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01.転生!ただの平民男子①

初投稿です。

できるだけ早めに続きを載せます。

 白地に金で装飾された扉に、磨き上げられた大理石。王宮ならではの空気に、思わず固唾を飲む。

 いよいよ、王子の側近試験当日を迎えた。

平民出身の側近など異例ということで、思えばここまで苦労も多かった。

しかもこの試験に落ちれば、王立学園を退学させられるという余計な条件付き。

「せっかく王立学園退学のリスクまで背負って側近になっても、仕える先があんな王子だなんてな」

 ニヤニヤとした嫌味を無視し、オレは今面接室の前にいる。

 思えば前世でも、就活での面接なら五十回以上の経験がある。なんなら就職先のベンチャー企業では、三年目にして一次面接の面接官までやっていたオレの経験値を、ナメないで貰いたい。

 ――――いざ。


+++++


 オレが生まれた村は、このヒーリス王国の中でも辺境の田舎にあるパプリカ村という。

 遡って考えれば、村で暮らしていた時から、オレの記憶には曖昧なことが多かった。

幼くして両親が他界し、遠い親戚にあたるらしい老夫婦に育てられてきたが、両親のことは殆ど分からず、覚えていない。

 通っていた村の学校で、両親の話題になった時にはスラスラと思い出に乗せた会話をしたはずだが、後になると記憶が曖昧になっている。誰かと話すとその場では支障がないのに、後から記憶には靄が掛かる。

 王立学園の入学試験でも同様だった。

 この国のことについて、問われると回答が浮かび、答えられる。しかしどうしても理解できない内容もあり、入学直前に寮へ入る際、教科ごとの差が大きいことを指摘されたほどだった。

 自分が明確に理解していることと、曖昧になる記憶の差には悩んできたが、漸く分かった。


 ここは、ゲームの世界だ。


 オレは今、王立学園の入学セレモニー会場である講堂に、制服姿で立っていた。

 目の前の光景は001番のスチル画像そのもので、壇上で紹介されている『サラサ・アクライネ』という特待生は、紛れもなくゲームの主人公。

 女性向けの所謂乙女ゲームである『RUN UP LOVE』。通称『ララブ』と呼ばれるあのゲームの、あの王立学園だ。

 王立図書館の司書を目指して入学したはずの主人公が、王族や貴族と関わり、時には身分差別の問題に巻き込まれながら、夢も恋も叶えようとするストーリー。

 もしかしてオレは、ララブの世界に転生してしまった、ということなのか。

 曖昧だった記憶が、主人公の姿を見たことで急速に繋がり出した。

 そして同時に、本当の自分の記憶が蘇る。サラリーマンだった自分の前世。容姿や名前、実家の家族。過ごしてきた日常も。

 頭上を見上げても、左右を見ても、アトラクションやVRではあり得ないほどのリアリティで、目の前にゲームの世界がある。そこに居るのが、周りと同じ制服を着た自分。視界に入る自分の髪の毛先は深緑色。見渡した周りの生徒や教師も、頭髪や眼の色が明らかに日本人ではない。

 しかしそこで、ハタと気付いたことがある。見たところ、攻略対象は大体揃っているんじゃないか?

 生徒会長兼王子と、その弟王子。幼馴染の同級生に、貴族出身の教師。この場に見当たらない他の王子もいたはずだが、何にせよ、ライバル令嬢も含めて、ララブの主要キャラクターは目に入っていた。

 そう考えると、オレは誰なのか、という話だ。

 主人公でもなく、攻略対象や、ストーリーに出てくる人物でもない。大体、あのゲームでパプリカ村なんて出てきた記憶がない。

 思い出したことで更にしっくり来る「ハヤテ」という名は、前世でオレの親が付けた名前だ。間違いない。

つまり、転生したものの、元々ゲーム上で役割があるキャラではなく、平民のいち生徒でしかないのだろうか。俺の中で色々な記憶が曖昧だった理由は、ゲーム内で特に定義されていない部分だったのかもしれない。

 とにかく今は、目に入るものの情報量が多くて、立ち眩みが治らない。

「大丈夫か?顔色が悪い」

 耳に馴染む声で、地味な印象だが整った顔立ちが、隣から気遣うように話しかけて来る。この男子生徒は、弟王子であり、攻略対象だったはず。

 大丈夫です、と返すのが精一杯で、オレは頭の中に溢れてくる情報を一旦受け止めることに注力した。


 貧血のような、熱中症のようなフラついた状態ではあったが、なんとか入学セレモニーを終えて、中庭での懇親会へ参加した。

 この景色にも覚えがある。

 主人公が、王子や他のキャラと会話をするシナリオがあったはずだ。

「カイ様には、ご機嫌麗しゅう」

 主人公を探していたオレの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。ただし聞いたのは、勿論前世のゲームでの話である。

 完璧に礼を取って見せたのは、侯爵令嬢ネリィ。

 彼女は主人公のライバルとして、幾つものルートに絡んできた。

 その彼女の前には、先ほど見た顔である、第四王子の姿があった。

 平民である俺と変わらない、飾り気のない制服姿。よく見ると整った顔立ちだが、紺色の落ち着いた髪色は地味に思える。記憶が鮮明になる中で、一番人気だった王子キャラの弟だった気がするなと、ようやく思い出せた存在。

 攻略対象の王子と、ライバル令嬢がやり取りする光景。記憶の中では、ここで選択肢があったような気がする。中庭に残るか、図書館を探すか、教室に向かうか。

 自分が主人公でないことは明白ながら、オレはそこで選択した。

 中庭に残り、そして話し掛ける。

「カイ王子!」

 ネリィと話し始めた所に進み出て、第四王子に声を掛けた。

 自分がこの世界で、どんな存在なのかを知りたかった。カイの近くに控えていた警護の男が、すかさず目の前を塞ぐ。

「殿下は只今お嬢様と会話中である。無礼ではないか!」

「いえ、構いませんわ。――――また後ほど」

 ネリィが悠然と去ったのに合わせて、俺は怪訝そうなカイの目の前に立つ。

 セレモニーホールでは薄暗くてよく見えなかったが、目の前の男はやはり、ララブの攻略対象であるカイだ。

「君は?」

話し掛けられて、何か返さなくてはと思うが、頭の中にはゲームの情報が膨らんでいて、咄嗟の動きしかできなかった。

 名刺もない以上、挨拶なら取り敢えず、握手だ。

「オレは、ハヤテ。パプリカ村出身です」

 周りが一斉に、ざわめき出す。警護の者に、一層警戒されたのも分かる。

 平民が王族に握手を求めるのは常識に外れた事だと、一拍後に気付いたのだが、引けなくなってしまったのだからしょうがない。

 周りの反応に怯むことなく、カイは少し慣れない感じで、握手を返してきた。

「俺はカイ=ヒーリス。宜しく」

 パプリカ村という田舎で農作業をして育ってきたオレの手と違い、すらりとした手だった。しかし思ったより温かくて、本当に目の前にゲームのキャラが居るのだと、認めるしかない。

 再び情報が頭の中を駆け巡り、処理しきれなくなったオレは、そのままその場に蹲った。

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