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第十四話 霧に包まれて

静かな部屋。

あの騒がしい家と同じ場所と思えないような部屋でキリは深呼吸をする。

手紙は書いた。ソウシとゲンに当てて。

ソウシの持ってきてくれたコップの水を見る。歪な顔が映っていた。


少し窓際に座って窓を開ける。

夕暮れの生温い風が入ってきた。





キリは元々活発な少年だった。

普通の名前を与えられ普通の子供として4歳までを過ごした。

四人家族の一員であったキリは妹と両親と幸せに過ごしていた。


「$?=お前の新しい友達だ。」


そう言われてキリは同年代の女の子に合わされた。

キリより一回りほど小さい少女はキリの顔を見るなり近づいてきた。


「$?=よろしく。わたしのなまえシアっていうの。」


そう言って笑ったシアはキリの手を引きあっちこっちへと走り回る。

四つ歳の離れた妹はその様子を笑いながら見ていた。


シアとは家族がらみの付き合いとなった。

シアの両親はいい人たちでいつもキリに対して我が子のように接してくれていた。親が妹に付きっきりで面白くなかったキリはシアの家族によく面倒を見てもらっていた。


シアの父親は賢くいつもキリに勉強を教えてくれていた。教える内容といえば危険な生物や法律にスレスレの知識ばかりでいつもシアの母親に叱られていた。


シアの母親はキリに最低限の躾から料理や人との関わり方など両親が教えてくれなかったことを数多く教えてくれた。


キリは幸せだった。


ある日のキリの家族とシアの家族でキャンプに行くことになった。

近所の公園などではなく山の中で止まろうと言い出したのはシアの父親だった。

いい場所を見つけたと言って山の中の小高い丘まで案内した。


シアの父親は忘れ物が多い人だった。


テントを忘れたと言ってシアの父親は一度家に帰った。


その間にキリとシアはかくれんぼをすることになった。

最初はキリが鬼だ。

丘から少し離れた木の下でキリは十を数えていた。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」


ゆっくりと数えるキリに後ろからシアの笑い声がした。


遠くに行ってはいけませんよとシアを咎めるシアの母親の声が聞こえた。


「0!」


そう叫んだ時大きな音と突風が吹いた。


後ろを見ると両親と妹は黒焦げの炭になっていた。

シアは血だらけで倒れている。シアの母親は一瞬で白骨体になりなにがどうなってるかよくわからない。


「シア?」


キリがそう出した声に呼応するようにシアが叫び声を上げた。


「ぎゃああああああいたいいたいいたいいい」


悲痛な叫びは先程までの束の間の沈黙を切り裂き鼓膜を揺らす。

急いで駆けつけてきたシアの父親はシアとシアの母親の隣で声をあげて泣いていた。



それからのことはよく覚えていない。


聞いた話ではキリとシアの父親以外は死んだらしい。

シアの父親は行方をくらましたとも聞いた。

だがキリにはどうでも良かった。

シアはもう死んでしまったのだから。


そこからキリは孤児院に引き取られ数年を過ごした。

ある時キリの体からモヤが出るようになった。

医師への診察でも原因がわからず体のモヤは増えていった。


まずは体がだるくなった。そして成長が止まり、食欲がなくなった。


日に日に衰弱していくキリに孤児院側はお手上げ状態になった。


ある日孤児院に一人の訪問者が来た。


訪問者はキリに向かって言い放つ。


「お前の内臓は気化してほとんどない。」


キリは意味がわからなかった。


「お前は空っぽだ。」


そう言われた時、キリの頭は真っ白になった。


「ついてきたらお前に薬をやろう。よくしてやるよ。」


そう言われついていった先にあったのがこの家だった。

黒い煙がもくもくと上がるこの家での長い生活が始まった。






そしてそれが今終わる。


「シア、今行くからね。」


そう呟いたキリは薬を飲み、水を飲み干した。

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