今は集約先がないから、全員が各々の感覚でカイを思い遣り、心配し、その結果情報の扱いにバラ付きが生じている。

「取り敢えず、三回もあったということなので、カイ様に言わない訳には行きません。煙草を吸ってるということは、火気があるということなんで、放火でもされたら大変でしょう?」

「放火……」

「それは極端でも、想定しておくのは悪くない。ただ、こんな分かりやすい痕跡を残してる以上、悪意があったとしても素人な気がします。そこまで心配は要らないだろうけど、念のためってことで伝えておきます」

「そうですか……よろしくお願いします」

「ほら、やっぱりぼくの言った通りになったでしょ!ハヤテさんに話せば分かってくれるって」

「そうだな、悪かった」

 マシュウやエリクは警護担当な以上、直接伝えたら大事になると思ったのだろう。

出来るだけ事を荒立てたくないという、ジャンの考え方も分かる。もし自分の言った事で、混乱や恐慌を来してしまったら、迷惑を掛けてしまったら、という不安があるのだろう。

 しかしこれは、王族相手のこと。

過剰防衛となっても、実は何でもなかった、という笑い話で済む方が百倍良い。


「マーベルさん」

 オレは取り敢えず、屋敷で直ぐに目が合ったマーベルに話をしてみた。

庭師の彼らの性格や、エリクやマシュウの判断軸など、マーベルの方が分かっているのでは無いかと思った。

「不審者が屋敷の周りに居る、ですか」

「かも、って言うだけですが。でもこないだ、カイ様には敵が居るって言ってたから」

「流石に、王子相手に直接手を出すとは思えませんが」

「手を出すかどうかと言うより、出せそうならやる、って可能性があるかと思って。下見して、隙があったら…みたいな」

「まあ!でも、そうですね……王宮より、この屋敷の警護はずっと甘いと思います」

「そうです。生活習慣も学生ってのは分かりやすいので、隙だらけです。だから、何らかの警戒はした方が良いんですが、こういう中途半端な情報でもエリクさん達は分かってくれますかね?」

「警護としては普段からカイ様を守ってますし、今以上のことをするなら、具体的じゃないと困ると思います」

「まあ、それはそうか」

「カイ様に、直接お伝えください。人員を増やしたり、役目を変えたり、そう言ったことはカイ様が直接シズル様や王宮へ相談されるので」

「うん……わかった。夕食、カイ様とオレの二人になるようにセッティングしてくれます?」

「かしこまりました」

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