第十二話 仲良し兄弟
ソウシは急いで階段を降りていた。途中何度も転びそうになるがそんなことより早くゲンと話したくて仕方がなかった。
とりあえず水を取りに行くために食事に入る。
アルが何かを作っていた。いい匂いがあたりに漂っていて腹の虫が鳴る。
「あれ、ソウシ?」
その音で気付いたアルが手を止めてこちらに向かってくる。
エプロンを取りながらこちらにきて用件を聞く。
「どうしたの?」
「…水が欲しくて。」
「了解。誰かにあげるの?」
「…キリが薬飲むって。」
「わかった。」
この前のことで少し苦手意識があり声が一段と小さくなる。
テキパキ動いてアルは水の入ったコップを手渡してくる。
「はい、溢れないよう気をつけて。」
「…あ、ありがとう。」
「あ、あとこの前のことなんだけど…。」
「…?」
何か言おうとしてアルは頭を掻く。
口をもごもごと動かしながら何かを考えてる。
ソウシはその行動をじっと見ながら待つ。
「こ、この前は」
ピイイイイ
あるが何かを言おうとした時に何かの音が鳴り響く。驚いて振り向くと火にかけていた鍋が泡を吹いている。
「まっずい!」
エプロンを来ながら急いで厨房に戻るアルを呆然と見ていたソウシは、少し時間がかかりそうなのを見て後で聞くことにしてキリの部屋まで戻ることにした。
「あ。」
キリの部屋までの帰り道ママの部屋の前でゲンに遭遇した。
目を逸らそうとするゲンにソウシは話しかける。
「…ゲン兄。」
「どうしたの?」
「…僕悪いことしちゃった?」
ゲンはソウシの顔を見る。
その顔は一瞬驚いたような顔に見えた。
瞬きをすとその顔はいつもの微笑みに変わっていた。
「ごめんね。僕が不安にさせちゃった。」
少し悲しそうな顔でこちらをみる。
目が合うと困ったように眉を下げた。
「ソウシは何も悪くないからね。」
そう言ってゲンは笑う。
「じゃ、じゃあ僕のことどう思ってる?」
ゲンの顔色を伺いながらソウシは問いかける。
確かめるような声色はいつにも増して弱々しかった。
ゲンはゆっくりソウシに近づいて抱きしめる。
「世界で一大事な弟だよ。ソウシのことは僕が絶対に守るからね。」
そう言ってゲンは強く抱きしめる。
水をこぼさないようにソウシもゆっくり腕を動かしゲンを抱き返す。
「…よかった。ゲン兄…大好きだよ。」
ゆっくりとそう返すとゲンはゆっくりと離れる。
「その水、キリのところに持っていくんでしょ?」
「…うん。」
「こぼさないように気をつけてね。」
いつものゲンだった。
少し胸を撫で下ろしつつ、水を落とさないように両手でしっかり持つ。
(よかった。僕のこと嫌いになったわけじゃなかったんだ。)
そう思いながらさっきよりも軽い足取りでキリの元へ帰ろうとする。
「あ、ゲン兄。」
「どうしたの?」
「これ。」
そう言ってポケットから一つの紙を出す。
キリから言付かった手紙だ。
ゲンは首を傾げながら紙を受け取って中を開く。
サッと一目したらその紙をポケットに入れてしまった。
「わかったって言っておいてくれる?」
「…?わかった。」
何に対してのことかわからなかったがとりあえず返事をしておく。
ソウシはそれより問題が解決したことをキリに報告したかったので、急いでキリの部屋までま戻った。