04.招待!第四王子とその事情⑥
夕食は、この世界では食べたことがない豪勢なものだった。
これまでの平民生活に染まっていたオレは、前世の食事情を急に思い出してしまい、情緒がおかしくなった気がした。
ステーキとシチューに、焼き立てのパン。デザートにはフルーツポンチ。
「急なことで、あまり準備できなかったんだが」
というカイの申し出に首を振り、オレは前世での美食を思い出しながら、腹に納めた。
オレの食べっぷりに笑い、カイは料理長やメイド達に声を掛けていた。
「ハヤテさん、マナーがお上手なんですね」
カリナが、感心したように云う。
「また貴方は、なんてことを」
「す、すみません。でもでも、わたしマーベルさんに教えていただくまで、ナイフとか使えなかったから」
分かりやす過ぎる程の失言だから、オレ相手以外には絶対言わない方がいいが、そう思われるのも御尤もだ。
この世界では、確かにこの数のカトラリーが並ぶような食卓は初めてだ。
前世では家族の記念日や結婚式で自然と覚えさせられたが、まさか転生先でまでテーブルマナーが役立つとは思わなかった。
どこで知ったのか、と訊きたそうな視線に曖昧に笑うと、オレはデザートに夢中なフリをした。
帰りは寮まで、馬車を出してくれた。
何故かエリクが同乗している。カイの傍以外でも、馬車に何かすると疑われているのだろうか。
「夜は物騒なこともあるので、御者と貴方を警護させていただきます」
顔で見透かされたらしく、咳払いをしながら言われる。
「あの、さっきは、」
「先程は、申し訳ありませんでした」
分かったようなことを言って悪かった、と詫びようと思った時、謝罪が被された。
「行きの話もそうですし、学園での非礼も詫びたい」
「いや、何も詫びることは…カイ様の立場とか状況考えたら、正しいと思いますよ?」
「いえ、そう言うことではないんです。オレもマシュウも、真面目に業務していたかと言うと、嘘になります。オレ達は、シズル様付きの警護を務めていたことに拘っていた。そのくせ、命令だからと良い顔で受け入れ、今までと勝手が違うことへの苛つきを、カイ様への不満に置き換え……言っていて情けなくなります」
オレに謝られても、と内心思わないではないが、相槌を返す。
「ハヤテさんには、警護としての必要以上に、失礼な態度を取っていたと思います。貴方を危険視したわけではなく、カイ様の警護を果たしていると思いたくて、やっていた部分があった。本当に申し訳ない。そして、御礼を言いたい」
「御礼?」
「側近の真似事をして、挙句に警護としても中途半端だったことに、気付かせていただきました。オレもマシュウも、貴方に言われて目が覚めた」
「そうですか。オレはただ言いたい放題言っただけなので、何かきっかけになったならよかったです」
オレが言わなくても、二人の仕事ぶりはカイがきちんと分かっているようだった。
主人として、伝えるタイミングを図っていたのだとしたら、悪いことをした。
これも、“ひと言遅い”というやつなのかも知れないが。
寮に着くまでの間、エリクの警護を邪魔しない程度に雑談しながら、オレはカイのことを考えていた。
次話、ハヤテは突然侯爵令嬢ネリィに呼び出される




