表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

『燃ゆる国境、動く議会』

 カーヴァル自治領・第七州境界線


 夜空を裂いて、火の矢が飛ぶ。

 国境を隔てるライン・ドレイン川の対岸から、次々に砲撃音が響いた。


 東側に広がるバラル共和国は、即座に臨戦態勢へ移行。

 しかしカーヴァル側からの声明はただ一言──


 「演習だ。我々は侵攻の意思はない」


 その一言で、戦火が止むわけもない。

 バラルの民衆は怒りをあらわにし、議会では即座に“防衛即応法案”が提出された。


 


 ◆ ◆ ◆


 


 一方、その混乱の只中。

 ネクスは、都心部の高級カフェでバラル共和国中央議会・副議長と会っていた。


「で? 我が国の議会に、君のような“無所属の市民”がどう口を挟むつもりかな?」


 傲慢な口調の副議長アリストン・ルルミール。

 だがネクスは、それに動じる様子もない。


「戦争に金がかかるのはわかってるだろう。

 でも、その戦争が“経済界のルート”を壊すとしたら?」


 ネクスは静かに、ノート端末を出した。

 そこには、カーヴァル自治領が行っている企業買収・通貨操作の証拠が並んでいた。


 「こ、これは……」


 「演習という名の示威行為。その裏で金融戦争がもう始まってる。

  バラルが銃を撃ち返す前に、資本を防衛しろ。じゃなきゃ、君の議席も消える」


 アリストンは顔を引きつらせる。


 ネクスは立ち上がり、帽子を被った。


「俺はただの“情報屋”さ。君らのような立派な政治家じゃない」


 その背に、アリストンは問いかける。


「君……本当に何者なんだ?」


 ネクスは一瞬だけ振り返り、静かに笑った。


「……フリーターだよ」


 


 ◆ ◆ ◆


 


 翌朝。


 バラル共和国の議会は、突如“即時反撃を保留”とする新方針を発表。

 メディアはどこからともなく流出した経済戦略データにざわつき、

 世論は戦争回避派へと傾き始めた。


 カーヴァルの“演習”は、外交的に追い込まれていく。


 


 ◆ ◆ ◆


 


 同時刻。オステリア旧都の廃工場跡にて。


「ネクス、うまくやったな」

 ブロイが無線越しに言う。


「ああ、だが“奴ら”はまだ出てこない」

 ネクスは、ビルの屋上から遠くを見下ろしていた。


 彼が睨むのは、“中立国レイニア”の特使団。

 そこに紛れているという、“第三のコード保持者”の影。


「戦争は止めた。……次は、俺たちが始める番だ」


 ネクスの眼光が、また一段鋭さを増していた。


 


 ◆ ◆ ◆


 


 その夜、カーヴァルの軍施設で、銀髪の女が微笑む。


「ふふ。あなたが動いたのね、ネクス。けれど……間に合わないわ」


 彼女はモーラ・エリヴィア。


 その手には、ひとつの古い“暗号鍵”が握られていた。


「《コード08》――“リヴィア・テイル”は、もう我々の中にある」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ