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04.招待!第四王子とその事情②

 最下位になって追いやられた、なんて噂が立ってはいるが、整えられた庭を通った先にある屋敷は、十分綺麗で立派だった。

 バツが悪そうな様子で、しかしエリクもマシュウも、きちんとカイを警護している。

「おかえりなさいませ」

 庭作業をしていた風の初老の男性が、麦わら帽子を脱いで礼を取る。

「お世話になります」

こちらも会釈すると、おや、という表情の後、彼は破顔した。どうやら、カイと同じ制服姿のオレを歓迎してくれているようだ。

 屋敷の扉が開くと、並んだメイドがお辞儀をしていた。

転生した世界とはいえ今までの生活にメイドなんて居なかったから、珍しい気持ちで見てしまう。

「ハヤテ様、ようこそお越しくださいました。私は、当家のメイド長を務めておりますマーベルと申します。ご用件がございましたら、なんなりとお申し付けください」

マシュウやエリクと違い、マーベルは区別ない様子でオレにも礼をした。

 導かれたゲストルームには別のメイドがいて、丁寧に椅子を引かれる。

次々と丁寧な対応をされ、学園内では意識することがなかった身分というものを、急にくっきりと意識させられる。

「カイ様は、ただいまお支度中でございます。お茶はどちらを召し上がりますか?」

「じゃあ、コーヒーを……」

「こおひい、ですか。生憎、ご用意しておりますのがハーブティーと紅茶となりまして」

 怪訝な顔をしたのを見て、しまったと思った。

そうか、この世界には珈琲がないのか。普段は水かお湯しか飲まないため、味のついた「お茶」にどんなものがあるのか考えが足りなかった。

「間違えました。紅茶です、紅茶をお願いします」

 かしこまりました、との返事があり、やがて良い香りが部屋の中に広がっていく。

 落ち着いてみると、ゲスト用の部屋だろうに、奥にももうひと間が併設されていてとても広い。

寮の個室どころか食堂と比べても、この部屋の開放感に圧倒された。庭に面した窓も、小振りのシャンデリアも、磨き上げられている。

「此処には、よくお客さんが来るんですか?」

「いえ。カイ様がお招きされたのは、ハヤテ様が初めてです」

「え、ほんとに?」

「わたしたち、嬉しくて色々準備したんですよ」

「カリナ!ーーーー失礼いたしました。こちらのお屋敷ではご来客が初めてのため、不行き届きもあると思いますが、どうかご容赦くださいませ」

 マーベルに嗜められ、カリナと呼ばれたメイドが肩を竦める。

カイが学園でオレの態度を特に気にしないのは、親しみやすいメイドが周りにいる影響もあるのかな、とぼんやり思った。


 暫くして、制服から着替えたカイがやって来た。

ドレスアップしたという訳でもなさそうだが、結構時間がかかっていたように思う。

「待たせたな」

「いえ。綺麗な部屋で、すごいですね」

「気に入ってくれたなら良かった。さっきは、悪かったな」

「オレの方こそ、よく分からず偉そうなことを言いました。ーーーー側近って言うのは?」

 マシュウとエリクの警護について、オレが警戒対象だから様子がおかしいのかとも思っていたが、どうやらそれだけじゃないらしい。

「側近のことにも繋がるが、ハヤテには俺の立場について、少し話を聞いて欲しい」

 わざわざ家に招待したのは、オレが聞きたかったように、カイにも話したいことがあったようだ。

ゲームのシナリオにはなかったと思うが、こうして自分から話してくれるなら、無口キャラなんて言われなかっただろうにと思う。


 カイは、メイドを下がらせて人払いをした。

主人と使用人では、聞かない方が良いこともあるんだろう。

 カイの話は、自分は第四王子だが、第五王子と王位継承順が入れ替わったという話から始まった。

 ゲームでは、カイが第四王子という情報はあったものの、王位継承順については第二王子のルートで話題になっていた印象が強い。

カイの王位継承順位が下がったことについて、『ザンネン』要素以上に深掘りされるシナリオなどあっただろうか。


「オレに報せが来たのは、公示のタイミングと殆ど同時だった。内容も同じで、父上からは理由の説明はなく、父についている宰相も知らないようだった」

「だからこのお屋敷に?」

「いや。此処は通学用の屋敷で、元々公示よりずっと前から、入学に合わせて移ってくることが決まっていた。今三年生のシズルも、この敷地の反対側にある別の屋敷に住んでいる」

「なんだ。王族の決まりみたいなものなんですね」

「あぁ。王立学園での生活を通して、王宮とは異なる環境や人間関係で過ごす生活を学ぶことになっている。その一環で、王宮とは別の屋敷に住むことが決まっていてな。オレは特に、ずっと王宮育ちだったから」

「中学校……とは言わないのか……とにかく、此処に入学までは学校には?」

「通っていない。王宮の中で、王室付きの家庭教師に師事していた。同い年で王宮住まいの、側近候補達と一緒にな」

「側近候補?」

「国政に関係する貴族の家の子供が、側近候補として一緒に育つんだ」

 側近。

今回カイに聞きたかった話であり、シズルのルートで話題になったことがあったのを思い出した。

主人公と出掛けるにあたり、側近の目を盗んで……というシナリオがあった気がする。

「側近は、王子の近くに控えて、周りとのやり取りをスムーズに行ったり、安全を確保したり、そういう役目を持っている」

 学園生活に王族が混ざること自体、軋轢を生むことがある。しかし、王宮での生活しか知らないままという訳にも行かず、バランスを取るために側近が付くのだという。

「メイリー嬢の件も、違和感は前からあったのに、結局俺は自分から言い出すことができなかった」

 王族が学園生活に混ざることについて、言い含められて来たからこそ身動きが取れなかったんだろうなと、カイの申し訳なさそうな表情から汲んでしまった。

 別に貴族令嬢の嫉妬心などよくある話だろうし、オレ自身もかなり空気が読めない存在だと言う自覚があるため、カイがこんなに気にする話ではないと思うのだが、取り敢えず言葉のまま受け取るだけにした。

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