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20.いざ!覚悟重なる側近試験③

 +++++

 

 王宮は部屋が余っているらしく、オレとケラールトそれぞれに一室ずつが与えられた。試験監督も、見た感じオレの部屋側だけでも三名はいる。

 筆記試験は、覚悟していたよりも簡単だった。

 元々は子供時代からの側近候補が受けるだけあって、王立学園での試験の方が余程難しい。

 一部は勘頼りだが、殆どの問題には自信を持って回答できた。ヴォイドに頼んでいた課外授業で学んだ内容も多く出題されていて、助かった。

 二名だけの試験ということもあり、公平を保つためという名目で、試験後にはすぐ採点が開始するらしい。

 礼儀作法の試験を待ちながらの休憩中、筆記試験の結果が開示された。

「――――87点」

 手応え以上の出来でまずまずの点だと思えたのは、一瞬だった。

 横のケラールトが、オレの点を見て笑う。

「君にしては、よく頑張ったね」

 ケラールトの点数は、満点だった。笑いが堪えられない、という表情。

「……ハハ!失礼。あんな問題で、まさか間違えてしまうなんてね」

 正直、悔しかった。

 決して舐めていたつもりもないが、コレがケラールトとオレの、側近候補としての純粋な距離なんだろう。

「ハヤテ君は、カイ様のお屋敷でどれくらい勤めているんだっけ?」

「――――4ヶ月ほどです」

「そうかぁ。いや、それなら短期間で礼儀作法も覚えるのが大変だっただろうしね。恥じることはないよ」

 先ほど発表された次の礼儀作法の試験は、昼食も兼ねてテーブルでの所作を見るらしい。まさか、食事自体が試験になるとは。

 王宮らしい豪奢なダイニングには、金色、銀色の食器が並んでいる。

 同じテーブルではあるが、相手を参考にしないようにか斜向かいの形で距離のある座り方となった。

 給仕のメイドと執事がそれぞれ就いて、前菜から順に運ばれて来る。

 入室時に見えた壁際の人間たちは、格好は執事とメイドだが、一部あるいは全員が試験監督なんだろう。

 もう、心を無にしよう。

 商人として生活していたらしいケラールトも、ヴォイドの別荘で出会った際、足を怪我していた筈なのにその所作はカンペキだった。

 オレだって、前世で親戚の結婚式参加のためや、記念日に家族で行ったホテルディナーなんかで習ったテーブルマナーで、多少は心得があるつもりだ。

 カイの屋敷でも、メイド達が褒めたりツッコミを入れたりしてくれた。

 前世でマナー講師のショート動画でも見ておけば良かったかなあと思わないでもないが、お箸生活から離れない限りどうせ身に付くこともなかっただろう。

 取り敢えず、音を静かに。動きをゆっくり。そして何より、背筋を伸ばして。

 幸い朝食が豪勢だったのもあり、ガッつく程の腹具合でもない。一定のペースで食べ進めていく。

 そんな中、カシャン、と音を立ててナイフがテーブルの下に落ちた。

 一瞬のことだったため、オレの腕のせいか、給仕のメイドが皿にぶつけてしまったのかは分からない。

 反射的に拾いたくなるが、オレはなんとか堪えて、顔を上げた。

「……失礼しました。代わりのナイフをお願いできますか?」

 メイドは、こちらこそ申し訳ありません、と一礼する。

 一挙手一投足を見られているのだろうが、仕方ないことはある。オレには、テーブルの向こう側で食材の講釈を述べているケラールトほどの余裕はない。

 そうこうしている内にデザートまでが済んで、オレは席を立つ。

「ご馳走様でした」


 +++++


 流石に、食べ過ぎた。

 試験の合間の食事なんて、普通なら弁当かコンビニ飯が相場だろう。フランス料理っぽいフルコースを堪能してしまい、この先の試験に不安しかない。

 心を無にしていたつもりだが、丁寧に漉された魚介風味のスープや、メインで出た柔らかいステーキは焼き加減もソースも美味しかったし、デザートも芸術品みたいだった。

 冷静なつもりだったが、多分顔にも出ていた気がする。試験監督による変装かもしれないのについ、料理長っぽい人にも美味しかったですと言ってしまった。媚びを売ったように見えていたら、減点かもしれない。

 午後からは作文と、面接が待っている。

 休憩室には試験監督の配備もないが、流石に横になって昼寝という訳にも行かない気がして、オレは軽く体を伸ばした。

 そこに、ノックがあった。

「はい?」

「やあ、ハヤテ君」

「……なんですか」

 ケラールトが、ニコニコした表情で立っていた。

「さっきのは、王宮の料理長がわざわざ手掛けてくれたらしいよ。ちゃんと味わえたかい?」

「ええ、まあ……」

 食事中、いちいち感想を語るほどの余裕がなかったオレを見て、どうやら馬鹿にしに来たのだろう。

 試験中にこうして候補者同士で直接やり取りが出来るのはどうなのかと思うが、わざわざ禁じるようなことじゃない。マナーの問題だろう、と思ってイライラして来る。

 しかし、ケラールトも何処かで追い詰められているのか、余裕が無いのかもしれない。

 本当に余裕だと思っていて、オレを平民だと侮っているのなら、わざわざこうして絡んでくる必要もない筈だ。

「ケラールトさんは、ノリス様に何を言われたんですか?」

 オレはつい、聞いてしまった。

 これだけ話し掛けられると、伝えないのも座りが悪いような気がして来たのだから仕方ない。

「……え?」

「貴方は、ノリス王子と結託しているんでしょう?」

「な、なな、なんで君からその方の名前が……!?いや、そ、そもそもなんで……」

「貴方にどう見えてるか分かりませんけど、これだけ状況が揃っていて気付かないほど、オレはアホじゃないですよ」

 半分カマ掛けのつもりだったが、両眼を見開くその動揺は、アタリらしい。

(まあ、あの人からの情報が間違ってる筈もないか)


「対立候補のケラールトは多分、第三王子のノリス様と繋がってますわ」

 

 そう教えてくれたのは、ネリィだった。

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