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21.足掻け!落とせない第三試験①

 ネリィは何故、あんなことを言ったのだろうか?

オレが側近試験に落ちたら、シズルと婚約するだなんて。

 彼女はカイの婚約者候補でもある訳だから、関係無いとは言わないが、そんな突然決めることでもないだろう。

 しかし、そう言った時の思い詰めた表情が脳内にこびり付いて離れない。望まない決断をする、という宣言のようだった。

 その意図するところは分からないが、ネリィもオレの側近試験合格を望んでくれているのだろう、とだけ解釈しておこう。

 

 今オレの目の前にいるケラールトは、第三王子ノリスと繋がっている。

 ネリィからの情報を疑っていた訳ではないが、改めて動揺した表情に、確信が持てる。

 一体、いつからだ?

 ヴォイドの別荘での件は、怪我をしていたケラールトに、他でもないオレから声を掛けた。実際にヴォイドの屋敷の医者が怪我を診ているからフリではないだろうし、本当に偶然だった可能性も高い。

 詰め方次第ではもう少し情報も引き出せそうだが、そう思っていた矢先、扉からノックがあった。

「お待たせしております。先ほどの試験について、評価が出ました」

 進み出たのは、試験監督長のような年嵩の男。確か、エンゲンと名乗っていた気がする。慇懃でお堅い態度は如何にもという感じだ。

 オレとケラールトが揃っているのを確認してから、エンゲンは評価を読み上げる。

「お二人いずれも減点なく、満点でございます」

 オレは、おお、と思わず感嘆した。そういうパターンもあるのか、と。

 しかしケラールトは、動揺から立ち直ったのか姿勢を整えると、眉を顰める。

「これはテストなんだろう?失礼ながら、彼と僕には幾らでも差があった筈なのに、ちゃんと評価する気があるんですか?」

「当然です。評価の詳細はお伝え出来かねますが、ケラールト様、ハヤテ様共に、十分に礼儀作法に則りお食事を楽しんで下さっていたご様子でしたので」

「そんなのは当たり前じゃないか!そちらでは食器を落とす音だってしてたようだけど?」

「恐れ入ります。お食事の最中、給仕の者の不手際が止むを得ず発生することがございます。総合的な評価であり、試験での着眼点は一つではないこと、お心に留めていただけますと幸いです」

 オレもあの時正直減点を覚悟したものだが、公平に見て貰えていたことにホッとする。コース料理が出るような時は、カトラリーを落としても自分で拾わないこと、というのは前世でも何度か聞いた話だ。

 確かに、試験中に消しゴムをうっかり落として拾って貰ったとて、それで失格になったりはしない。礼儀作法と言っても人間が行うことである以上、その動作面の完成度だけを問うものではないのだろう。

 しかし“うっかり”がなかったケラールトとしては、オレと差が付かないことに納得出来ない様子だ。エンゲンにこれ以上言い返すのは諦めたようだが、ムスッとしている。

「次の試験は後ほど、先ほどの筆記試験と同じ部屋へご案内します」

 そう言って去るエンゲンと共に、ケラールトもオレの休憩室からそそくさと出て行ってしまう。オレが話を詰めたいと思っていたのがバレたのだろう。

「しかし、満点かあ……」

 筆記試験、礼儀作法ともに、ケラールトは減点がない実力ということだ。側近候補として王立学園入学寸前まで過ごしていたことも当然だが、それ以降の商人としての生活でもきっと、自分のスキルを手放さなかったんだろう。

 ケラールトがノリスと結託して動いているなら、カイに対する裏切りだ。けれどそもそも、そこまでして王子の側近に固執する理由はなんなのか。

「カイ様だったら、何て言うか……なんて、考えるまでもないか」

 ノリスの回し者である、と言った所で、多分カイはそれだけでケラールトを不可とはしないだろう。試験の結果は正当なものとして受け入れ、その上で、必要ならノリスとも対話することを選ぶ筈だ。

 どんなに理不尽でも、一度始まった試合で盤をひっくり返すような手段を取る気はなかった。

 色々と仕込みがありそうで非常にムカ付くが、それでも今、この試験を投げ出す選択肢はない。とにかく実力で、ケラールトより側近に相応しいと認めて貰うしか道がない。

「ハヤテ様、準備が整いました。ご案内いたします」

 パンパンと両頬を叩いて、気合を入れ直す。残り二つの試験、後がない。

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