『割引肉と伝説の男』
その日、ルギス・アルミアは“世界の均衡”より、特売の豚バラ肉の行方のほうを気にしていた。
時刻は18時42分。スーパー《オリュン商会》の冷蔵コーナー、ラスト1パックの豚バラ。
通常価格698フェル。それが半額の黄色シールによって349フェルへと成り下がった今、この国の平和は豚肉に託されたと言っても過言ではない。
そして、手を伸ばそうとしたその瞬間──
「……おっと、これは俺のだな?」
鼻で笑うような声とともに、スッと割り込んだのは筋骨隆々の中年男だった。
軍服こそ着ていないが、明らかに職業軍人。それも相当な階級持ちだ。後ろから覗いた階級章は“少佐”。しかもオルデラ帝国の。
(……クソ、よりによって帝国の兵かよ)
ルギスは、ばつの悪い顔をしながらも何も言わず、そそくさと別の棚へ視線を向ける。
だらしなく伸びた前髪。寝ぐせまみれのシャツ。そして薄汚れたコート。
彼の姿は、この国の半分以上の国民が「こいつ、たぶんニートだろ」と思うであろう風体だった。
「んー、あ、これ賞味期限切れてんじゃん」
「ちっ、庶民相手にムキになったか。悪かったな、小僧」
軍人は肩をすくめ、豚肉を棚に戻して去っていく。
ルギスはそれを確認すると、静かに歩み寄ってパックを手に取った。
「……ふふっ、ラベルの位置変えただけで引っかかるとは。帝国の軍人も地に落ちたもんだ」
誰にも聞こえないように呟きながら、ルギスは財布からちぎれかけたプリペイドカードを取り出し、レジへと向かった。
◆ ◆ ◆
「ルギスくん、また目の下にクマできてるじゃない。ちゃんと寝てる?」
翌日、外務省第三課・中規模国外交室。
書類の山に囲まれた窓際の机で、地味なメガネ女性・クラリカが心配そうに声をかける。
「寝てるよ。豚肉のおかげでな」
「何それ怖い。ていうか、また徹夜で変なレポート書いてたでしょ」
「“変な”じゃない。“予測不能事態における小国外交の多軸対応案”だ」
「……それ、今の情勢読む限りほぼ全部当たってるって主任が震えてたよ? 本当にルギスくん、ただの書類係なの?」
「ただの書類係だよ」
ルギスはすっと目を細め、薄く笑った。
それが嘘であることを、クラリカは深く追及しなかった。
◆ ◆ ◆
夜。ルギスは古びたアパートの一室で、壁に張った地図を眺めていた。
ヴェレシア大陸全土の軍事配置、政情、エネルギー資源の分布、そして最新の情報網。
その中心に、赤く×印が描かれている場所があった。
──“ノルカ辺境自治区”。かつて故郷だった地。
十年前、武装組織による虐殺で焼かれた村。その時、ルギスの家族は全員──
ルギスはその思考を断ち切るように立ち上がった。
部屋の奥、まるで金庫のような厳重な鉄扉。
その中に保管された黒い外套と、名もなき仮面。
それは、世界中の諜報機関や軍司令部が恐れる“ある人物”の装備だった。
「……ノルカで、また軍事訓練演習だってさ。
帝国と連邦の代理戦争か。ほんと、好き勝手やってくれるな」
彼は外套に腕を通し、仮面を顔にかけた。
声が変わる。
雰囲気が変わる。
覇気のない青年は、その姿を捨てる。
「終わらせるさ。いつも通り、“誰にも知られず”にな──」
コードネーム・ネクス。
世界の裏で動く“無名の英雄”が、再び戦場へと舞い戻る。
今回初投稿!どんな感じなのかドキドキワクワクが止まらない。どうぞ楽しんでってください。大本はチャットGPTにお願いしています。こいつすげぇ。