第五話 ソウシの夢
温かい光に包まれた部屋。だが、ソウシの周りには薄暗い空気が纏わり付いている。
温かい光の真ん中にいつもいるのは兄の姿だ。
追いつきたいと思い前に踏み出してもその間に兄は何歩も先へ行っている。
「ゲン兄!待って。」
その声は兄には届かず宙に舞って消える。
兄はそのまま部屋から出て行ってしまった。
急いでその後を追い部屋から出ると、真っ白な空間が広がっていた。
「ゲン兄?」
「ゲン兄はいないよ。」
後ろから声が聞こえる。振り向くと誰もいない。
(誰もいない?)
「見えないからって居ないわけじゃないんだよ。」
幼い子供の声が聞こえる。
「ここは君の心の中。僕は君の気持ちそのものさ。」
「…。」
「僕は君で君は僕。」
「…何を」
「ああ、自己紹介を忘れてた。僕はソウシさ。」
「!?」
「ソウシって知らない?君の名前なんだけど。」
周りから笑い声が聞こえる。
驚いて後退りする。
「ああ、僕の姿は見えないよ。」
「…。」
「だって僕はこの空間そのものだからね。だから変に動き回らないで。くすぐったいよ。」
クスクスと笑うような声で声は話しかける。
ソウシはゆっくり後ろに下がりながら身構える。
「逃げるの?」
「…。」
「いつまで黙っていれるんだろうね。」
声が出ない。口から空気が抜ける音だけが聞こえる。
「無口のソウシのままでは居られないよ。」
「…。」
「みんなは君のことどう思ってるのかな?」
「…。」
「喋らないなあ。」
声は少し黙る。
「あ」と嬉しそうな声をあげてソウシに話しかける。
「ゲン兄のこと恨んでるでしょ?」
「…そんなこと」
「あるよ。」
声は高らかに笑う。ソウシはその声が自分の思いだとは思えなかった。
声のする方を睨みつける。
笑い声がやみ、少し落ち着いた声でが聞こえる。
「恨むは言い過ぎか。言い直すよ、妬みだね。」
「…。」
「ゲン兄はなんでもできる。」
「…。」
「優しいし、みんなに好かれてる。」
「…。」
「頭もいい。」
「…。」
「なんで兄弟なのにこんなに違うんだろう。」
「…。」
「ゲン兄が妬ましい。」
「…う。」
「ゲン兄さえいなければ。」
「違う!」
ソウシが叫ぶと声は一度止まる。うるさいくらいに心臓がなる。
白い世界に亀裂が入り崩れ始めた。
笑い声が聞こえてきて再び声が話し始める。
「必死になってる。図星を突かれて焦ったのかい?」
「…違う。」
「強がったって無駄だよ。。」
声は少し笑う。
ソウシの背中には冷や汗が伝っている。
「僕は君なんだから。」