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ジム・プリマスのポテチ  作者: ジム・プリマス


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聖フランチェスコについて

 聖フランチェスコはイタリアの裕福な商人の子として生まれました。

 フランチェスコが青年になったとき、キリスト教の聖地、エルサレムがイスラム教徒に奪われたために、ローマ法王の命により、エルサレム奪還のために十字軍が編成され、ヨーロッパ各国はエルサレムへと軍を派遣しました。

 騎士にあこがれていた若く多感なフランチェスカは理想に燃え、十字軍の遠征に加わり、エルサレムへとむかいました。しかし、戦場に着いたとき、フランチェスコの目に映ったのは、理想とははるかに隔たった、戦争という悲惨な現実でした。

 疲弊した兵士、次々と傷ついては死んでゆく仲間たち、そして飢えと渇きによる略奪、疫病の蔓延、女性への暴行など、それは若く多感なフランチェスコにとっては、あまりにも耐え難いものだったのでしょう。

 当時のイスラム教徒の軍隊は勇敢で、長期の遠征により士気の落ちた十字軍は劣勢を余儀なくされ、とうとう撤退することになりました。幸運なことにフランチェスコは命をとりとめ、命からがら自分の故郷にたどり着きました。

 

 あまりにも悲惨な体験をしたフランチェスコは、廃人同様となり、夢遊病者のように故郷の町を彷徨うようになりました。そして、或る日、突然、フランチェスコは自分の着ていた服を群集の前で脱ぎ捨て、裸のままで自分の家に帰ると、父親の大切な財産であった金貨や宝石を窓から放り投げ始めました。群集はその金貨や宝石を奪い合い、父親はフランチェスコを激しく罵りました。


 人々はフランチェスコは頭がおかしくなったと口々に噂しました。しかしフランチェスコはそんな町の人々の言葉など、まったく意に返さず、恵んでもらったぼろ布を身にまとい、町外れにある荒れ野に向かうと、毎日のように石を拾ってきては集め、それを積み重ねてゆくのです。彼の仲間たちはそんな彼の奇行を心配して、何故、そんなバカなことを繰り返すのかと彼に尋ねると、フランチェスコは教会を建てるんだと、子供のような澄んだ目をして答えるばかりでした。

 仲間たちは仕方なく食べ物だけを彼のために置いてゆき、彼のするがままにまかせました。

 フランチェスコは雨の日も、風の日も、まるで子供が積み木遊びをするように、石を積み重ね続けました。彼の仲間たちは、ことあるごとに彼に商人である父親の後を継いで、ふつうの生活に戻るように説得を繰り返しましたが、フランチェスコはそれを意に返そうとはしませんでした。

 

 彼の仲間たちは、何度もフランチェスコの元を訪ねるうち、彼が本当に楽しそうに石を積み重ねている姿を見ているうちに、何故か、次第にフランチェスカの仕事を手伝いたくなっている自分自身の想いに気づきました。そして自然に彼の仲間たちは自分の仕事の合間を縫っては、フランチェスコの仕事を手伝うようになりました。そして、一人、二人とその数が増えてゆき、しまいには彼のことをきちがい扱いしていた町の人々もフランチェスコの仕事を手伝うようになりました。

 

 町のレンガ職人たちはフランチェスコが積み重ねた、拙い石組みの上に漆喰をぬり、大工たちは、その石組みの上に屋根を葺き、そして町のおかみさんたちは、娘たちにも手伝わせて、天幕を縫いました。

 そして、それは小さく、決して立派なことはありませんでしたが、教会らしきものが出来上がっていったのです。

 そしてフランチェスコを中心にして町の人々は、その教会に集まっては、いろんな話をしたり、聖書を読んだりするようになりました。いつしかフランチェスコと町の人々が建てた教会は町の人々の憩いの場になっていったのです。

 

 そこは不思議な場所でした。みすぼらしいのですが、ここにくると、みんな不思議に気持ちが和むのです。フランチェスコは町の人があつまって、いろんな話をしたり、みんなが聖書を朗読する姿を、ただ黙って静かな微笑を浮かべながら見ているだけでした。

 しかし、ある時、他の教会から、町の人々が建てた教会は異端であるとの密告が法王の元に届きました。当時の教会は信者たちに多額の寄付を課し、貴族や一部の裕福な商人だけが集まる場所だったのです。

 異端審問を受けた、町の人々の教会は閉鎖されることになりました。町の人々は口々に異端審問に対する不満を口にしましたが、フランチェスコは黙って、その姿をみているだけでした。

 

 フランチェスコはある朝、突然、いつも着ているぽろ布を身にまとい、旅立ちました。フランチェスコは仲間たちにも、町の人々にも何も告げず、突然、姿を消しました。

 町の人々はみんなで相談して、みんなでお金を出し合って、最初にフランチェスコの仕事を手伝い始めた八人の仲間を代表にして、彼を探しにゆかせることにしました。

 

 彼らは簡単にフランチェスコをみつけることができました。フランチェスコはいつも着ていたぼろ布を身にまとい、裸足で歩いていたからです。仲間たちは彼のことを心配して、口々にどこにゆくのかと尋ねると、フランチェスコはにこにこ笑いながら法王様に会いに行くんだと答えました。当時の法王の権力は絶大で、ヨーロッパ各国の国王よりも強い権力を持っていましたから、それは大変なことだったのです。

 仲間たちは、フランチェスコにそんなバカなことはやめるように言いましたが、それでもフランチェスコはローマへの歩みを止めようとはしませんでした。仲間たちは仕方なく彼の後を追い、いっしょに旅を続けました。

 

 ある町にさしかかった時、その町の近くを流れている川まで来ると、フランチェスコは町の人たちが見ている前で平気でぼろ布を脱ぎ、素っ裸になると川で身体を洗い始めました。見知らぬ町の人々は、そんなフランチェスコの姿を見てお腹をかかえて笑いあいましたが、でもフランチェスコが本当に楽しそうに、気持ちよさそうに身体を洗っている姿を見た八人の仲間たちはフランチェスコと同じように服を脱ぎ捨て、一斉に歓声を上げながら川に飛び込みました。

 彼らはフランチェスコ以上に楽しそうで、まるで子供たちが水遊びをするようにお互いの身体に水をかけあい、はしゃぎ始めました。するとそれを見ていた見知らぬ町の子供たちも服を脱いで川に入ろうとするので、町の大人たちは子供たちが川に入ろうとするのを慌てて止めなくてはなりませんでした。フランチェスコはそんな子供たちの姿を見て、静かに笑うのでした。

 

 ローマへの旅は辛く、険しいものでしたが、いつしか仲間たちもフランチェスコと同じようにぼろ布をまとい、裸足で旅を続けたのです。寒いときには互いの身体を寄せ合い、そして晴れた日には彼らは、まるで子供のように喜びました。

 

 そしてついにローマに達した一行は法王のいるバチカンを目指しました。バチカンに着いた一行は早速、法王に謁見を求めましたが、当然、それは拒否されました。しかし、心ある神父の一人が、ぼろ布をまとい、裸足で旅を続けてきたフランチェスコ一行が法王に謁見を求めてきたことを密かに法王に告げましたが、法王は意にもかえそうとしなかったことは言うまでもありません。

 その日の夜、法王は不思議な夢を見ました。身体にぼろ布をまとった男が傾いたバチカンの宮殿を一人で支えている夢でした。そのことがあまりにも気掛かりになった法王は翌日、フランチェスコ一行に謁見を許すように伝えました。

 

 法王は威厳のある姿で黄金の玉座に座り、フランチェスコ一行を迎えました。しかしフランチェスコも、仲間たちも、法王の威厳のある姿にたじろぐこともなく、恐れることもなく、ただ子供のような笑みを浮かべているだけでした。そして、フランチェスコの澄んだ瞳は、何故か法王に酷く懐かしい想いを抱かせたのです。

 いつの間にか法王は黄金の玉座を降り、自分の被っていた王冠をぬぎ、自分でも何故だか分からないままフランチェスコの前にひざまついていました。そして、法王は、その傷だらけで泥だらけの汚れたフランチェスコの両方の素足に口づけをしました。

 その後、法王はフランチェスコを正式な司祭として認め、フランチェスコと町の人々が建てた教会を異端とする異端審問を覆し、そして、それは今日のフランチェスコ会として受け継がれているそうです。

 

 聖フランチェスコに関する逸話はいくつか残っていますが、一つだけ付け加えておきましょう。晩年のことですが町の周りに狼たちが集まり、町の人たちが飼っている家畜を襲うので、困った町の人たちは正式な司祭となったフランチェスコに相談しにゆきました。するとフランチェスコは狼たちと話をしてみると言い残して、狼たちのいる町外れの荒れ野に向かいました。すると不思議なことに狼たちはフランチェスコを襲うこともなく、自分たちの仲間にするように、ただ身をすりよせてくるだけでした。

 フランチェスコは町の人たちに、自分たちの食べ残した家畜の肉と骨の残りを集めて、町外れの荒れ野に置くように言い、町の人たちがそのとおりにすると狼たちは町の人々の飼っている家畜を襲うことはなくなったそうです。

 フランチェスコは後の世の人々に、最もイエス・キリストに近づいた聖人であると言われました。


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