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21.足掻け!落とせない第三試験②

 +++++


 『今後、ヒーリス王国では外交政策をどのように進めるべきか』。

 参考データや前提情報など細々と書いてあったが、簡単に言えばこのようなテーマでの作文を求められている。

 なかなか実務的な内容だ。

(ってゆーか、商人やってるケラールトに有利なテーマ過ぎないか……?)

 そう、オレの表情が引き攣るくらいは許してほしい。

 別室での試験だと言うのに、即座にサラサラと解答文を書き始めるケラールトの様子が目に浮かぶようだった。

 当然、ヴォイドの課外授業でも外交に関して触れられていた。しかし時事問題では、最新の情報がモノを言う。ヴォイドが側近候補だった時代の話では古過ぎるし、逆に最新の時事問題となると、王立学園の通常授業の範囲では未だ辿り着いていない。

 新聞やニュースなんてないこの世界で、実際に商売を通して生きた情報に触れていたケラールトとの知識量は比べ物にならないだろう。

 多分学生時代のオレなら、明らかに不利な状況でつい、投げ出したくなっていただろう。

 しかし今のオレには少しだけ、あの頃よりも“なんとかする”経験値が溜まっている。授業料を払って教えて貰う側だった学生時代と違い、仕事では何度も、理不尽や無茶振りを“なんとかして”来た。

 もちろん、結果が振るわないこともしばしばだったが、投げ出せない場面を何度も踏んできたことだけは事実。

 ――――よし。

 オレは挙手すると、エンゲンに一つリクエストしてみた。

「真っ白な紙を何枚かいただけませんか?」

「紙でございますか?解答はこちらに記載いただくものですが」

「解答前に、メモ書きしたいんです」

「ハア……構いませんが」

 よく分からない、という表情をしつつもすぐに用意してくれて、オレはその紙に、図解を始めた。

 外交ということは、当然ながら相手は国外だ。ヒーリス王国から出たことがないオレでも想像できるのは、隣国ゼントラントだけ。

 ゼントラント王国について、この国でオレが学んだ知識は薄っぺらい。しかしオレには、前世の記憶がある。

 つまり、ララブの記憶だ。

 ララブの追加DLシナリオには、新たな攻略対象が登場する。その内の一人が、ゼントラント王国の王子だ。

 正直追加分をやり込むほどでは無かったので、この王子に対する思い入れは薄い。ただ、ノリスのシナリオで少し触れられた異国の話と、実際の王子から語られるお国事情が補足され、主人公視点で『なるほど!』なんて思っていたものだ。

 ララブの知識を使うのは、裏ワザのような、不正行為のような気持ちにもなる。しかし、綺麗事は言ってられない。

 オレは、脳裏に思い浮かぶスチルやセリフを思い出しては、とにかく要素を走り書きしていく。

 残った真っ新な解答文には、提案書の原稿を作るのと同じ作業と思って手を付ける。

 作った資料についてどのように話すか、というトークスクリプトのような物を、営業職だった頃は度々用意した。流用できるような型が出来てくるまでは、とにかく先輩や上司にダメ出しされつつ残業してでも作ったものだ。

 どうせ文章力もケラールトの方が上だろうと、そこへの拘りは捨てることにした。とにかく、現状の課題とその要素、解決策としての提案、懸念されることなどを書き起こす。

 絵力はないが、四角や丸、矢印くらいは描ける。フリーハンドだが、それなりには見られる物が出来上がる。

 時間だけが厳しいかと思ったものの、王宮の舞踏会やら、断罪イベントやらのお陰で、手作業での文書作成力については随分とスキルアップしていた。人間、必要に迫られれば得意なことも増やせるものなんだな、と感慨深い。

「お時間です。……こちらの用紙も、回収させていただきます」

「え」

「何か問題でも?」

「あーいや……清書してないですし、間違ったことも書いてるかも……」

「評価は、あくまでも解答文に対して行われますのでご安心を」

 エンゲンは容赦なく、オレの書き殴ったメモも持ち去ってしまう。

 文句は言えないが、走り書きはただの記憶の整理で、図を描きつつも正確じゃない。この世界において、メモに書き出す習慣が一般的なものじゃないのは、以前のカイの様子からも明らかだ。つまり、どういう立ち位置のモノとして扱われるかは賭けになる。

 解答文に至るまでの思考の過程として、サラッと受け止めて貰えるだろうか。迷いの中でテキトーに解答した、なんて思われないだろうか。


「お疲れ様でした。本日の試験はここまでとなります。先ほどの結果、及び国王陛下との面談は明日の実施となりますので、この後はゆるりとお休みくださいませ」

 エンゲンに言われ、メイドに連れられて客室へと戻る。

 出来るだけ平常心で臨んだつもりだったが、流石に疲れた。肩も背中もガチガチで、無意識にストレッチなんかしてしまう。

 残る国王陛下との面談は、最終の社長面接みたいなものだ。現場担当者ポジションのカイが気に入ってくれていても、採用面接の最終決定権はあくまでも国王陛下ということになる。

 正直オレは、あまり楽観的な気持ちは持てずにいた。

「カイを最下位に落としたのは、そもそも国王陛下だもんなあ……」

 出会った時から、カイはずっと良い奴だった。

 分け隔てない態度は、平民のオレにも、警護のエリクやマシュウにも、使用人にも誠実だった。シズルと比べたら頼りなく見えたかもしれないが、そんなの王立学園に入ってからの伸び代みたいなものじゃないか。それなのに何故、前代未聞とまで言われるような王位継承順位の変更をしたのか。

 先ほどの作文試験では、分かったように国のことを語ってみたが、本質的には何も分かっていない。この状態で対峙するしかないかと思うと、恐ろしいような気持ちになった。

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