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作者: 竜月

 とある国の王様が言いました。

「国民から意見をあつめよう!」


 それを聞いた大臣は尋ねました。

「いったいどういうことでしょう?」


■□■


「今この国の状況は最悪だ。良い解決案も見つからない。だから、解決策を国民から募ろうと思うのだ」

「して、どのように」

「街の人通りの多い所に箱を置く。意見を入れてもらおう」

「…………」

「どうした?」

「……やってみましょう」



 一月後。

「王」

「どうした」

「こちら、この一月で例の国民箱に投函されていた提案で御座います」

「おお! 待ちかねたぞ!」

「どうぞ」

 …………。

「大臣よ」

「はい」

「何故こんなにも提案が少ないのだ」

「…………」

「国民はもっと意見を持っているのではないのか? 訴えがあるのではないのか?」

「恐れながら」

「申せ」

「はい。提案が少ないのは、街の中心に箱を設置した為ではないかと」

「どういうことだ」

「人通りの多い所にある箱に意見を投函しようとすれば、他人からの視線を集めます。悪目立ちするのが嫌いな国民ですから。その好奇の眼を嫌っているのでは」

「では、人通りの少ない場所に箱を移そうではないか」

「……やってみましょう」



 一月後。

「王。箱が壊されました」

「なんだと!?」

「現状に不満を持つ何者かが破壊したようです。人通りが少なく、目撃者はおりませんでした」

「不満を解消する案を募っている箱を、何故壊すのだ?」

「…………」

「では、箱に警備を付けろ。ただし見つからないようにな」

「……やってみましょう」



 一月後。

「こちら、国民からの意見になります」

「おお! 沢山あるではないか。どれ」

 …………。

「……大臣よ」

「はい」

「なんだこれは! 醜い中傷と暴言の束ではないか!」

「はい」

「何故だ。この箱は提案を入れる為の箱だぞ!」

「恐れながら」

「申せ」

「誰にも見られず、しかも匿名で良いと言う点が、中傷・暴言の投函が増える理由だと思います。何を書こうとも責を問われることがありませんから」

「では、隣に一人警備を立てろ。名前を書いてもらうことは出来ぬが、圧力になる」

「……やってみましょう」



 一月後。

「こちらになります」

「……投函量が減ったな」

「矢張り警備がいるとそうなりますね」

「だが、これで良い解決案が見つかるはずだ」

 …………。

「大臣よ」

「はい」

「聞きたいことが二つある」

「なんなりと」

「私は解決案を求めていた。だが、これらはもう何度も議題に上がっている問題提起ばかりだ。何故誰も解決案を書いてこないのだ」

「問題点をあげつらうことが出来ても、解決案は解からない者が殆どなのでしょう」

「もう一つ。複数の意見があるのに、どれもこれも似たり寄ったりな内容なのは何故だ」

「そう言う世論が街で流行っているのでしょう」

「世論?」

「ええ。世論です」

「何故、自らの意見が世論に左右されるのだ」

「…………」

「では、子どもにも意見を募ろう。彼らからなら、新鮮な提案が聞けるだろう」

「……やってみましょう」



 一月後。

「……な、なんだこれは!」

「子どもたちからの提案です」

「似たり寄ったりな大人たちの意見と変わらないじゃないか! いや、それよりも酷い! 一つたりとも特別な提案がない!」

「世論です」

「これも世論!?」

「大きな声で語られる世論を子どもたちは理解出来ません。しかしそれを理解したつもりで大人びた顔で語ることが一種のステイタスで、大人たちはそんな世論を暗記している子どもを口々に褒めそやします。そう言う世論です」

「なんてことだ……」


「さて、次は誰に聞きますか? 箱を何処に置きますか?」

「……大臣」

「はい?」

「……君はどう思っているんだ!? 君は常に知的で冷静で、事態を俯瞰している。君ならこの最悪の状態の解決案が解かるんじゃないのか!?」

「…………」

「大臣!」

「……では一つ、王に質問を」

「なんだ!」

「王はいつも仰います。『この国の状況は最悪だ』『最悪の状態だ』と。恐れながら窺いますが、この国は一体どう最悪なんでしょうか?」

「――え?」

「問題提起が山のように為されているのは知っています。個人個人の資質もあるでしょう。ですが、そのような細かい話ではなく、この国の憂えるべき将来とは一体何なのでしょうか? そしてそのビジョンは、王自身の器から見出されたものなのでしょうか?」

「…………」



「王。貴方の仰る『この国は最悪だ』と言うのも、また――世論なのです」



「わ、私が、世論に流されていたと? この国を憂いていたのは間違いであったと?」

「意見としては正しいかもしれません。ですが、流されていたのは事実です」

「…………」

「出過ぎたことを言いました」

「……で、では矢張り君に聞きたい! どうすれば良い!? 私はどうすれば良いのだ!?」

「残念ですが、私には答えられません」

「何故だ!?」







「……そんな風に社会と世論を俯瞰して、傍観者を気取っている私。


 ――所詮。それもまた、世論だからですよ」



■□■




この作品を書いている途中で、『鳩山首相のツィッターのコメントを政策に反映』と言うニュースが流れました。

びっくりタイムリー。

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