21.足掻け!落とせない第三試験④
取り敢えず、話題逸らしを兼ねて質問してみる。
セラはそれに、小さく首を振った。
「いや。試験はあくまでも国王陛下のみが行う。だから夕食でも、私達相手には楽にしてもらって構わない」
「ありがとうございます。安心しました」
口では、そう答える以外にない。
しかしオレは知っている。採用面接は、オフィスビルに入った瞬間から、あるいは会社の最寄駅やコンビニですら気を抜くべきじゃないことを。数多いる就活生の一人であっても見られていると言われるのだから、既に顔も名前もよく知られた今の状態で、油断できる訳がない。
そんなに楚々として振る舞える物ではないが、夕食会を含めて、国王の目に入るかもという緊張感を忘れるつもりはない。
「――――フゥ。“セラお兄様”のお小言もこんなもんでいいだろ。ハヤテのお陰で助かった」
「オイ!話はまだ終わっていない」
「おれは、アンタのどっち付かずな態度が気に入らない。だからアンタが王位を継ぐことになったとしても、それに協力するつもりはない。自分と同じく側近候補を失ったカイを支援して、囲い込みたいと思うなら、おれはそれを認めない」
ノリスは、ヘラヘラした態度から一転した口調でセラを睨む。その暗い声色に、オレは既視感を覚えた。
『ヒーリスが嫌い?』
『……ああ。嫌いだね』
初めて偽ビートとして会った時に、確かに彼はそう口にした。目的が分からなかったノリスの行動に、漸く少し輪郭が見えて来た気がする。
踵を返す背中に、セラは少し唇を動かそうとして、すぐにそれを閉じてしまった。その拳に、堪えるように力が込もっている。
「君はまだ客人のようなものなのに……愚弟の失礼をお詫びする」
「い、いえ!顔を上げてください」
第一王子に頭を下げられて、オレは手をバタバタと動かした。気持ちは分かるが、貴族社会を勉強した後のオレにはあまりに重い。
「見ての通り、表沙汰になっていることも、そうじゃないこともあるが、私達兄弟はあまり親しくはない。ただ、カイの王位継承順位が変わったことには皆驚いたし、気に掛けていた」
「ええ。シズル様も、とても心配されているように見えました。お立場上出来ないこともありそうで、歯痒そうでしたが」
「ああ。――――意外だったのは、ノリスがわざわざゼントラントから戻って来たことだ。先ほどの醜態も、私に言いたいことが溜まっていたんだろうが……そう。ハヤテ、君はノリスと知り合いだったのか?」
「え!」
「随分と、ノリスが気を許しているように見えたから。勢いもあったんだろうが、あいつがあんなに自分の気持ちを喋るのを初めて見た」
「そ、そうですか……。実は少し前に、カイ様のお屋敷でご挨拶してまして」
「カイの屋敷に?ノリスが?」
偽ビートとして、しかもカイが居ない時の話なだけに、セラに話してしまって良いものかという葛藤がある。
しかしここで下手に隠して、ノリスと内通していると思われるのも困る。幸い、留守中の訪問についてはカイにも報告済みだから、オレに後ろ暗いところはない。ノリス側の思惑は分からないが。
オレは端的に、ノリスが関わっているゼントラントの商会に働かないか、と誘われたことを話した。
「――――まあ、お誘いは冗談かも知れませんが」
「いや……多分、ノリスは本気だろうな。君の能力に価値を感じたからこそ、カイから引き剥がそうと考えたんだろう」
「そんな。ここまで来ておいて何を言ってるんだって感じかとは思いますが、オレは田舎出身の平民の学生ですよ?」
「ノリスは、信用に足る側近を得ることの難しさを知っている。あいつの唯一の側近、ミュジカの時にも色々とあった……。だからこそノリスの目で見た時に、君には光るものがあったんだろう」
褒められているのに、背筋が寒い。
表情に出やすいオレの複雑な苦笑いに、セラも同情するような表情を見せる。
「王立学園で、君は奨学補助を受け取っているね」
「あ、はい。お世話になっています」
「サラサにも思うことだが、私は本当は、折角入学して学んでいる君達平民に、国政とは離れた場所で活躍してもらいたいと思っている」
セラの表情は、いよいよ同情めいていて、オレは批判されているような居心地の悪さを感じる。
「試験の行方に私が口を出すことは出来ないが、もしカイへの友情だけでこの先へ進もうと思うなら、よく考えて欲しい。――――ノリスはああ言っていたが、私はヴォイドが教職を選んで私の側近を辞めたこと、とても嬉しかったんだよ」
オレは、ハイ、と小さく答えることしか出来なかった。
反論が出て来ない訳じゃないが、言葉でセラに言い募ることでもない。結局はその警告を受けたオレが、それでも国王との面接で何を伝えられるかだ。
私は一度部屋に戻る、と言ったセラと別れた。
自分の部屋に戻り、用意されていた礼服に着替える。
たまにロッテがやってくれたのを思い出して、髪も少し整えた。鏡の自分に話し掛けるように、呟く。
「作文試験の結果は明日だし、今更出来ることもない。ケラールトは気に食わないけど、実力十分と判断されて、セラ様やノリス様の意向とも合うなら、その時は受け入れるしかない」
夕食ではきっと、カイに会える。
ノリスも滞在しているこの王宮で、カイのことが気に掛かるこの気持ちは、単純に友情からのものだろうか。
「カイ様の側近がケラールトになって、ネリィ様はシズル様と婚約して、オレは王立学園退学じゃあ寮にも戻れないから……ホームレスか。ここまで色々聞いちゃってる手前、ノリスからの紹介で働くってわけにも行かないだろうし」
ララブの世界で、主人公のサラサと一瞬だけ仲良くなっただけのモブキャラとして、本来の役割に収まり直すというだけだ。そう考えると、“正解”はそちらなのではないかと思えた。
「――――うん、分かりやすくて良い。オレは、オレのために、トコトン抗うだけだ」
『お前一人いなくなっても、会社は回る』『お前より優秀な奴なんていくらでもいる』なんて、何百回も聞いた話だ。
その度に何度でも、意地やプライドでなんとか形にした“それでもオレがやる理由”を自分自身で捻り出して来た。自分の居場所もその価値も、最後は自分で手を伸ばした物しか残らない。
エンゲンからのノックを合図に、オレは夕食会へと足を向ける。
少し、腹も減って来た。
四王子との会食なんて、主人公でも味わえないイベントだ。折角なら、楽しんでやろうじゃないか。
次話、夕食会では試験結果の話題となり...
※次回更新は、2026/1/31を予定しています。




